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少弐氏

―――――――――――1539年11月30日 岸岳城―――――――――――

「熊太郎様、お呼びと伺いましたがどのようなご用件で」

俺が自室でいろんな書類を書いていると柚谷康広が入ってきた。

「あぁ、お前にちょっと頼みたいことがあってな」

「今度は朝鮮ですか、それとも明ですか」

少し働かせすぎたかな。たぶん1年の半分以上は宗家の領内にいないんじゃないかな。まぁ次は国内だし問題ないだろう。

「どちらも違う。朝廷だ」

「ちょ、朝廷!?」

「そうだ、献金と献上品を届けてほしい」

「献上品は何を」

何とか平静に戻った康広が尋ねてきた。これは驚くだろうな、なにせ国内初だ。

「宗家領内で採れた陶石を使って作った磁器と輸入した明や朝鮮の工芸品を献上しようと思っている」

「平戸松浦は降伏の条件を認めたのですか。いやそんなことより磁器ですって!?そんなものが作れるようになったのですか」

「あぁ、陶石が見つかる前に鑑定士代わりに朝鮮から職人を呼んでいてな。有田を攻めているときにその職人が泉山で陶石を見つけてそのまま作らせることにした。なかなかの出来であったぞ」

「それなら売った方が良いのではないのですか。日ノ本初の磁器であれば高く売れるでしょう」

「もちろん磁器は売る。だが帝が使われているという肩書きが付いていた方が高く売ることができるだろう」

要は帝を宣伝に使おうというわけだ。ついでに国内初のものを帝に献上することで宗は勤王の心が篤いと評判が立てばいいな。


――――――――――――1539年12月10日 岸岳城――――――――――――

「少弐殿から使者が来た?」

自室で執務をこなしていると爺が来客を告げに入ってきた。

「はい。使者は馬場頼周ばばよりちかです」

何で少弐が来たんだよ。確か今年になってから勢福城に復帰したはずだよな。復帰の援助をしてほしいって話じゃないだろう。

「爺、なぜ少弐殿の使者が来たと思う」

「おや、ご存じないのですか。宗は以前、少弐殿と大内との戦いで少弐殿の主力として戦っていたのですよ。まぁ、大内の計略のせいで少弐殿と宗は不仲になってしまったのですが。おそらくその縁を頼ってきたのでしょう。確か宗姓の者も居たはずです」

へぇ、そんなことがあったのか。その時はまだ俺の先祖は九州の領地が欲しかったから一族のものを置いていたんだろうな。父親が家督を奪ったからたぶんそんなに関係ないんだろうけど。ん、まさかとは思うが昔の縁を頼って援軍を頼みに来たとかじゃないよな。これから渋江公親の子供を渋江氏の旧領に戻すという大義名分で後藤氏を攻める予定なのに。

「とりあえず評定の間に通してくれ。あと評定衆も皆集めてくれ」

「はっ」

面倒ごとでなければいいなぁ。


――――――――――同日 岸岳城 評定の間 馬場頼周――――――――――

「お初にお目にかかります。少弐冬尚しょうにふゆひさが家臣馬場頼周にございます」

「宗熊太郎だ。面を上げよ」

「はっ」

言われて顔を上げる。これが宗熊太郎か。噂ではわずか九歳でありながら知能は20歳の者よりはるかに優れ、気性が荒いと言われている。どのような方かと思ったが容姿は普通だな。

「それで少弐殿がどのような用件でここに来た」

「はっ、我が主冬尚様は昔の遺恨を忘れ宗殿との同盟を結びたいと仰せにございます」

「同盟か。それはともに大内と戦おうということでよろしいかな」

「はい、そのように考えられてようございます」

理解が早いのはありがたい。しょせん傀儡であろうと高をくくってきたが噂は真であるのかもしれんな。

「それで大内に勝てると思っているのか」

「は?」

「宗と少弐殿だけで大内に勝てると思っているのかと聞いている」

「冬尚様は勝てると」

「俺は冬尚殿の考えを聞いているのではない。お前の考えを聞いているのだ」

「某の考えは冬尚様のお考えです。それ以外にお答えすることはございません」

家臣が主の考えに意見するなんぞ不遜でしかなかろう。主の考えを実現させるのが家臣の務めだ。

「俺はそれだけでは足りないと思うがな」

「それはどういう意味でしょうか」

「宗と少弐殿が力を合わせたとしてもせいぜい20万石にも満たないだろう。対して大内は100万石を超えるだろう。国力の差は5倍以上だが少弐殿はどのようにして戦われるおつもりかな」

「確かに国力の差では大内の方が有利ですが我らには地の利があります。十分に勝てると考えています」

「1回や2回であれば勝てるだろうが大内が本気になって攻めてきたらどうする。少弐殿は一度滅ぼされているからその恐ろしさはわかっていると思うが」

意外だな。これまで大内派の大名や国人を攻め滅ぼしてきたとは思えない発言だ。もしや大内と敵対しない方法があるから同盟に消極的なのだろうか。

「二度も滅ぼされないよう宗との同盟をと主は申しておりました。なにとぞ同盟の件、前向きにお考えいただけないでしょうか」

「一つ条件がある」

「なんでしょうか」

「今回の同盟に大友殿も加えてほしい。一昨年まで争っていた大友殿が今回の同盟に加わるのであれば承諾しよう。あとできれば尼子も加えたい。それがなれば大内包囲網を作ることができる」

お、大内包囲網!?

「おそらく冬尚殿はどちらかが攻められたらもう一方が援軍を出す。お互いの領地は侵さないぐらいが良いと考えているかもしれんがそのような案では同盟を結ぶ意味がない。どうせなら大内を攻め滅ぼすぐらいでないと。あぁ、あとひとつ。我らはこれから後藤を攻める予定だがおそらく有馬が出てくることだろう。当分はそちらに集中したいから援軍を出すことはできん。そのことも考えて今回の件を決めてもらいたい」

つまり宗と同盟を結んでも援軍を出すことはできないので他の大名たちを巻き込めということか。

「某の一存ではなんともいえませんので一度持ち帰らせていただきたく」

「構わん。良い返事を期待している」

一礼して評定の間を出る。

さて、これは大きなことになった。はたして殿はお受けになられるだろうか。分からん。しかしお受けになられなかったとして宗はどのように動くか考えておいた方が良いだろう。

おそらく単独で大友殿との同盟を結ぼうとするだろう。大友殿も肥前で足場を作りたいだろうからこれを受けるに違いない。そして有馬と敵対する可能性を述べていたからおそらく有馬を滅ぼすだろう。有馬を滅ぼしたとしてその後はどうするだろうか。宗は西に敵はいないことになる。同盟を結んでいない少弐を狙わないとは限らない。そして少弐にはそれに抵抗する力はない。

まずいな、これは是が非でも同盟の話をまとめなければ。いっそのこと、熊太郎殿を殺すというのはどうだろうか。いや、無理であろうな。宗は多聞衆という忍びがいる。その者たちが邪魔をしてくるに違いない。失敗すれば宗は全力で我らを滅ぼしにかかるだろう。そのような危険な真似はできん。

冬尚様にはこのことをしっかりお伝えしよう。冬尚様も大内を滅ぼすことができるのであればすぐに賛成するだろう。

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