高山国攻め
―――――――――――1583年11月1日 大坂城――――――――――――
「そうか、出陣したか」
「はい。まずは先鋒隊3万が坊津から出陣いたしました。本隊も今日大坂を」
貞康の報告を聞いて溜息が出そうになる。いよいよ惟宗が天下を統一してから初めての外征か。日ノ本の歴史の中でも何百年ぶりだろうか。たぶん白村江の戦い以来じゃないかな。この戦は間違いなく歴史に残るだろうな。どう残るかはわからないけど。日ノ本の領土を広げることに成功した戦としてか、惟宗国康が晩節を汚した戦としてか。あぁ、それから近代的な陸軍編成を用いた軍隊の最初の戦とも名を残すことになるかな。
「兵站の方は問題ないか」
「大丈夫かと。すでに兵糧等は琉球に搬入済みです。警備も陸軍から一個歩兵連隊を派遣しています。万が一琉球が裏切ったとしても兵糧等を守ることはできるでしょう」
琉球の兵力はだいたい2~3千だ。一個連隊の人数は2500人だから対応できるはずだ。それに琉球王国には惟宗の家臣を数名送り込んでいる。何か動きがあればそいつらが教えてくれるはずだ。
「船の方は問題なく作れたのだな」
「はい。問題ありません」
不安の多い俺とは違って貞康は自信ありげに頷く。この船は諸大名たちにも軍役として作らせた。戦には参加しないとはいえ、兵糧の供出に造船費用の負担。かなりの出費になっただろうな。これからも造船費用は負担させる予定だから場合によっては史実より財政が厳しいことになるかもしれないな。
「高山国に住む者たちにはすでにこちらに付くよう伝えているのだろうな」
「はい。しかしまだ態度を鮮明にしていません。惟宗の兵の数を見て降伏するかと思いますが・・・」
現地人には地の利があるからな。敵対すればそう簡単には潰せないかもしれない。それに兵たちが日ノ本にはない病に苦しめられる可能性もある。生水は飲まないよう厳命し、蚊からの感染を防ぐために長袖の軍服を採用し、数年前から領内で栽培している除虫菊を使って製造した蚊取り線香や蚊帳も大量に持たせているが万全とはいえないだろう。
「いずれにせよ油断はするなと伝えておけ。このような戦で手間取りたくない」
「はい」
負けることはないだろう。史実の朝鮮出兵とは違って高山国には政権というものが存在しない。せいぜい先住民族の村がいくつかある程度だったはず。正直そこまで兵力はいるかとも思ったけど念には念をだ。ルソンにいるイスパニアが何かしてくるかもしれないからな。
「ルソンのイスパニアはどうしている」
「不自然な動きはありません。しかしルソンを支配していた者が交代するようです。そのあとはどうなるか、読めません」
「交代か。そうなると琉球の件を使って脅すことはできなくなるのか」
面倒なことだ。むしろ琉球の件が伝わって本国が激怒して攻めてくるかもしれない。ルソンの兵力程度であれば問題ないのだが・・・。
「移民の準備は早めにしておけよ。それから必要なものは出来るだけ準備しておけよ。もし移民たちが必要だといえば5年間はただでくれてやれ」
「分かりました。すぐに九十九に準備するよう伝えます」
「頼んだぞ」
貞康は少し意外そうな顔をしたがすぐに返事をした。九十九の株のうち7割は惟宗が保有しているから惟宗が支払った分の一部は配当金として回収できる。もちろん利益が出なければ意味がないが、史実の三井財閥の創始者である三井高俊が代表取締役社長だ。そう事業に失敗するようなことはないだろう。
「農民の準備はもう済んでいるのだろうな」
「もちろんです。いつでも出発できる状態になっています。現在は坊津で造船作業をさせています」
「そうか」
貞康め、すっかり手際が良くなってきたな。もう30過ぎなんだからそれも当然か。この間娘の松が生まれて気が引き締まったのかもしれない。いつまでも俺に頼っているつもりはないということか。嬉しいような、寂しいような。そろそろ政治面で口を出していくのもやめようかな。
「そこまで準備ができているのであれば問題ないな。あとは高山国からの知らせを待つだけだ。そういえば司令官は誰にしたのだ」
「貞親に任せました。高山国攻めを言い出したのはあいつですので」
貞親か。少し不安が残るが優秀な参謀たちがついているはずだ。あいつは素直だからちゃんとまわりの意見を聞くことができるだろう。しかしこの間雪が妊娠したとか言っていたのだが。妊娠した時に夫は単身赴任か。政千代に頼んで様子を見てもらうようにしよう。
「そういえば熊太郎がこの間戦に出たいと言っていたが何か言っていなかったか」
「出陣の前にずいぶんとごねていました。自分にも早く初陣をさせてくれとか」
「はははっ。いちおうこの間言って聞かせていたのだがな。まぁ、あの年ごろの男子であればだいたいあんなものだろう。じきに治るさ」
「のんきなことを言わないでくださいよ、父上。なだめるのにかなり苦労したのですぞ」
「よいではないか。子供は手がかかる時期が一番かわいいのだぞ。今のうちにしっかりかまってやれ。元服も済ませれば急に賢しくなるからなぁ。面白くないわ」
「はいはい。父上も熊太郎をあまり甘やかさないでくださいよ」
貞康がこちらを呆れたように見ながら言う。
「分かっておる。別にお前の時だってそこまで甘やかしていないだろう」
「鶴の時はずいぶんと甘やかしていましたが」
「お?そうだったかな。まぁ、あと数年もすればお前にも分かるようになるさ」
貞康は俺の血を引いているからな。間違いなく娘に甘い父親になるぞ。そのせいか順慶は結婚してすぐ尻に敷かれたらしい。二人の孫娘もどんな性格になるか、楽しみなことだ。




