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太政大臣

―――――――――1592年2月10日 大坂城 惟宗貞康―――――――――

「そうか、ようやくだな」

「はい。これで私の父上からの宿題は終わりました」

そう言って安堵したように内貞が溜息をついた。ようやくだ。ようやく禁中並公家諸法度を制定することができた。さきの帝が亡くなられてから約6年。近衛の娘を俺の猶子として帝に入内させた。内裏の改修も行った。内貞は帝が亡くなられたことで新しい帝が賛成とは限らないからと適当なことを抜かして先延ばしにしようとした摂関家を脅し宥めて何とか合意させた。あとは朝鮮をあっさりと追い払うことができたことも大きいだろう。あれから朝鮮は攻めてくる気配はなく、今は九十九の傭兵対策に翻弄されている。


結果として関白左大臣には近衛がなることになったが、右大臣には内貞がなった。順当にいけば次の関白は内貞だろう。帝も関白より右大臣の方が信用できると仰せられた。そしてその内貞が鎮守府大将軍に頭を下げる。鎮守府大将軍が公武の棟梁になるのに向けて大きく進むことができたのではないだろうか。


「しかしこれからが大変だ。制定したとしても公家や朝廷が守らねば意味がない。松殿も当分は動くことはできない。朝廷に関してはお前だけが頼りだ。頼んだぞ」

「お任せを。御屋形様が望まれる公武の棟梁をかなえるべく、邁進してまいります」

長康にも俺が目指す道を示しておいた方がいいだろうか。父上は国家安康という道を常に示されていた。俺はその姿を見て育ってきた。長康にもそういう姿を見せた方が天下人になるとはどういうことか見せることができるかもしれない。しかし公武の棟梁というのは父上の時とは違って示しにくいものだな。


「とりあえず内貞には任せたい仕事がある。忙しいだろうが頼みたい」

「何なりと」

「父上が整備している途中だった犯罪者を捕まえる警察を日ノ本中に配備する準備ができた。そしてお前には京の警察を任せたいと思っている」

「つまり京の治安を守れということでよろしいですかな」

「そうだ。そして京の警察には何人か忍びを入れておく。公家の監視に使ってくれ」

俺が内貞に頼むのは京の治安維持と公家の監視。一条家は摂関家として公家ににらみを利かせているが、そのすべてを見ることは不可能だ。そこで忍びを使って裏側まで徹底的に調べ上げる。


「もし弱みになりそうなことがあれば公表せずにうまく使った方がいいかもしれない。そのあたりのさじ加減は新しい会議を開いてみようと思う」

「新しい会議ですか」

「そうだ。一条家は実質、朝廷奉行のようなものになる。そこで幕府運営に必要な情報を知っている必要もあるだろう。極秘情報の共有も必要だ。いつもの評定でもいいが次官から漏れる可能性もある。人数はできるだけ制限するつもりだ。そこで奉行と忍頭と一条家だけの会議を行う。名前は国家情報会議」

「なるほど。開催頻度は」

「月の最後の日に行う。お前の移動を考えるとちょくちょく開くわけにはいかないからな。しかし戦などの非常時には緊急で開くこともある。その辺は頭に入れておいてくれ」

「かしこまりました」

京と大坂を行き来するのは大変だろう。しかし朝廷はこの国で大きな影響力を持っている。何とか幕府にとって都合がいいように動かさないと。


「御屋形様、公武の棟梁となるべく一つ提案がございます」

内貞が少し緊張したような表情で言った。

「提案か。聞かせてくれ」

「公武の棟梁となるにはまず形から入るべきでしょう。太政大臣になられてはいかがでしょうか」

「太政大臣だと。しかしそれは・・・」

父上の時にも太政大臣にという話はあった。しかし父上はその提案を惟宗を操らんとする策謀だと御考えになられて朝廷に対して強気の態度を取られるようになった。そのこともあるからあまりよくないと思うのだが。

「父上の事があるためあまり気乗りしないのは分かります。しかしあれは父上が朝廷に対して強気に出る好機を探っていたというのもあるのではないでしょうか。そして懐柔ととらえることができたためあえて怒ったふりをされた。朝廷に余計な真似をさせないために」

「そうかもしれないが・・・必要あるか。公武の棟梁になるにはお前が関白になって俺に頭を下げればいいだけではないか」

「公家というのはどれだけ落ちぶれようとも誇りだけは一丁前です。どれだけ私が御屋形様に頭を下げようとも御屋形様や幕府を下に見る者は一定数でてきます。また一条だけが関白を独占すればほかの摂関家から不満も出ます。しかし公家も頭では幕府に従うのがいいと分かっています。ならば誇りを傷つけることなく頭を下げる言い訳をくれてやればいいのです」

「それが太政大臣か」

「はい。太政大臣は名誉職とはいえ、最も位の高い官位です。それに頭を下げるのは何もおかしなことではないでしょう」

うーん、どうしたものだろうか。確かに公武の棟梁となるには最も近道であろうが・・・

「公武の棟梁になるため、か」

「はい」

「分かった。評定で相談したうえで決めよう。準備だけはしておいてくれ」

「かしこまりました」

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