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徳川家康

―――――――――――1584年10月25日 大坂城―――――――――――

「そろそろ評定は始まっているかな」

「左様にございますな」

そう言いながら家康は香車を一つ前に動かす。居飛車穴熊か。我慢強い家康らしい囲いかな。姿焼きにしてやる。

「そういえば今回の評定から新たな仕組みができるとか」

「まあな。評定の前日に次官たちだけで会議を行う。名前はそうだな、次官連絡会議とでもしておくか」

そう言いながら美濃囲いを作るべく駒を動かす。最近は高美濃ばかり指している気がするな。

「そこの進行は誰が務めるのですか。評定でしたら御屋形様が進めますが次官連絡会議には御屋形様は出席なさらないのでしょう」

「補佐官という新しい役職を作ることになった。首席補佐官が一名と次席補佐官を三名つける。次官連絡会議では首席補佐官が司会を務める」

「補佐官の仕事はそれだけですか」

「ほかにも将軍との面会の調整、将軍と相談して将軍の予定を立てる、将軍の身の回りの世話をするものの監督をさせるつもりだ」

イメージとしてはアメリカの補佐官のようなものかな。史実でいうところの側用人といったところか。

「その首席補佐官殿には誰を」

「首席補佐官には康正、次席補佐官には古川智次・神代種良・吉弘康理に命じようと思っている」

智次は譜代だし、種良と康理は九州統一時から仕えている準譜代だ。信用できる。首席補佐官の康正は言うまでもないな。

「意外ですな。一門衆を幕府の要職に据えられるとは」

「優秀で信用出来れば要職も任せるさ。それに選んだのは俺じゃない。貞康だ。あいつにはあいつなりの考えがあるのだろう」

補佐官は将軍を側で支える役だ。将軍が信用できる奴じゃないと意味がない。ただし補佐官の任命は奉行の過半数の賛成が無いとだめということにした。あほな将軍が変な奴を補佐官にするのを防ぐためだ。まぁ、政治の形は整っているから将軍や補佐官があほでもなんとかなるだろうけど。

「それよりお前は何を考えているんだ」

「はて、何のことでしょうか」

「後継ぎの事だよ。まだ決めていないのだろう」

「あぁ、そのことでしたか」

とぼけたように返事をしながら家康は駒を進める。うーん、なかなか守りが固いな。

「嫡男の信康が生きていてくれたらよかったのですが。いやはや、なかなか人生というものはうまくいきませんな」

「家臣たちも割れているそうではないか。次男か三男か。お前が幕府の要職に付けなかったせいで家臣たちも不満に思っていると聞いているぞ」

世鬼衆の知らせでは、いまのところ幕府に不満を持っている奴で一番大きい勢力となっているのは徳川家臣団だ。何とか家康を幕府の要職に付けようとして正信あたりにまで声をかけたらしい。ま、そのせいで正信は逆に貞康に怪しまれて次官になれなかったんだけどな。

「これはさすが幕府の忍びですな。いちおう徳川も忍びを雇って怪しいものを探らせているのですが」

「それでどうする。一部には過激な思想を持った輩もいると聞くぞ」

「ご安心を。少なくとも某の目が黒いうちは謀反など起こさせません。それに何か喚いている輩は所詮小物です。口だけの輩など御隠居様がお気になさるようなことではございませんよ」

胡散臭いなぁ。どうも史実でやっていたことをしているから信用できない。

「まぁ、動いたらすぐに潰すからな。たとえ熊太郎の外祖父だとしてもだ」

「もちろんにございます。しかし家臣たちが納得しないかもしれません。三河武士はどうも頑固で視野が狭くて」

「そんなのお前が何とかしろ。それが当主というものであろう」

「左様にございますな」

ニコニコしながら駒を指しているけど、さらっと脅してこなかったか。高山国攻めのせいで兵がいつもより少ないから多少強気に出ても問題ないとでも思われているのだろうか。さて、そろそろ姿焼きにしてやるか。

「跡取りはまだ幼いからな。仕方ないだろう。だが早めに決めておかないと家臣たちがどこぞの誰かに扇動されてどちらかを担ぎ上げて反幕府的な行動をとるかもしれんぞ。お前の命もいつまで持つか分からんしな」

「御忠告痛み入りまする」

「そうそう、実は惟将がそろそろ隠居したいと言ってきてな。惟将の後は正信に任せようと思っている。もし何か困ったことがあれば相談するといい」

「重ね重ねご配慮ありがとうございまする」

史実の徳川ならともかくこの歴史の徳川なら軍事的にはそこまで脅威ではない。だが誰と接触して何をするか分からないというのは不安だ。ならばこちらから窓口を作ってやって行動を制限した方がいいだろう。正信ならそう簡単には裏切らないだろう。

「それともし家督を誰に譲るかでもめそうならいつでも言ってこい。一番平和的に解決してやろう」

「平和的にですか。気になりますなぁ」

「二人でもめるなら領地を二つに割ればいい。ただそれだけだ」

そしてどちらか一方を適当な理由を付けて潰す。徳川の力を削ぐにはこれが一番いいだろう。ま、家康がそんなへまをするとは思えないけど。

「それは困りますな。家臣たちにそう伝えておきましょう」

「せいぜい家を割らないよう気を付けることだな。さて、そろそろ詰みだな」

「そのようですな。参りました」

そう言って家康が頭を下げる。ふん、手を抜きやがって。やっぱり信用できないな。

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