第一回会議 1
―――――――――1597年4月30日 大坂城 浅井井頼―――――――――
円を作るように座りながら変な汗が出てきた。
「えっと・・・」
気まずい。めちゃくちゃ気まずい。何で誰も話さないんだ。まだ興元殿が来ていないから会議が始められないとはいえ、何か雑談ぐらいしてくれよ。若いんだからもう少し後のことは考えずに話しかけて来いよ。私は嫌だけど。
ちらっと周りを見る。右隣の調長殿は眠っているんじゃないかと思うぐらい目を閉ざしてじっとされている。その隣の宗矩殿は禅を組んでいるためおいそれと声をかけられる気がしない。左隣の長信殿は先程から先代様の命で貸し出された長谷川等伯殿が書かれた草花の本を喜々として読んでいる。宗広殿は部屋を出たり入ったりしながらあちこちを見ている。その隣に座っていた直文殿は来た時からずっとにこにこしているだけ。一番話しかけやすそうだが残念なことに真反対に座っているため、声をかけるには少し距離がある。いや、少し遠いぐらいなんだ。ここで声をかけなければ興元殿が来るまでずっと気まずいままだぞ。よし、声をかけよう。
「いや、申し訳ない。遅れもうした」
人の決心を無にするかのように興元殿が入ってきた。いや、来てくれたのであればいいんだけど。
「いえいえ。皆、早く来てしまっただけです。御気になさらず。それでは始めましょうか」
そういうと各々、自分がやっていたことをやめて姿勢を正す。
「ではこれより第一回遣欧使節団会議を始めます。よろしくお願いします」
「「「よろしくお願いします」」」
「では軽く自己紹介から始めましょうか。まずは私から。代表の浅井井頼です。普段は外務奉行所で働いています。御屋形様の命により今回の使節団の代表を務めさせていただくことになりました。よろしくお願いします。では右回りで自己紹介を」
「杉村調長です。今回の使節団の副代表を務めることとなりました。普段は産業奉行所特許局にて働いております。よろしくお願いします」
特許局といえば先代様肝煎りの部署。前局長の安忠殿もそのあと栄転して、今は文部奉行所次官を務めておられる。いずれは調長殿もそうなるのだろうか。
「柳生宗矩と申します。普段は陸軍第1師団隷下第1歩兵連隊第1中隊長。階級は大尉。今回の使節団では第1中隊100名が陸上での護衛を務めることになります。南蛮の武士と試合ができるかもしれないと聞き参加を志願しました。よろしくお願いします」
歳を考えるとかなり出世が速い方だろう。しかも第1師団は御屋形様が出陣される際にその近くを守る。陸軍であればだれもが目指す部隊だ。
「手前は鴻池直文と申します。株式会社九十九より派遣されました。基本的に酒の方を担当しておりました。御屋形様には新たな商いの相手を見つけてくるよう命じられております。皆さまも宴会などをされる際はぜひ九十九を」
九十九の中でも酒は確か主力商品の一つだったはず。まぁ主力商品は数あるのだが。しかしそれでもその一つを任されるとはなかなか才気のあるものなのだろうな。
「自分は細川興元というもの。普段は連合艦隊隷下第1艦隊第3戦隊所属の巡洋艦壱岐の艦長を務めている。階級は大佐。壱岐は今回の使節団を乗せる船でもある」
この中では最年長だな。しかも階級は大佐か。歳も地位もこの中で一番上。なんで私が代表なんだろう。
「甲良宗広です。ただのしがない大工です」
「狩野長信にございます。狩野派の代表として参加させていただきます。ま、実際のところは狩野派から誰か出せという話があった際にほかの方がやりたがらなかっただけなのですが。幕府が所有する多数の有名な絵を閲覧できると聞き志願しました」
ずいぶんとあけっぴろげな人だな。狩野派がこの話を聞けば慌てるだろうな。誰もやりたがらなかったなど外に漏れたら御屋形様の不興を買いかねん。実際に譜代の調長殿も眉をひそめているが、長信殿は特に気にされている様子もない。
「では今回の会議では立ち寄る国を決めます。まずはこちらの地図を」
そう言って円の中心に地図を広げる。
「御屋形様の命により、イスパニア以外の南蛮の国に最低2つは立ち寄ることになっています」
そう言いながら地図の南蛮にあたる場所を指し棒で叩く。
「候補としましてはイングランド・フランス・トスカーナ・ローマといったところでしょうか」
「水軍としては」
真っ先に意見を言い始めたのは興元殿だった。
「海に面している国がいい。万が一の時に逃げやすい。それに南蛮のキリスト教は2つの宗派に分かれて争っていると聞く。どちらかの宗派に絞った方が良いのではないか」
「そもそも伝手はあるので?それがないのであれば会えない可能性が高いのでは」
「その点に関しましては九十九が。商い相手に紹介をしてもらえます。また天竺などにいる宣教師たちにも紹介してもらえます」
宗矩殿の疑問に直文殿が答える。それ以外にも多聞衆が協力してくれることになっている。
「手前としましては、できるだけ多くの国を巡るのが良いと考えております。日ノ本には南蛮にないものを持っています。多少宗教上の不満があっても我慢するでしょう。なんでしたら適当な嘘をついてその場を乗り切ればいいのです。幸いなことに偽書作りは惟宗のお家芸。どちらかの宗派を優先する必要はありますまい」
「うーん。では南蛮に関しては先ほど挙げた候補全てにするということで良いのではないでしょうか」




