慶長大地震
―――――――――1596年9月10日 大坂城 惟宗貞康―――――――――
「これはまた・・・ひどいことになっているな」
総務奉行の増田長盛から渡された被害状況の報告書を見て、思わず溜息が出てしまった。ほかの奉行や次官たちも顔をしかめたり、ため息をついている。まさかこれだけの被害が出てしまうとはな。しかもほぼ同時に西国の方でも地震が起きた。そのせいで被害の範囲が広すぎる。復興には時間がかかりそうだな。
「しかしかなり大きな地震だったな。まさか戦以外で1000人以上の人が死ぬことがあるとは思わなかった」
「左様ですな。被害が出たのが大坂・京といった人口が多い地域だったのも影響しているでしょう。火消がいなければ被害はもっと大きなものになっていたかと」
「京の方は大丈夫だったのか。大名火消がいないだろう」
さすがに公家火消なんてものは作れないからな。あの走ったこともなさそうな奴らが火消の現場にいたら邪魔なだけだ。
「大坂よりは火事による被害が大きかったようです。公家の屋敷の被害は内貞殿に調べていただいていますが、被害は大きいようです」
「そのうち銭の無心が来るだろうな」
「それだけでなく、寺社でもかなりの被害が出ているようです」
文部奉行の藤孝の言葉に、皆が納得したように頷く。最近の寺社は父上が作られた仕組みのせいで銭不足が慢性化しているからな。寺の修理などに銭を回せていないのだろう。
「東寺・天龍寺・二尊院・大覚寺といった有名な寺社が被害を受けたようです。場合によっては自力での復興が難しいところもあるかと」
「東寺は主要堂塔の再建を始めたばかりだろうに。間が悪いな」
「二尊院は二条・三条・三条西・鷹司といった有力公家の墓があるなど、朝廷とのかかわりが深い寺です。また大覚寺門跡は空性法親王、帝の御兄弟です。朝廷から支援の依頼が来るやもしれません」
「面倒だな。ただでさえ復興で時間も銭もかかるというのに」
どうしたものか。父上は徹底的に政から宗教を遠ざけられた。それは引き継ぐべきだろう。しかし、再建を断れば朝廷はもちろん、大名や民からも反発があるだろうな。どうしたものか。
「とりあえず被害の程度に応じて税は軽くする。それから・・・幕府が仲介して九十九に融資をさせよう。そこからは寺社側の努力次第だな」
大名に銭をねだるのもよし、信者たちから少しずつ寄進してもらうもよし。税さえちゃんと払って法律を守ってくれれば幕府がどうこう言うつもりはない。
「大名たちの被害はどうだ」
「最初の地震で河野家が治める伊予に甚大な被害が出ています。それから相州島津家が治める薩摩にも津波が発生したようです。二度目の地震では被害が大友家の豊後に集中しています。数年間の減収は免れないでしょう。三度目の地震は伊勢家が治める讃岐でも強い揺れが生じたようです。畠山が治める紀伊でも被害が出ているようです」
「河野に島津に大友か、惟宗に近しい大名が多いな」
河野は父上の側室を出した家、相州島津家は家が違うといえ、兄弟が陸軍次官の義辰と陸軍参謀長の歳久だ。大友は言うまでもなく、伊勢は奉行を務めた。まあ、西国で地震が起きたから仕方ないか。しかし惟宗に近しい大名が固まっているのはあまりよくないな。これを機会に大名たちの国替えを進めるか。
「とりあえず被害が大きかった大名は今年の税は免除にしよう。それから今回の地震で被害が出た街道の整備を東国の大名たちに命じるか」
「それがよろしいかと。しかし東国の大名からしてみれば不平等に感じるやもしれません。ある程度西国の大名たちが復興しましたら、彼らにも何らかの手伝い普請を命じるべきではないでしょうか」
「三成の言う通りだな。西国の大名たちに伝えておいてくれ。それから費用が足りない場合は九十九から借りるよう伝えておけ」
大名たちが九十九から銭を借りれば借りるほど幕府に歯向かうことは難しくなる。借金を踏み倒そうにも九十九の筆頭株主は幕府、借金の踏み倒しは幕府に歯向かうも同然。
「ほかに今回の地震について報告がある奉行所はあるかな」
「内務奉行所からよろしいでしょうか」
「どうした、三成」
「今回の地震を機会に、京の町を整備しなおそうかと考えております」
「京の町の整備だと。たしか、前に提案していたが公家が反対して潰えた計画のことか」
「はい。現在の京の町の作りは荒廃した土地を放置していたりと無駄があり、また公家の屋敷が散っていては何かと不便でしょう。そのため公家の屋敷を集めた公家町を設置します。これにより公家の監視も容易になるかと。また朝廷を重んじているという姿勢を見せることもでき、朝廷に縁がある寺社の修繕を朝廷が言いにくくすることも可能かと」
「うむ、いいのではないか。すぐに細かい計画書を内貞と相談して作ってくれ。西国の大名たちの手伝い普請としても使えそうだしな」
「はっ」




