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地震

――――――――――――1585年8月1日 大坂城――――――――――――

「ん、また揺れたなぁ」

「揺れましたな。今度のはそこまで揺れは大きくなかったですな。おい、今の揺れで崩れていないか確認しておけ」

俺の言葉に盛円が頷きながら書庫を整理している者たちに指示を出す。しかしお互い隠居したというのに地震の後処理に駆り出されるなんてな。俺としては書類や本に紛れ込ませているこれから発見されるはずの物理法則の本とかが無事か確認するためでもあるんだけど。博物館に置いている太陽系の模型は無事かな。あれ作るのに意外と時間がかかったんだよな。俺が細かい数字にまでこだわったのもあるけど。

「しかしこれだけ揺れたのは初めてですな」

「そうだな。いちおう火消したちも駆り出して城下の被害状況を確認して回っているが」

たぶん震度5弱ぐらいだっただろうな。大坂城はともかく城下の屋敷の耐震強度なんて突貫工事のところもあるからたかが知れている。火事なんかを含めると1割近くが使い物にならなくなったんじゃないかな。

この時期の地震となると天正地震が思い浮かんだけどたぶん違う。記憶にある天正地震の記録より被害が少ない。だいたい今回の被害だって幕府が大坂に人を集めたことで相対的に大きくなっているだけだろう。いま他の大名領を調べさせているがこちらもそこまでひどくはないんじゃないだろうか。そうなると数年以内で天正地震が起きるということだろうか。うーん、もう少し地震対策を進めた方がいいかもしれないな。

「盛円。地震対策が必要になるな」

「左様にございますな。もしこれ以上の地震が起きたらと思うと不安です」

「貞康と話をした方がいいな。しかしあいつも忙しいだろうし」

とりあえず担当部署で暇している奴を探して・・・ってこの地震のせいで暇な奴なんていないか。あと一月は誰も動かせないとみていいだろう。だけどそこから新しい地震対策を考え出したとしても、その頃には新しい街ができつつあるだろうし。仕方ない、暇している隠居老人たちを集めて考えてみるか。しかし江戸時代にはどんな地震対策をしていたのかな。そのあたりはあんまり知らないんだよな。授業ではそんなこと教えてもらえないし。どうしたものかな。ま、前世の事を思い出しながら考えていけばいいだろう。何とかなるはずだ。


―――――――――1585年9月10日 大坂城 惟宗貞康―――――――――

「思ったより公家の被害が大きいな」

内貞の報告書を呼んで思わず溜息が出た。大坂の被害からしてそこまでひどくはないだろうと思ったのだが。

「はい。なにせ位は高くとも貧乏なところが多いですからな。ぼろ屋の状態をほったらかしにしておいた公家も多いようです」

「一条邸はどうだった」

「問題ありません。うちが援助していますからな。嫁の実家の徳大寺も」

「そういえば子ができたかもしれないと聞いたが」

「えぇ、まぁ。貞親の子の高千代とともに若様の補佐ができればいいのですが」

「別に娘の遊び相手でもいいんだぞ。松も遊び相手が侍女ばかりではつまらんだろう」

「それは生まれてからですよ。まずは無事に生まれてきてもらわないと」

「それもそうか。さて、仕事に戻ろう。父上に似たのか俺たちはすぐに話が本筋からずれる」

どうもいかんな。特に一門衆と話しているとそれが顕著だ。仕事に戻らねば。

「そうですね。とりあえず朝廷からは支援してほしいと連絡が来るでしょう。朝廷として動かなくても公家が自分たちの伝手を使ってこちらに接触してくるはずです」

「だとすると山科からが一番多いかな。あそこは先代が妙な人脈を持っていたからな」

「そうですね。それから徳大寺・一条からもでしょう。近衛は声をかけにくいでしょうな。惟宗にほぼ強制的に隠居させられたのですから」

「二条らはどうかな」

「鷹司の件がありますからな。近衛に比べれば声をかけやすいでしょう。それに義父殿の次の関白は二条昭実と言われていますからな。惟宗との縁を強化するためにも声はかけてくるでしょう」

だとすると朝廷に銭を出さねばならなくなるのは確実か。あ奴らは銭はないくせに気位だけは高いからな。

「あまり銭を出したくないな。惟宗が銭を出してもこちらの有利に動くとは限らない」

「しかし出さねば朝廷が独自に大名たちに働きかねませんぞ。それはそれで惟宗に不利でしょう」

「面倒だな。利用できないかな」

「この機会に朝廷の動きを制限する法度を作るとか。公家も今なら飲まざるを得ないのでは」

「法務奉行所から提出されたあれか。評定で時期尚早と判断されたが・・・」

「いまならいけるでしょう」

「いや、せいぜい屋敷が崩れたぐらいだ。有力な公家であれば頑張れば出せない額ではない。せめて今回の地震がもう少し大きければ」

「無茶を言わないでください。そんなことになれば被害はこんなものでは済まなかったのですぞ」

「分かっている。とりあえず朝廷に法案の件をそれとなく伝えておいてくれ」

「かしこまりました」

そう言って内貞が頭を下げる。次の関白は昭実か。まずはそこから攻めていくか。

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