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浅井井頼

――――――――――1597年4月1日 大坂城 浅井井頼―――――――――

「お前が浅井井頼か、面をあげよ」

「は、はっ」

御屋形様に促されて顔をあげる。遠くから顔を拝見したことはあったがこんな近くで、しかも私に声をかけていただけるとは。


浅井は昔、惟宗家と敵対していた。それを父上が爺様と敵対して惟宗に降伏することで浅井家を存続させることを選ばれた。並大抵の決断ではないだろうな。しかし敵だったこともあり、そこまで重要な地位に就くこともなかった。織田の血を引く兄を廃嫡して私に家督を継がせたりといろいろしていたが、先代様と将棋を打つこともなかったと聞く。


そのせいか、ほかの大名たちからも軽んじられているように感じる。それは外務奉行所で働いているときもそうだ。あまり重要な仕事を任されていない。もちろん私が若いのもあるだろうが。それがようやく御屋形様に御目通りできるまでになった。家臣たちもようやく許されたと喜ぶだろう。


「それでお前を呼んだ理由だがな、最近はちと暇をしているらしいではないか」

「暇と言いますか、なんといいますか、手が空いているのは事実にございます」

「そうかそうか。お前の話は次官の頼房から聞いている」

「ありがとうございまする」

頼房殿が、ありがたい話だ。頼房様には境遇が似ていたこともあってか、よくしていただいている。私もあのようになりたいものだ。

「なかなか優秀で度胸もあるとか。そのお前に仕事を任せたい」

「どのような仕事でもこの浅井井頼、十全に果たして見せまする」

せっかく功績を積む機会を与えられるのだ。どんな仕事でも果たして見せる。

「そうか。頼もしいな。では南蛮に行ってくれ」

「はっ・・・は?」

えっ、今南蛮と仰ったか。いや、きっと気のせいだ。だって南蛮って。はははっ、ないない。

「申し訳ございません。どうも聞き間違えたようです。もう一度お願いします」

「南蛮に行って、南蛮諸国に日ノ本の存在を示して来い」

「な、南蛮にございますか」

喜んでいいやら悲しんでいいやら、どうやら耳の方は正常らしい。

「外務奉行所にいるのだから、多少は話を聞いているだろう。この間の評定で正式に南蛮諸国に使者を派遣することが決まった。と言っても、さっき言ったように日ノ本という国を知ってもらう事が目的だ」

「し、しかしなぜ私なのでしょうか。そのような重要な役割は他の方にお任せする方が」

「南蛮諸国と複数の国に向かう以上、外務奉行所の大半が身につけているイスパニアの言葉だけでは駄目だ。複数の言語を使えるか、広い地域で使われている言語を使えるかでなければならない。その点、お前はラテン語とやらを話せると聞いた」

しまったぁああああああ。敵対していた家だからあまり目立たない方がいいと思って、よく使うイスパニアや唐土の言語を覚えずにラテン語を覚えたのが裏目に出てしまった。余計に目立って同僚たちに目をつけられてしまうかもしれない。

「これが1つ目。2つ目は若くて度胸があると聞いたからだ。南蛮は遠い。道中で南蛮以外の国によりながら目指すのだから余計時間がかかるだろう。年寄りには無理だな。出来たとしてもその経験を戻ってすぐに死なれては活かすことができない」

若いと言われてこれほど嫌だと思ったのは初めてだな。

「3つ目は宗教に対して無関心であること。南蛮ではキリスト教が大きな影響力を持っている。仏教を信ずるものが使者として赴けば何かしらの問題がおきよう。しかし切支丹であったら南蛮に取り込まれるやもしれん。そこで宗教に無関心なお前を選んだのだ」

よし、このあと教会に行って洗礼を受けよう。あぁ、でもそれだと家臣たちがせっかくの出世の好機なのにと悲しむだろうし。

「もちろんお前だけに任せるつもりはない。特にキリスト教の対応は切支丹に任せた方がいいだろうしな。使節団にはお前を代表に切支丹の細川興元、日ノ本の武威を示すために柳生宗矩、南蛮の絵の技術を得るために狩野長信、九十九からは鴻池直文、南蛮の建築技術を得るための甲良宗広、譜代を代表して杉村調長。他にも水軍奉行所をはじめとした各奉行所に協力するよう命じてある」

浅井より石高の高い興元殿に、剣豪の嫡男、狩野派の棟梁の弟に、佐須の血を引く譜代の次期当主。それだけの人がいながらなぜ私が代表なのだ。しかしすでに各奉行所は動き出している。ここで断れば改易は間違いない。かと言って引き受けて失敗でもしたら・・・いや、失敗した時のことを考えて行動できるか。もうやけくそでも何でもいいから絶対成功して見せる。

「必ずや成功させるのだ、井頼」

「ははっ。命に代えましても必ずや御屋形様に良き知らせを持ってまいりまする」

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