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サン・フェリペ号事件

――――――――1596年10月25日 一条邸 一条内貞―――――――――

「領内に船が難破しただと。どこの船だ」

「イスパニアの船のようです。もともとはルソンから南蛮人が言うところの新大陸に行こうとしていたようですが、野分に遭遇したようです」

一圓但馬守の報告に少し笑いそうになってしまった。なんというか運の悪い。しかし時期を考えれば野分に会う可能性ぐらい考えておいてもおかしくないだろうに。

「船は浦戸湾に曳航しましたが何分言葉が通じなかったためうまくいかず座礁してしまいました。船員たちは長浜にて待機させています」

「しかしその際に積荷の多くを海に流してしまったようです」

「そうか。とりあえず回収できる分は回収しておけ。誰かが勘違いして持って行かないよう、一覧を作って積荷には俺の印を押しておけ。それから船員の名簿も作っておけ」

「かしこまりました」

まったく、なんでこんな忙しいときに遭難した南蛮船の相手をしないといけないんだ。とりあえず誰かに押し付けよう。俺は公家の相手をせねばならんのだ。

「それからこのことを御屋形様にお伝えしろ。今回の件は幕府で引き取ってほしいともな。南蛮と何かあってからでは遅い」

「かしこまりました。すぐに使者を派遣しましょう」

「頼んだぞ。それからそのあとでいいから船員からも使者を出させろ。船の修理費は・・・船員たちにどうにかさせろよ。他の大名が銭を出そうとしたら阻止せよ。土佐で行っている交易を取られかねないからな」

「はっ」

藩にいる期間より京にいる期間の方が長いがこれでも藩主の一人だ。藩の財政には気を付けないといけないからな。幕府でもない限り、藩の利益を取られるのは気に食わん。利益が減るのも困るしな。

「では失礼します」

そういって但馬守が部屋から出て行った。京にいるだけでも面倒ごとなのに藩に戻っても面倒ごと。嫌な役割を負わされたものだな。ま、父上の命だ。息子に跡を譲るまで頑張るとしよう。たしか生まれるのは来月の予定だったな。男の子か女の子か、楽しみだな。



「右大臣様、依岡左京進にございます」

「どうした」

「二条昭実様が参られました」

二条が?何の用だろうか。いちおう二条は左大臣なので俺より地位は上だ。用があるなら俺を呼び出せばいいだろうに。

「通せ。それから何か菓子でも持ってきてくれ」

「かしこまりました」

そう言って部屋の外で左京進が動く気配がした。さて、とりあえずこの部屋を片付けないとな。


「失礼するでおじゃるよ」

そう言って昭実が入ってきた。無駄にたらたら入ってくるな。さっさと入れよ。

「お久しゅうございますな。地震が起こる前は土佐に戻っておりましたので。それでご用件は」

「此度の地震で多くの公家の屋敷や寺社が被害を受けたのは知っておじゃろう」

「それはもちろん。つい先ほどまで各屋敷の修繕に必要な額を幕府に報告するために書状をしたためていたところですので」

「その書状のなかに被害に遭った寺社の名はあるので」

まさかとは思うが寺社に援助をせよとでも言ってくるのではないだろうな。

「ございません。幕府は政教分離を掲げています。寺社を助けることはあり得ません」

「そこを何とかならんでおじゃろうか。今回被害を受けた寺社は皇室に関係深いところもある。それを助けるのが朝廷の家臣というものではないであろうかの」

「惟宗としましては各寺社が九十九から銭を借りる際に口利きをしてやる程度しかできません」

「帝の叡慮であってでもでおじゃるか」

「帝がそのようなお考えをお持ちなのですか。帝は聡明であらせられます。左大臣様に言付けを頼まれるより某に直接頼んだ方が確実に行われるとご存じのはず。本当に帝の叡慮なので?」

はっきり言って左大臣でこそあれ、朝廷での影響力は俺の方が上だ。俺の耳に入らないということは帝は周りの者に言っていないようだな。二条が勝手に言っていることか。それとも帝があえて二条に言ったか。帝から俺に直接言って断られたときに幕府との関係が悪化することを恐れられたか。とりあえずそこまで期待はされていないのだろう。断っても問題ないな。

「そもそも各寺社からは援助の要請は受けていません。要請を受けていないのに援助はできません」

正確に言えば要請は来そうだったが、その前に復興のための銭が無いなら九十九に借りろと先回りして言っておいた。これで要請が来るようであれば馬鹿の類だろうな。幕府が作った仕組みのせいで一つの寺の責任はその宗派の責任となる。周りが止めるだろう。周りも馬鹿でない限りだが。いや、そうでもないか。

「そういえば最近、二条や鷹司の家に僧侶が出入りしていると噂を聞きましたな。それから二条様は幕府の援助を受けずに屋敷を立て直されるとか。帝や幕府に誤解されないようお気をつけられた方がよろしいですぞ」

「わ、分かっておじゃる。貴殿に心配されるようなことはない。そもそもそのような根も葉もない噂には困っておったのじゃ」

「左様ですか。しかしここで二条様から被害を受けた寺社の修繕をという話があったと知られれば、皆どう思うか心配しておりましたが、根も葉もない噂でしたか。いや、これは失礼。この話は聞かなかったことにしておきましょう」

忙しいのに面倒事を増やしやがって。昭実にはそろそろ退場願った方がいいな。御屋形様への書状にもそのことを書いておくか。

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