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北野大茶湯

――――――――――1587年11月1日 北野天満宮―――――――――――

「あの、祖父様」

隣に座る熊太郎、いや元服したから長康か。長康が困惑したようにこちらを見る。どうしたのかな。

「どうした」

「聞いていないんですけど」

「何がだ」

「私の元服がこんなに大層なものになるなんて」

「言っていなかったか。それはすまんな。だがいいだろう。最初の名人戦を見ることができるんだぞ」

まだ対局まで時間はあるが初代名人の大橋宗圭と挑戦者の本因坊算砂はすでに盤を挟んで向かい合っている。そして記録係たちの後ろに俺と長康が座っている。

「試合が始まったら喋るんじゃないぞ。あいつらの試合の邪魔になる」

「分かりました」

「これまでお互い三勝三敗。初めての名人戦として相応しい熱戦を繰り広げている。昨日もなかなかの戦いだったぞ。どっちが勝っても楽しみだな」

しかし算砂は囲碁の方でも名人など七大大会のほとんどを獲得しているというのに将棋でもこれだけやれるんだからすごいよな。当分は将棋では宗圭と算砂の二頭時代が、囲碁では算砂と利玄の二頭時代が続くだろう。これを倒して新しい時代の名人が出てくるのはいつかな。楽しみだな。

「しかし貞康は将棋より茶の湯の方がいいらしいな。お前の元服のもろもろが終わったらすぐに茶会の方に行ってしまった」

「今に始まったことではありません。父上は祖父様に似て凝り性ですから」

俺は凝り性かな。まぁ、確かに頼んでいないとはいえ黄金の将棋の間を作るような奴だからな。凝り性と思われてもおかしくはないか。今回の名人戦でも黄金の将棋盤や駒などが使われている。

「まぁ、いいんだよ。茶の湯で知り合ったやつを優遇するのであればあれだが、そういうわけではない。むしろ天下人がなにかに熱中することで消費が増えるかもしれないからな」

「祖父様の将棋もですか」

「そうだ。俺が将棋所と碁所を作ったから棋士という職業が生まれて銭を持つ者が増える。銭を持つ者が増えれば何かを買おうとする者も増える。また棋譜と解説が掲載された瓦版を売れば将棋の普及とともに商売にもなる。一石二鳥ではないか」

最近では棋譜の解説だけではなく新聞的なことも書きだしたらしい。いいね、いつの時代も庶民の楽しみの一つは政治を肴に酒を飲むことだ。幕府にとってもいい緊張感があって好都合だ。今度九十九に頼んで出版社を作ろうかな。いや、九十九だけを大きくするのもよくないな。ライバル会社があった方が成長もしやすいだろう。新しく株式会社を設立させるかな。そのうち民間でも株式会社ができればいいけど。

「お前も早く趣味を見つけろ。お前は俺や貞康の血を引いているんだから道楽人の血は流れているはずだ」

「なんだかあんまり褒められた気がしないです。いいんです。私の趣味は兵法です」

「そうか、それなら今度日ノ本中の剣豪を集めて大会を開くのもいいな」

大会名はそうだな・・・日ノ本一武道会?ないな。普通に武道大会でいいか。

「広いところに観客席を設けた会場を作って会場に入るための券を販売する。武器に応じて大会を主催すれば少なくない額を稼ぐことができるぞ。それに平和の時代になれば兵法は廃れるやも知れないからな。これからの時代の戦は鉄砲が中心になるだろうが、当分は兵法も必要だ。うんうん、なかなか良いではないか」

「そしてその大会で優秀な成績を収めた者たちを高山国攻めに参加させましょう。きっと今以上に早く制圧できますよ」

「いや、高山国平定は終わったぞ」

「えっ」

「これ、声が大きいぞ」

驚いたように宗圭と算砂がこっちを見たではないか。まったく、妹と弟がいるのに落ち着きのない奴だな。熊次郎が悪いところを真似したらどうするんだ。

「すみません。それでいつ」

「昨日知らせが来た。ま、どうでもいいことだ」

「いや、どうでもいいことはないでしょう」

「そうか?平定自体はそこまで難しいわけじゃなかったんだ。問題はどれだけ銭を使うかだ」

銭を使い過ぎる戦ほど生産性のないものはないだろう。

「戦なんて無い方がいいんだ。勝てなければ無駄に銭を払うことになるし、幕府の権威も落ちる。お前も兵法はいいが戦をせずに日ノ本の利益になる方法を考えられるようになれよ。これからはそういう視点が大事だ。それと趣味と仕事を分けることもな」

「分かりました。当分はまだ勉学に励むので大丈夫です」

「そうか。ま、頑張れよ」

貞康が生きている間は家督を譲っても俺の時と同じようにある程度は政務に関わるだろう。その頃には熊次郎もそれなりの歳になっているはずだ。その頃には俺は生きているかな。うーん、見てみたいけど厳しいかな。物理学とかだけじゃなくて政治についても本にまとめておこう。後世の権力者たちが憲法や近代法を作るときに役立つはずだ。いや、近代法なら今でもできるな。よし、俺の最後の仕事は近代法を作ることにしよう。さて、老骨に鞭を打って頑張りますか。明日から。今日は名人戦。一将棋好きとしてこれ以上楽しみなことはない。

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