呂宋からの使者
―――――――――1594年3月10日 大坂城 惟宗長康―――――――――
「Gusto en conocerte.Soy Juan Cobo de Luzón.」
「お初にお目にかかります。呂宋から参りました、フアン・コボです。と申しております」
南蛮人が何かしら言って頭を下げると側の通訳がすぐにそれを訳する。これが南蛮人か。初めて見たな。
「よく来たな。面をあげよ」
「Levanta la cara.」
父上の言葉を通訳から聞いてフアン・コボが顔をあげる。なんだか顔がでこぼこしているな。日ノ本の民とは顔立ちがちがう。
「それで今回はどのような要件だ」
「¿Qué puedo hacer por usted?」
「Traje Gobernador y Capitan General de las Islas Filipinas libro de sus padres.」
「新しくルソンの統治者からの手紙を持ってきたとのことです」
通訳がそういうとフアン・コボが側に置いてあった手紙を通訳に渡す。通訳はその手紙を小姓に渡して、小姓はその手紙を父上の前に運んだ。どんな内容なのだろうか。イスパニアは惟宗と交易をすることで儲けているはずだ。まさか変なことは言ってこないだろうが。そもそも日ノ本の言葉なのかな。
「御屋形様、書状にはなんと」
皆を代表して康正大叔父上が尋ねる。
「新しくルソンの統治者になったからよろしくということと、遭難した船の乗員と積荷を保護してほしいとのことだ」
前者はただの挨拶、本題は後者か。
「日ノ本には、漂着した船舶はその土地の領主の所有に帰するという古来の習慣がある。だから難しいだろう」
父上の言う古来の習慣とは廻船式目のことだろうな。
「Hay una antigua ley de que el barco que se desvía es devuelto a la posesión del señor de la tierra. Así que no puedo prometerte eso.」
「しかしそちらが日ノ本の船の乗員と積荷を保護してくれるのであれば、検討しよう」
「Pero si estás protegiendo a la tripulación y la carga de los barcos japoneses, considéralo.」
そうだよな。こちらに要求するだけで向こうは何もしないなんて虫が良すぎる。これが惟宗と大名であれば問題ないだろうが、惟宗とイスパニアの関係では無理だな。
「Entiendo. Me aseguraré de aceptar la condición por mi culpa.」
「自分の責任で必ず認めさせるとのことです」
「そうか」
これで日ノ本の民がより交易がしやすくなるだろうな。父上も鎌倉の世から続く廻船式目を変えたいと考えていたんじゃないかな。しかし廻船式目を変えるとなると、大名たちの利権がまた一つ減ってしまうことになる。だからきっかけが欲しかったんだろう。こういうところを見習わないとな。
「長康、いい機会だからこの者に何か聞いてみたいことはないか」
「へっ、聞きたいことですか」
急に父上に話しかけられて思わず聞き返した。
「別に何でもいいぞ。向こうも次期鎮守府大将軍の人柄を知りたいだろうしな」
「そうですね・・・」
うーん、何を聞こうかな。やっぱりイスパニアについて知りたいところだよな。それとルソンについても。あとはキリスト教についても知りたい。よし、聞くことは決めた。フアン・コボの方を見ると通訳が何か言っている。たぶん俺のことについて教えているのかな。
「ルソンはどれほどの人が住んでいるのか知りたい。できればどこの国の者かも」
「¿Cuántas personas viven en Luzón?」
「No sé el número exacto, pero parece ser decenas de miles de personas, incluyendo japonés. Hay unos 3.000 japoneses.」
「正確な数字は分からないが数万人ほどで、日ノ本の民は約3000人ほど住んでいると」
「イスパニアはどのようなところなのだ」
「¿Cómo es tu país?」
「Es un gran país con muchas colonias en el Nuevo Mundo. Su poder no tiene enemigos en Europa, y la majestuosidad del gran rey Felipe es bien conocida en el país y en el extranjero. Los herejes temen a su prestigio.」
「新大陸に多くの領地を持つ大きな国で、その力は周辺国において敵はおらず、フェリペ国王の威光は国内外に知れ渡っており、敵はその威光を恐れている。と申しております」
ふうん、敵はいるのか。大きな国ではあっても敵をすべて倒すだけの力はないのか。ま、それだけの力があれば琉球を攻めた時の兵はもっと多いか。やっぱり他国の情報を知るにはその国の物より多聞衆の方が客観的だな。




