済州島
―――――――――1592年6月10日 大坂城 惟宗貞康―――――――――
「朝鮮からの使者?」
「はい。九十九の傭兵たちに連れられながら対馬に来たとのことです」
康正叔父上の報告を聞いて少し考える。用件はどう考えても和睦だろうが、なんでまたこの時期に。もちろん九十九の攻撃に耐えかねてきたということだろうけど、一度ぐらいは勝ってからじゃないと他の家臣たちに示しがつかないだろうに。いくら家臣たちが主導した戦とはいえ、朝鮮王の権威を損ないかねない。せめて一回ぐらいは勝ってから和睦をと言ってくると思ったのだが。まさかとは思うが九十九が負けたのを隠しているわけではないだろうな。可能性としてはまったくないということはないだろう。九十九に雇われているということは元浪人。父上に滅ぼされた大名の家来だった可能性は十分にある。たしか傭兵部門の責任者は加藤教明だったか。元は舅殿家臣だったが、正信と同じく三河の一向一揆に参加して浪人になったと聞いている。
「とりあえず明日、臨時の評定を行う。皆に伝えておいてくれ。それから九十九から今日までの朝鮮との戦闘について聞きたいことがある。高俊と担当者を呼んでくれ」
「はっ」
そう言って康正が下がる。さて、どうしたものか。
もし和睦を求めてきたならばどういう条件だろうか。まず賠償金は譲れないな。それから領地の割譲。朝鮮半島に領地があっても陸軍を置いたりなんだりしないといけないからやめておくとして、やはり済州島は欲しいな。あれはそれなりの大きい島だったはずだ。
それから自由な交易。これまでは朝鮮に制限されていたせいでほかの国との交易よりあまり儲けることができなかったと記録に残っていた。制限があったとしても日ノ本の黒字だったらしいから自由に行き来することが出来るようになれば大儲けだろうな。賠償金を元手に済州島を開発して拠点にすれば交易をしていた時以上に多くの船が行き来することができる。いやいや、南方の島々を開発して砂糖を大量に作って朝鮮に売りつけるのも・・・・
いや、向こうが認めるとは限らないか。まったく損害を受けていない、それどころか九十九は船や海の近くの町を襲って大量の利益を得て、惟宗に至っては最初の戦を除いてほとんど参加していないとはいえ、どこかの土地を制圧したわけではない。向こうはまだ負けていないというつもりなのかもしれない。だとしたら交渉は厄介なことになるかもしれないな。負けていないのだから賠償金も領地の割譲もしない、と言われたら面倒だ。ま、流石にそこまではずうずうしくはないだろうけど。
数刻後、高俊と教明が来たと聞いてすぐに部屋に呼んだ。高俊はいつものようにガチガチに固まっているな。もう何度も話を聞いているんだからもう少し緊張はしなくてもいいと思うんだけど。その点、教明はそんなに緊張しているようには見えないな。正信あたりに俺のことを聞いていたのかも知れないな。
「よく来たな。面を上げよ」
「「はっ」」
俺に促されて顔を上げる。
「今日呼んだのは朝鮮攻めのことだ。九十九も博多に店を出しているから知っているかも知れないが、朝鮮から使者が来た。十中八九、和睦を求めてきたのだろう」
「左様ですか。では朝鮮の船を襲うのは一度やめにしておいたほうがよろしいでしょうか」
「そうだな。だがすぐに動かせるようにはしておいてくれ。ところでまさか朝鮮水軍に一方的にやられたということは一度もないだろうな」
「そのようなことはございません。九十九としましても人的損害はなかなか埋めることができませんので無理をしないようにと言っているのですが、それでも一方的にやられたというようなことは」
俺の質問に教明がすぐに反論してきた。
「では一番損害が出たのはいつだ」
「それはつい先月のことです。朝鮮水軍が兵を一箇所に集めつつあると多聞衆より忠告を受けましたので、それまでより多くの船で行動するように伝えました。そしていつものように湊を襲って撤収しようとしたところで朝鮮水軍の奇襲を受けました。しかしある程度警戒をしていましたので、これまでで一番被害を受けましたがしっかりと撃退しました」
「そうか」
教明の目を見る限りは嘘を付いているようには見えないな。だとすると反撃に出たがあっさりやられてもう戦えないが降伏をとは言えない、だから和睦をと言いにきたのかもしれない。だったら多少強気に出ても問題ないだろう。賠償金は多額のものでいいな。
「分かった。では今のうちに今回受けた被害を回復しておいてくれ。交渉が決裂したらこれまで通り朝鮮の船や湊を襲ってくれ」
「「はっ」」
「それから高俊」
「は、はいっ」
「今回の交渉でうまくいけば済州島をせしめようと思う。もしうまくいけば九十九を先頭に開発をして欲しい」
「かしこまりました。ではうまくまとまりましたらこちらから計画書を持参させていただきます」
「頼んだぞ」




