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東人と西人

――――――――1590年1月30日 漢城府 鄭澈――――――――――――

「御苦労であったな、誠一」

「はっ、恐れ入ります」

儂の言葉に允吉が頭を下げる。

「鄭澈様も東人どもを政から排除するのはかなりの苦労をされたのでしょう」

「しつこい奴らばかりよ。一応あのバカが謀反を起こそうとする前はあれが政の中心にいたのだ。そう簡単にはいかんの」

「今回の使者派遣の件も東人どもが余計な抵抗をしなければ副使にも西人のどなたかに任せることができたでしょうに」

ふん、何がどなたかだ。心の中では自分の方が上だと相手に思わせる好機だとでも思っておっただろうに。ま、誰が副使になろうとも相当なことが向こうで起きていない限り結論は儂の胸三寸。東人どもの好きにはさせんよ。

「それで、どうであった。東人どもが主張している謀反に東夷が関わっていたという仮説は」

「まずありえないでしょう。彼らは我々に対してかなり丁寧に対応していました。敵対する意図があればそのようなことはしないでしょう。それに聞いた話では惟宗は商人の真似事をして成り上がったような輩です。仮に攻めてきたとしてもそのような卑しい輩に我らが負けるとは思えません。まず、東人の責任逃れとみて間違いないでしょう」

「やはりか」

これだから東人どもは。無駄に自体を大きくしよって。間違いなく明日の朝議ではおそらく自分たちの主張は正しいと主張するだろう。それを潰さねばならんのか。面倒な。

「とりあえず西人側の主張としては今回の鄭汝立の謀反に東夷は関わっていなかったという結論で問題ないな」

「それでよろしいかと。おそらく東人どもは東夷が関わっていたと主張するでしょうが、我らの主張の方が正しいうえに西人の方が政権争いでは有利。確実に我らの主張が認められるでしょう」

「そうだな」

むしろ今回の件を利用すれば一気に東人どもを政権から叩き出すことができるだろう。東人どもは言い逃れのつもりだったのだろうがこれで一気に決着をつけてくれるわ。

「御苦労だった。今日のところはゆっくり休め」

「その前に一つ、ご提案が」

「提案?」

「はい。今回の件で思った事ですが、東夷どもはかなりの低姿勢です。おそらくこちらに攻め入る余裕などないのでしょう。それならむしろこちらから攻めて東夷を討ち滅ぼすことで西人としての功績とし、一挙に東人を政の場から排除するべきではないでしょうか」

「攻めるだと?東夷をか」

「はい。まずは倭寇に受けた被害の賠償を東夷に求めます。この際に具体的な金額は明言しません。払わなければそれを口実に、払ったとしても金額が足りないと言って攻めるのです」

「ふむ」

悪くない。悪くないのではないだろうか。所詮、相手は商人もどきの東夷。そやつらに我々が負けるとは思えん。東人どももたまには利益を持ってくるのだな。

「よかろう。お前はすぐに東夷攻めの計画を建てるのだ。明日の朝議では東夷攻めまで決めるぞ」

「はっ」


―――――――――――――同日 漢城府 金誠一――――――――――――――

「御苦労だったな、誠一」

「はっ、ありがとうございまする」

成龍様の言葉に頭を下げる。少しお顔がやつれておられるように見えるな。やはりあの阿保のせいでかなりお疲れのようだな。

「それでどうだった。やはり東夷の介入はあったと思わせることは出来そうか」

「難しいかと。こちらがかなり冷遇されたのであればともかく、突然だったのにもかかわらずかなり手厚くもてなされました」

「そうか。少しでも冷遇されたらそれを理由に一気に東夷の印象を下げて謀反に関わったとすることができたのに」

「まことですな」

あやつのせいで東人が一気に不利になってしまった。おおかた西人の命を受けて東人が謀反を起こしたように見せかけるために寝返ったのだろう。でなければあんなことは起きなかったはずだ。幸いにも東人の一人が機転を利かせて偽の書状を作ったためになんとか時間稼ぎができたが。

「とりあえず明日の朝議では東夷に侵略の意図ありと主張するしかないな。何かそれらしいことはなかったのか」

「そうですな・・・惟宗の当主のもとへ向かう時に護衛に惟宗の軍がついたので、それを圧力というふうに解釈すれば何とかなるかもしれませんが」

「それだけではちと弱いの。何か他には」

「対馬の兵が少し多いように感じたのでそれを侵略の兆候というふうに訴えるのはどうでしょう」

「まあ、悪くないか。とりあえず少しでも陛下に東夷への不信感を持っていただくことが大事だ」

成龍様の言う通り陛下を味方に付けなければならない。そうでなければ我らが生き残るにはそれしかないのだ。さきの謀反を東夷に押し付けて、東夷の脅威を我ら東人が守る。そういう形にしなければ我ら東人は潰されてしまう。

「誠一には悪いが明日の朝議までに東夷攻めの計画書を見ておいてほしい。そしてお前の口から陛下にご説明するのだ」

「はっ」

「分かっていると思うが、必ずや東人主導の東夷攻めにするぞ」

「はい。必ずや」

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