朝鮮からの使者
―――――――――1589年11月10日 大坂城 惟宗貞康―――――――――
「朝鮮からの使者だと」
康正叔父上の報告を聞いて思わず疑問の声が出てしまった。なんでまたこのような時に。
「用件はすでに聞いているのか」
「いえ。しかし朝鮮とあまり仲が良くなかった兄が亡くなったという報告を受けて関係改善のために来たのではないでしょうか」
たしか父上が家督を継ぐことになったのも朝鮮が惟宗、当時の宗が足利のふりをして使者を出していたことに気が付いたからだったな。その後は歳遣船を使って交易をしていたが数を制限されていた上にそこまで儲けているわけでもなく、取引も銭を使わずに物々交換だったため朝鮮で倭寇が大規模な攻撃を始めた時に朝鮮との通交をやめた。それ以降は一時期だけ少弐氏の名を借りて交易をしていたが九州統一前に再び断交。それ以来なにも音沙汰なしだった。父上も朝鮮には全く興味が無かったようで無視していたな。そんな朝鮮がいったい何の用だろう。
「その朝鮮の使者は今どこにいる」
「知らせの者が出た時には対馬にいたようですので、現在は博多で待機しているところでしょう」
「そうか。とりあえず会うしかないだろう。使者が来る前にもてなしの準備をしておいてくれ。博多にいる使者には船を用意してやれ」
「はっ」
とりあえずあと数日は時間があるな。その間に評定を開いて今回の朝鮮からの使者について協議しなければ。これから朝鮮に対してどう対応するか。これまで通り無視か、友好的な関係を築くか、敵対して朝鮮に攻め入るか。父上は朝鮮や唐土にはあまり手を出すべきではないと生前言っていた記憶がある。しかし父上のやり方を踏襲する必要はないとも言われている。どうしたものか。
「奉行・次官たち明日臨時の評定を行うと伝えよ。それから外務奉行所にはこれまでの朝鮮に関わる資料を纏めるよう伝えてくれ。それと頼久を呼んでくれ。朝鮮の現状を知りたい」
「かしこまりました」
そういうと康正叔父上が一礼して下がる。父上が亡くなったとたんこれか。今までは父上がおられたから何とかなったがこれからは俺がしっかりしないと。
「御屋形様、頼久です」
「来たか。入ってくれ」
「はっ」
頼久が入ってくる。
「朝鮮が使者が来たと伺いましたが」
「そうだ。いまは博多で待機させている。朝鮮について知っておきたい。朝鮮の内情を教えてくれ」
「かしこまりました。まず朝鮮の政治ですが、数年前まで勲旧派と士林派という派閥ができて権力争いをしていたようですが、士林派を支持していた現朝鮮王が即位したことで勲旧派は没落。士林派が大きな権力を持つことになります。しかしその数年後、士林派は官職の任官権を巡り沈義謙率いる西人と金孝元率いる東人に分かれます。最近までは李珥という男が二つの派閥の間に立って押さえていましたが、その者が5年前に死んだため派閥争いが激化。何かあるたびに対立しているようです」
「朝鮮王は何をしているのだ。そう言った家臣同士の争いを止めて己が政をするのが王の仕事であろう」
「昔、朝鮮王が幼くして即位した際に政治に関しては家臣がすべて決済する形になってしまったためそれはできません。派閥争いのある現在の朝鮮は言葉で戦をする乱世なのです」
なんと、君主が幼くして即位するとそのようなことになるのか。日ノ本が朝鮮の二の舞にならないよう制度を整えておかねば。
「現在では東人の方が優勢のようです」
「そうか。しかしそんな時期になぜ使者が送られてきたのだ。普通に考えれば国内の政争に明け暮れている頃だろう。こっちに使者を送るような暇はないはずだが」
「そこまでは。日ノ本と朝鮮は交流がほぼないので現地での情報収集が難しく、唐土と朝鮮を出入りしている商人に情報を聞くぐらいしか方法が無いのです。西人が手柄をあげるべく使者を送った可能性も考えられますが・・・すぐに唐土にいるものに朝鮮に関する情報を集めるよう指示しておきます」
「頼んだぞ」
相手の情報が無いとかなり不安だな。これまでであれば父上と相談することもできたのだが。父上はすごいな、このようなことを幼いころからしていたとは。
「そういえば最近朝鮮の兵が妙な動きを見せたという報告がありましたな」
「妙な動き?」
「はい。対馬に常駐している陸水軍の者からの報告なのですが先月、ちょうど御隠居様の遺骨を対馬に運んだ時に朝鮮の水軍が集まっていたという報告が。数もたいしたことはなかったので御屋形様の御耳に入れることではないと考えたようですが、それが関わっているのかもしれませんな」
はあ?確かに多少豪華にするために水軍を大勢動かしたがそれだけだぞ。まさか攻めてくるとでも思ったのか。いや、仮にそうだとしても攻められなかったのだから放っておけばよかっただろうに。
「とりあえず情報が必要だな。日ノ本に朝鮮に詳しいものがいれば話を聞いておけ。特に今回の使者についてだ」
「はっ」
しかしたったあれぐらいで騒ぐとは。どうせなら使者たちを驚かせてやるか。船の護衛には幕府水軍を使い、船を下りてから大坂城に入るまでは陸軍に護衛させよう。それも大人数で。そして豪勢な食事を用意してやろう。日ノ本の国力を見せつけ、無理難題を言えなくする。それから大阪にいる大名を集めよう。使者には大勢を集めることで威圧になるし、大名たちにはほかの国が惟宗を認めたという事実を見せつけることができる。




