第一回会議 2
―――――――――1597年4月30日 大坂城 浅井井頼―――――――――
「では南蛮で訪れる国はイスパニア・英蘭・仏蘭西・トスカーナ・羅馬ということで。次に南蛮に行くまでに訪れる国を決めます」
そう言いながら高山国の下の方を指し棒でたたく。
「我々は陸路にて薩摩の坊津まで向かいます。そこで興元殿が仰った巡洋艦壱岐に乗り、琉球・高山国を訪れます。これから決めるのはその先です。いまのところ出ている候補としましては天竺・暹羅・アチェ・波斯です。他に何かよるべきと御考えの国はありますか」
「手前からよろしいでしょうか」
最初に意見を言ったのは直文だった。
「バンテンという国をご存知でしょうか。良い湊を持ち、南蛮人が欲しがる香料を生産している国です。この地に交易の拠点を置けば多くの国と交易をおこなうことができるでしょう」
人が多く集まると言うことはそれだけ商談の機会があるということだ。九十九としてこの機会にはぜひとも押さえておきたい場所なのだろう。
「他に何か提案がある方は」
「マギンダナオという国はご存じだろうか」
次に発言したのは宗矩殿だった。
「呂宋の南にある島にある国です。なかなか強力な国なようで周辺の島々を制圧しているイスパニアでもまだ手を出せていないようです。同盟を結んでおけば万が一、イスパニアと敵対して呂宋を攻めることになった時は南から牽制できるため陸軍奉行所で利用できないか検討していると聞いたことがあります」
あれ、そう言ったことは陸軍に所属している宗矩殿の耳には入らないはずでは。先代様が戦を実際にする陸軍と戦略的作戦や編成といったものを考える陸軍奉行所に分けた意味がないような。そうか。柳生は多くの武士に剣術を教えている。その中に陸軍奉行所の者もいたのだろう。
「興元殿、いま上がった国々をまわるとなるとどのような航路になるだろうか」
「そうですな。まずマギンダナオ、次にバンテン・アチェ・暹羅・天竺・波斯といったところでしょうか。しかしこれだけの国々をまわって、なおかつ南蛮諸国を巡るとなると相当の月日がかかりますぞ」
「そうでなくとも各々、御屋形様よりなんらかの命を受けておられるのであろう。時間をかけすぎるというのは」
調長の言葉に思わず声が出そうになった。各々受けている命ってなんだ?そんな話は聞いていないぞ。
「その各々が・・・」
気になって聞いてみようとしたところで終業を告げる鐘がなる。
「おや、いつの間にそんな時間に。では今日はこの辺りでお開きとしましょう。次の会議では滞在時間などについて決めましょう。それでよろしいですか、井頼殿」
「えっ、えぇ。そうしましょう。では皆さん、お疲れ様でした」
「「「お疲れ様でした」」」
挨拶をすると皆、ぞろぞろと部屋から出ていった。さて、俺もとっとと帰ろう。
「井頼殿」
自分の手荷物を纏めて部屋を出ようとすると、外から小姓が声をかけてきた。
「御屋形様がお呼びです。至急」
「御屋形様が?すぐに行きます」
いったい何の御用だろうか。今日の会議の様子でもお聞きになるおつもりなのだろうか。しかしそれくらいであればあとで書面で提出させればいいだろうに。
「御屋形様、浅井井頼です」
「入れ」
「はっ」
御屋形様に促されて部屋に入る。部屋にはかなりの量の書類が積まれていて御屋形様は手元の書類に何か書き込んでおられる。
「御忙しいようでしたらまたあとで参りますが」
「いや、いい。それよりどうだった」
「今日の会議でございますか。今日の会議では訪れる国を」
「あぁ、いや。そういうことを聞いているんじゃなくてな。うまくやっていけそうか」
御屋形様は書類から目を離さずに尋ねなおされる。
「まだ最初ですので皆、少し遠慮があったように感じます。噂で聞く範囲ではもう少し自由な方々と聞いておりましたので。もう少しして慣れてくればうまくいくかどうかわかるかと」
「そうか」
「あの」
あのことについては今しか聞く機会はないはず。思い切って聞いてみよう。
「御屋形様が個別に何かしらの命を下されたと聞きました。いったいどのような」
「ん?言っていなかったか」
そこでようやく書類から目を離してこちらを見る。
「そうか、それはすまんな。見てのとおり仕事が多くてな。やったこととやっていないことがごっちゃになることがある」
そうおっしゃられながら近くの棚から書類を探し始める。手伝おうと腰をあげたがすぐに無用と手で制された。
「あった、これだな」
すぐに見つけられたのか、棚から書類を一枚取り出される。
「えっと、まず調長は南蛮の技術の入手だな。あいつは特許局で働いているからそれなりに技術に関しては知識がある。何が必要か見分けることができるだろう。宗矩は南蛮やそれ以外の国々の軍事力の調査だな。万が一敵対するようなことになれば情報が多いに越したことはない」
なるほど。だから呂宋の南にある国に行きたいとか申されたのか。
「長信には南蛮の街並みを調べて絵にしてもらう。敵を知り己を知ればってやつだな。宗広も似たようなものだ。南蛮の城の弱点を調べる。興元には南蛮の水軍について調べてもらう。攻めてくるとすれば南蛮の水軍だろうしな。直文には南蛮人の奴隷を入手してもらう。それをもとに多聞衆を南蛮に送り込む」
なるほど、それはあまり表沙汰にできるものではないな。南蛮の不利になるようなことばかりだ。しかし私には何もないのだろうか。やはり私はお飾りのようなもので、失敗した時に責任を押し付けるにはちょうどいいから私が選ばれたのだろうか。
「あの、私には何もないのでしょうか」
「ん?」
「私は何を南蛮でして来ればいいのでしょうか。皆、何かしらの使命があります。なのに代表たる私には何もないというのは」
「なんだ、そんなの言うまでもないだろう」
「えっ」
「お前の使命はただひとつ、皆を無事にこの国に連れて帰ることだ」




