食い違い
――――――――1596年11月10日 中村城 相良頼房―――――――――
「話には聞いていたがかなり繁栄しているな。小京都と謳われるだけのことはある。この前行った京にも見劣りしないぞ。さすが叔父上だ。あんなに忙しいのに領内も十全に治められるとは」
「左様ですな」
「ありがとうございます」
若様と私の言葉に案内人の但馬守が礼を言う。
あまり大坂から出たことがないからか、若様はきょろきょろしながら周りの様子を見ておられる。本来の予定では、今頃は東海道の辺りを視察されている予定だったのだが。天災のせいで各地の視察に行けなくなったが、天災のおかげで土佐の視察を行うことになった。さらに南蛮人との交渉も任される。人生塞翁が馬とはよく言ったものだ。
「しかし南蛮人も哀れだな。せっかく国に帰ろうという時に野分に会うとは。しかも言葉はろくに通じない日ノ本。せめて呂宋で遭難したかったであろうな」
「他所で遭難すれば積荷を奪われかねません。むしろ日ノ本であったことは幸運だったでしょう」
「積荷の管理の方は問題なさそうだったか?」
「問題ないようでした。船の修理代はその積荷の一部をあてるようです」
半分以上は船の修理代になるだろうが、これでもかなりまけているほうだ。
「日ノ本の銭を持たん以上仕方ないな。修理は何時ごろ終わるのか?」
「早くても来年以降でしょう。それまでの滞在費も積荷から出させます」
儲けるべき時は容赦ないな。摂関家の御当主となられても惟宗の、先代様の血を引いているということだろう。若様も家督を継がれたらそうなられるのだろうか。家臣たちもそのあたりの葛藤はないのだろうか。相良では、武士ならば戦働きをしてこそと考えているものと、いかに領内を発展させて儲かるかが武士の仕事と考えるもので半々だ。前者は父の件もあって惟宗をあまり快く思っていないのだろう。年寄りが多いのがその証拠だ。
「こちらにございます」
但馬守が連れてきたのは南蛮人たちとの交易の際によく使われているという建物だ。この建物は内貞様が交易をおこないやすいようにするために作られたらしい。
「通訳はすでに中にいるのか」
「はい。南蛮人たちもすでに」
「そうか」
いよいよ南蛮人たちとご対面か。
部屋に入ると二人の南蛮人と通訳ががすぐに南蛮の椅子から立ち上がり平伏する。南蛮の椅子と机か。最近は足がしびれないでいいから大坂城でも少しずつ取り入れられている。若様と私はすぐに南蛮人の反対側の椅子に座る。
「面をあげよ」
「はっ」
通訳が返事をして顔をあげる。その様子を見て南蛮人も顔をあげる。どうやら日ノ本の言葉は全く分からないようだな。
「ま、とりあえず座れ」
「Puedes sentarte.」
通訳に促されて南蛮人たちが座る。さて、ここからは私の仕事だな。
「さて、まずは何から話すか。外務奉行所次官、相良頼房だ」
「Soy Yorihusa Sagara, subsecretario del Ministerio de Relaciones Exteriores.」
「Soy el capitán Matthias de Randecho.Quiero que cumplas tu promesa primero.」
「船長のマティアス・デ・ランデーチョです。まずは約束を守ってほしいと申しております」
「約束?何のことだ」
「De que estas hablando」
「Había oído que podía proteger la carga, pero de hecho fue confiscada.」
「積荷を没収されたと申しております」
「積荷はこちらで管理している。修理費に応じて積荷は銭に替えさせている」
「En lugar de reparar, recibirá un paquete.」
「Además, estamos detenidos.También es una habitación con esclavos.」
「さらに私たちは拘留されている。しかも奴隷と一緒です」
拘留?いちおう文句が出ないようにそれなりにいい部屋を用意していたはずだな。奴隷と一緒?奴隷なんていたのか。そのような話は聞いていないが。
「但馬守。奴隷がどうとか言っているが」
「そういえば肌が黒い船員は妙に身なりが汚かったような・・・しかし奴隷だという報告は受けていません」
「Mira esto.」
南蛮人は何やら言いながら懐から紙を取り出し、机に広げる。これは・・・
「地図か」
「のようですな」
しかし赤が多い地図だな。
「La parte roja es nuestro país.Este pequeño país insular es Japón.」
「赤い場所が彼らの国で、こっちの小さな島が日ノ本だと申しております」
「Si nuestro país lo desea, Japón será destruido de inmediato.Si no quiere ser así, debe aceptar nuestra solicitud.」
「私たちの国がその気になれば日ノ本は滅ぼされる。そうなりたくなかったら要求を受け入れろと」
脅しか。何を考えているのだ。どう考えても今の状況で脅してくるのは悪手だろう。だいたいこちらとしては当たり前の待遇を取っているだけだ。それを文句言われても。




