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法人税

―――――――――1584年2月10日 大坂城 惟宗貞康―――――――――

「ふう」

一通り仕事を終えて思わず溜息が出てしまった。やれやれ、この程度で疲れていては到底日ノ本を泰平の世にすることはできんな。とりあえず休憩するか。

「御屋形様。良通様と盛円様が参られました」

一息つこうとしていたところで於義伊が外から声をかけてきた。そういえば徳川は嫡男を失ってからまだだれを跡継ぎにするか決めていなかったな。父上が最も警戒している大名だからたとえ舅殿とはいえ気を付けないと。

「そうか。通してくれ。それから茶と菓子を頼む」

「かしこまりました」

さて、どのような用事かな。

「失礼いたします」

「失礼します」

そう言って良通と盛円が入ってくる。

「よく来たな。まぁ茶でも飲みながら話を聞こう。いま於義伊に持ってくるよう命じているのだ」

「お心遣いいただきありがとうございます」

「なに、俺が飲みたいだけだ。気にするな」

惟宗で使われている茶はなかなかうまいからな。正月には帝にも献上されている。たしか筑後の方で作られているのだったな。父上が指示して作り始めたと聞いている。どこにでも父上の名前があるな。俺もそれだけの成果を出せているだろうか。いや、これからそれだけの成果を出していけばいいだけだ。それに父上は熊太郎に父上や俺のような天下人になる必要はない、と言ったと聞いている。ならば俺も父上のような当主になる必要はないか。俺は俺なりに何とか天下を纏めて見せる。

「失礼します。茶と菓子をお持ちしました」

「おぉ、入れ」

「失礼します」

そう言って於義伊が茶と菓子を持って入ってくる。それを各人の前に置くと一礼して部屋から出ていった。今日の菓子は羊羹か。

「まずは良通から話を聞こう」

「はっ。町人と商人から税を取り立てる法案がある程度できましたので評定に提出する前に御屋形様に御不満が無いか確認して頂けれたらと」

そう言って良通が紙を差し出す。どれ、見てみるか。

「・・・ほう、町人から徴収する税は商人に纏めて提出させるのか」

「はい。まず雇い主である商人が町人に支払う給料から税金分を抜いておきます。そして半年に一度その集めておいた税金を商人に払わせます」

なるほど。それならばいちいち年貢のように一人ひとり集める必要はないな。

「それでその商人からはどう集めるのだ」

「まず店がある郡の役場に登録をします。そして登録した役場に帳簿を毎年提出させて、その時に一年間の利益の2割を支払わせます。またこの登録した商人には複式簿記を使うよう指示します」

「2割か。商人の反発がありそうだな。登録しなかったり税を支払わなかったりした場合はどうする」

「まずはその商人に登録や納税を速やかに行うよう警告をします。忘れていただけかもしれませんからな。しかし警告を無視した場合は担当の者たちを送り込んで家財を全て没収します」

「そうか。ふむ、問題ないのではないか。ただすべての商人が複式簿記の知識があるとは思えん。そのあたりの対応策を次の評定までに考えておいてくれ。それからどこの奉行所が家財の没収を担当するかもだ」

「かしこまりました」

複式簿記は父上が南蛮から輸入したものを日ノ本に合うように改良したものだ。惟宗が使っているので有力な商人たちの中にも使っている者はいるらしいがまだ少ない方だ。だがなかなか便利だからこれを機会に広まってほしいものだ。

「次は盛円だな」

「はっ。高山国の北部と南部を制圧したため移民たちを送り出す船が坊津より出港しました。その後報告に」

「そうか。まずは北部だったな。高山国攻めはどうだ。順調か」

「問題なく進んでおります。むしろ予想より先住民からの攻撃が少なく困惑しているようです。詳しくは次の評定の際に陸軍奉行所から報告がございましょう」

ふむ、さすがに10万以上の敵を前にして地の利もないと判断したのだろうか。ならばこちらに降伏するはずだが。そういえば現地の言葉を話せるものはいたかな。あとで確認しておくか。

「まずは第一陣からだったな」

「はい。まずは1万人を送り込んでいます。海の様子を見ながら五回に分けて10万人を送り込む予定です」

最初はそんなものでよいだろう。あとは20年ほどかけて増やしていけばよいのだ。いずれは九州と同じくらいの人口になればよいのだが。

「それと一つお願いしたきことが」

盛円がおずおずといったように言う。はて、何だろうか。盛円はあまり自分から何かを望むということが少ないから少し意外だが。

「ん、何だ。言ってみよ」

「さすれば某の隠居の許可を願いたく」

「隠居だと。それは・・・少し早いのではないか」

いや、そうでもないか。盛円はもうすでに60過ぎ。そういえば同じくらいの歳の智正もそろそろ隠居を考えていると誰かが言っていたな。寂しいものだな。

「家督は誰が継ぐ」

「景満にと考えております」

「景満か。いまは何をしていたかな」

「内務奉行所の水運局長を務めておりまする」

水運局と言ったら河川や湊の整備を担当する局であったな。あれの局長をしているのか。局長までになったということは優秀なのだろうな。

「そうか。寂しいが来年度からの家督相続を認めよう。奉行職の後継者は誰にするのがよいかな」

「輝弘殿もいつ隠居してもおかしくない歳ですので高虎殿の方がよろしいでしょう。高虎殿の後継は・・・特許局長の中原安忠殿はいかがですか」

「いや、特許局は最近できたばかりの部署だ。安定するまでは変えない方がよいだろう。鉱山局長の松尾智保にしよう」

「かしこまりました」

そろそろ高齢になってきた奉行・次官たちの後継者を考えておかねばならないかもしれないな。しかしなかなかいないんだよなぁ。戦乱の世を父上が幼いころから支えてきた者たちと比べるとどうしても見劣りしてしまう。まぁ、何とか見つけるしかないか。

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