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天正地震

―――――――――1586年1月20日 大坂城 惟宗貞親―――――――――

「はー、よくこれだけ銭が集まるな」

「惟宗が作っているからな。その気になればこれがあと10個でも100個でもできる。ただ父上がそんなことをすると経済的にまずいから常に適量の銭が流通するようにしないといけないと言っていた」

一か所に集められた銭の山を見て俺と内貞が思わず溜息を洩らした。

「ふーん、よく分からん」

「俺もだ。そのあたりのことは財務奉行所の連中と御屋形様が分かっていたらいいだろう。俺たちの仕事はそれ以外だ」

「まったくだな。しかし日ノ本に戻ってきたとたん地震か。しかも去年のとは比べ物にならないほどだ」

「お前も大変だな。せっかく高山国から戻ってこれたのに。御屋形様も休んでいいと言ってくださっているのだろう?休んだらどうだ」

「いや、ここの警備を陸軍が頼まれたからな。警備の誰かが持ち出さないか監視していないと。他のやつだとどうしてもな」

「まあ、これだけの大金だからな。魔がさすのも仕方ない。これで全部でないのが凄まじいところだ」

そうだな。ここに集められているのは地震で建て直す必要のある蔵のものだけだ。

「そういえば高山国攻めはどうなっているんだ?お前が帰ってきた途端これだからあまり詳しくは聞いていないのだが」

「平野部は粗方制圧できた。山の方も四割ぐらいは制圧できただろう。だがそこから先がな。病は流行る、現地人の抵抗も強くなるでなかなか進まん。まぁ、制圧したところで使い道に困るところばかりだから現地人が攻めてこない限り積極的に攻める予定はない。少しずつ確実に制圧していく」

「ふーん、俺は公家相手ばかりで戦のことはからっきしだからな。よく分からんが頑張れよ」

「お前もな。今回の地震で公家たちも流石に泣きついてくるだろう」

先の地震で傾いた屋敷が今回の地震でかなりひどいことになっていると聞く。それを利用しない御屋形様と内貞ではないだろう。

「さすがに近衛・二条だけでは手が回らないみたいだ。すでに数名が一条邸を訪ねている。いまは義父殿が対応しているが、銭をもらったらすぐに京に戻る予定だ」

「なんだ、もう京に戻るのか。もう少しゆっくりできると思ったんだけどな」

「一局ぐらいはさせると思ったのだけどな。摂関家の創設に禁中並公家諸法度の制定。他にもいろいろあるからな」

「摂関家の創設か。あの前例主義者どもをどう説得するんだ?特に一条以外の摂関家なんか反発はすさまじいだろう」

それに関白になれる可能性が減ることになるんだ。誰でも嫌なことだろう。

「なに、何とかするさ。それにいちおう創設というよりは再興だけどな。松殿家の再興」

「松殿家か。どんな家なんだ。わざわざ再興させようとするなんて。それもお前の息子を当主としてだ」

「本当は御屋形様の御子がよかったのだがな。ちょうどいい男子がついこの間生まれたばかりの万千代か、お前の子の高千代ぐらいだろう。継がせるならいちおう公家の家に生まれた万千代の方が筋が通る。それとも高千代に継がせるか」

「いや、いいよ。あいつに公家の相手は無理そうだ。素直な子だからな」

多分あの様子では一生あのままだと思うんだよな。武士としても公家としてもあまり大成はしないだろうが、領主としてはそれなりになるのではないだろうか。楽しみだな。

「松殿家は摂関家になり損ねた家だ。近衛・九条の初代の兄弟が作った。初代は関白にこそなったが時の法皇、後白河院と平清盛との対立に巻き込まれて左遷。その息子は木曾義仲に近づいて12歳で摂政・内大臣・藤氏長者に就任するも義仲が討ち取られると解任される。その後は関白の候補にはなるも結局はなれず、朝廷が二つに割れた時は南朝に味方して結構上の方まで登ったが、のちに離反して衰退。で父上が上洛する前に断絶した」

「なるほど。確かに血筋でいえばかなりいい血筋だな。それを再興させて摂関家に組み込むのか」

「そうだ。惟宗が公武の棟梁になるには摂関家を押さえないといけない。そのためにも今回の地震は利用したいところだな」

「死んだ人間の数を考えると嫌な話だがな」

「まったくだ」

今回の地震は去年の物とは比べ物にならなかった。まだ報告が届いていない場所でも相当な被害が出ているだろう。果たしてどうなることやら。

「禁中並公家諸法度の制定も松殿家が再興すればまた一歩前に進むだろう。朝廷の反惟宗派でも内部分裂の危機にさらされているみたいだしな」

「内部分裂?内貞、また何かしたのか」

「主要な公家に贈り物を送ったんだよ。もちろん受け取らなかったところがほとんどだったが、贈り物を持っていく前に空の箱も持って行っていたからそれに贈り物を隠して、さも贈り物を渡した後のように見せかけて出ていった。いくら受け取っていないと否定しようとも周りの人からしたら受け取っていて隠しているように見えるだろう。お互い疑心暗鬼だ。その様子を見ていたほかの公家も頼もしくないと考えて惟宗につくかもしれない」

「姑息というかなんというか。父上っぽい策を考えるようになったな」

「お前も似たようなものだろう。高山国攻めの際は、集落があると使者を送るふりをして多聞衆を侵入させて火を放たせたと聞いているぞ。それこそ戦の面での父上っぽい策だろう」

「ま、お互い父上の子ということだな」

そして御屋形様も。おそらくこの地震を利用して大名領の街道の整備を一気に進めるだろう。あまりうまくいっていないと聞いていたが、地震の被害が出たところには支援と言って街道の整備を進めることができる。そうでないところも有事の際の支援を早急に行うためと言って強引に進めることができる。人は善意の申し出を断るのは難しいからな。

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