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病と金

――――――――1584年11月10日 大坂城 惟宗貞康―――――――――

「では次は陸軍奉行所。」

「はっ。陸軍奉行所からは高山国攻めの経過を報告させていただきます」

康胤が話し始めると次官たちが奉行に資料を渡す。うむ、やはりこっちの方が楽でいいな。いちいち資料を配っていたら時間がかかりすぎる。補佐官と次官連絡会議を作ったのは良かったな。少し時間がかかったがこれで効率よく評定を進めることができるだろう。

「現在、支配下に置いた土地は高山国の南部と北部です。中央は現地人の勢力が想像より大きく地の利もあって少々梃子摺っているようです。また野分の時期もありましたので兵糧の確保のために開墾地の防衛を優先しました。そのため現状としましては高山国の半分も制圧できていません」

「高山国の現地人は11万の兵を退けるほどの兵力を持っているのか」

「いえ、人数自体はそこまで多くないようです。またいくつかに分かれて生活しているようで、仲の悪いもの同士もいるようです。現在は現地人でこちらに付きそうなものと交渉もしております。場合によっては現在の半分以下の兵力でも十分に制圧できるかと」

半分以下で制圧可能か。兵糧もかなり消費するし、高山国に安全に運べるとは限らない。それが半分以下の量しか運ばなくて済むのであればかなり楽になるな。

「分かった。ではまず3万の兵を退きあげさせろ。それでも対応できると判断されたら最大5万まで引き上げさせよ」

「かしこまりました」

「兵たちはどうしている。高山国には日ノ本にはない病もあると聞いているが」

「初めは緊張感があったこともあり生水は飲まない、蚊帳・蚊取り線香は常時使用できるようにしておくということを守っていたため問題ない程度の人数しか病に感染しなかったのですが・・・。現在は気のゆるみからか生水を飲んだりして病にかかるものが出てきたようです。また御隠居様の指示で病で亡くなったものを調べてみると蚊にかまれたものが多数いることが分かりました。現地の医師たちはもしかしたら蚊が病を運んでいるのではないかと」

「蚊が?」

「はい。少なくとも御隠居様はそう御考えのようです」

父上がか。しかし蚊が病を運ぶとは。蚊などどこにでもいるぞ。いまの時期は大丈夫だろうが夏になればうっとうしいぐらい出てくる。それにいちいち気にしながら進軍するとなれば時間がかかるのも仕方がないか。しかし医師たちは何をしているのだ。父上が考えられた教育は受けていたはずだ。それなのに防げないとは。父上が間違っていた?いや、少なくとも父上は不確かなことをあまり口にされない。それなのにわざわざ指示されたということは間違いないのだろう。最近は政に関わることが減った分、文献などを読んで流行り病の原因を調べたりしているらしい。ならばそう間違いとは思えんな。

「とりあえず兵たちに今一度生水などの事を徹底させよ。それから総務奉行所は現地に送る医師を増やせ。これから移民たちも増えていくのだ。病のせいで失敗などしたくない」

「かしこまりました」

俺の言葉に智正が頭を下げる。次官たちは素早く手元の覚書帳に書き込む。

「南部に城を築く計画はどうなっている」

「そちらは順調に進んでおります。年が変わるころには完成しているだろうと」

「そうか。他に何かあるか」

「陸軍奉行所からは以上です」

「次は産業奉行所」

「はっ」

俺の言葉に盛円が軽く前に出る。しかし盛円も隠居か。早いものだな。

「産業奉行所からは高山国での開拓状況をご報告させていただきます。まずは資料をご覧ください。一枚目には開墾の進行状況が書かれてあります。二枚目には現地に渡った移民の数とこれから送り込む移民の予定表です。こちらを見ていただければわかるかと思いますが年貢を徴収できるようになるまであと数年はかかる見通しです」

「たしか年貢は開墾が始まって3年後から徴収をすると伝えていたのだったな」

「はい。しかしこのままでは少し厳しいかもしれません」

ふむ、無理に年貢を徴収すれば移民の希望者は減ってしまうかもしれない。そうなればこの高山国攻めの半分は失敗ということになりかねない。それは困る。せっかく日ノ本が統一されて太平の世になろうとしているというのに天下人が失敗したとなれば、惟宗の支配に不満を持つ大名たちが反乱を起こすやも知れない。

「仕方ない。年貢の徴収は5年後からとしよう」

「御屋形様!?」

「なんだ、良通。反対か」

「ただでさえ必要な物資を無償か格安で渡しているのですぞ。費用が掛かりすぎます」

「しかし失敗すればそれ以上の損害を被ることになるぞ。そうでなくても南蛮が高山国を攻め取れば明との交易を独占しかねない。それに費用など成功すればあとからいくらでも回収できる。これは必要な費用だ」

「・・・かしこまりました」

不満そうではあるが良通は引き下がる。

「御屋形様、その費用の事ですが」

「どうした。何かあったのか」

「どうやらそこまで必要ないかもしれません。昨日連絡が入ったため次官連絡会議には提出できなかったのですが」

そういうと盛円の後ろに控えていた輝弘と高虎が皆に資料を配る。

「北部にて金山が見つかりました。なかなかの量になるかと思われます。これを使えば費用の面では問題ないでしょう」

「そうか。すぐに必要な人員を送り込め。次の評定までに計画を建てることはできるか」

「大まかなものでよろしければ」

「構わん。急げ」

良かった。無駄な銭を払わなくて済みそうだな。むしろ量によっては金山だけで儲けが出るかもしれない。運がいい。これはなかなか幸先の良い出だしではないか。

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