国防会議
―――――――――1591年4月1日 大坂城 惟宗貞康――――――――――
「皆、面をあげよ」
「「「はっ」」」
俺に促されて大名たちが一斉に顔をあげる。最近は新しい顔に入れ替わり始めたな。戦を知る世代が政の場から退いているのは少し残念だな。しかも他国から攻められる可能性が高い今の状況で。ま、九州の大名ならともかく大名たちが実際に戦をするわけではない。経験の浅いものが多くても問題ないだろう。
「さて、皆を集めたのはほかでもない。多聞衆からの報告で朝鮮が攻めてくる可能性が出てきた」
その言葉に大名たちが少しざわめく。若い大名に少し落ち着きが無いように見えるな。逆に歳をとっている大名は落ち着いている。ある程度把握していたものがいるということだろうか。大名にとって幕府の動きはできるだけ把握しておきたいことなのだろう。自分たちを潰そうと動いている可能性があるからな。それと領内の繁栄にも情報は必要だ。だからある程度の情報収集能力はあるはずだ。そこから今回の件を聞いたか。その証拠にまだ若いが独自の情報網を持っている政宗は落ち着いている。一度幕府内で大名に通じている者がいないか確認しておいた方がいいかもしれないな。
「すでに朝鮮が戦の準備をしているのが確認されている。近々攻めてくるのは間違いないだろう。この戦は元寇以来の日ノ本を守るための戦だ。必ずや勝たねばならない。そこで皆に軍役を課すこととなった」
皆の顔に緊張が走る。どんな無理難題を吹っ掛けられるのかと不安なのだろう。正直なところ、水陸軍の見立てでは軍役を課さなくても問題ないだろうということだったが、財務奉行の良通が得るものがない防衛戦で幕府の財を使わない方がいいと主張したため軍役を課すことになった。
「各大名の収入の1割を軍役として幕府に収めよ。その代わり今回の戦に出る必要はない」
普通に戦に参加させられたらそれ以上の費用がかかる。大名としてもこの処置に不満はないだろう。あるとすれば手柄をあげて領地を増やすことができないことだろうか。だが新しい統治に適合するためにも今は動けない。
「期限は今日より一月以内。これに遅れたものは改易とする」
抵抗はさせない。対馬に送った兵を除いても幕府の方が兵力の上で圧倒的に優位だ。大名たちもここで抵抗しても無駄なことは分かっているだろう。これで銭の面でも戦の準備ができた。あとは敵を迎え撃つだけだ。
―――――――――1591年5月1日 大坂城 惟宗貞康――――――――――
「これが防衛計画か」
評定で水軍奉行所から提出された計画書を手に取る。
「はい。今回の計画では、まず対馬沖にて朝鮮軍を迎え撃ちます。ここで撃退することができれば万々歳。さすがに朝鮮も全力で来るでしょうからここでの撃退は難しいでしょう。ある程度敵に損害を与えたら水軍は壱岐に撤退します。敵は元寇の例から見てもわかるように対馬・壱岐をまずは攻めるでしょう。対馬は島自体を要塞化しているためそう簡単には落ちません。そして対馬で朝鮮が手間取っている間に壱岐に撤退した水軍が朝鮮軍の背後に回り込みます。朝鮮軍はすでに上陸しているためすぐに船を動かすことはできません。その隙に敵の船を大砲などで破壊します。あとは敵の補給の船を徹底的に沈めるか、捕獲します。それで十分でしょう」
防衛の最前線で押しとどめる。父上や貞親が考えた防衛戦略通りだな。
「万が一対馬を突破されたらどうする」
「対馬と壱岐の間で水軍を使って徹底的にたたきます。ここでは対馬沖の時とは違って勝つか負けるかまで徹底的に戦います。ここまでで朝鮮軍は多大な被害を負うことになるでしょう。あとは壱岐にて陸軍が徹底的に潰します」
問題ないだろう。ただ対馬を突破された場合に少し不安が残るな。敵にどれほどの損害が出るか分からない。少し不安が残るな。しかし戦である以上、これくらいの不確定要素は仕方がないか。
「万が一対馬を突破された際は改めてこの評定に計画書を提出させていただきます」
水陸軍は鎮守府大将軍の命令なしでは動いてはいけない。だから作戦の提案を評定でしているのだが、戦の最中にこれをするのは少し時間がかかるな。せめて戦の最中だけは短縮したいのだが。何かいい考えはないだろうか。
「いや、戦の最中は別の会議を設けないか」
「別の会議ですか」
「そうだ。この評定に出す前に水陸軍での作戦会議である防衛会議を行っているのだろう。それと評定を合わせる。戦の最中に無駄なことはできない。そのために新しい会議を開く。この会議ではいつもの評定の参加者に、水陸軍の参謀総長・次長を参加させる」
参謀総長は水陸軍の作戦を考える者たちが集まる参謀部の長だ。水陸軍の叡智の代表と言っていい。それをうまく使いこなせないことには勝てる戦にも勝てないだろう。それに戦の経験があるものが評定にいるうちはともかく、長康やその子、孫の代には評定の中に戦に出たことが無い者しかいないということになるだろう。その時に備えて戦の際はその道の専門家が参加する体制を整えねばならんな。うん、即興で思いついた割にはいい案じゃないかな。
「名前はそうだな、国防会議としよう」




