交渉
―――――――――――1539年11月22日 岸岳城―――――――――――
「申し上げます。平戸松浦から使者が参りました」
「分かった、評定の間に通してくれ」
「はっ」
一礼して小姓が下がる。しまった誰が使者としてきたのか確認するのを忘れてた。まぁいいか、たぶん親族衆の世知原定治か譜代の籠手田安昌のどちらかだろう。いや、俺が直谷城を攻略したせいで世知原城はいま孤立している状態にあるから定治は動けないはず。じゃあ安昌の方か。
評定の間に行くと男が平伏していて評定衆がいつもの定位置に座っている。
「お初に御意を得ます。松浦興信が家臣籠手田安昌と申します」
「宗熊太郎だ。面を上げよ」
「はっ」
安昌が顔を上げる。なんか強面な奴だな、相手になめられないように強面の奴を送ってきたんだろうか。
「それで今回の要件は何だ」
「我ら平戸松浦家は宗家に降伏いたします。今回はその条件をまとめに来ました」
「その前に確認だがそれは松浦興信の独断か、それとも家臣たちが納得しての降伏か」
「皆。納得しての降伏です。むしろ宗家が降伏を飲むかを案じておりました」
意外だな。確か龍造寺が大きくなってきたときは降伏しないで徹底抗戦だったはずなんだが。いや、あれは息子の隆信の方だったか。今どうしているのかな。たぶん元服前で源三郎と名乗っていたはずだけど。
「では、降伏の条件を言う。一つ松浦興信は隠居して源三郎が家督を継ぐこと。二つ松浦興信は杉隆景の娘と離縁すること。三つ世知原・深江・宇久は平戸松浦家から独立し宗家の直臣となること。四つ現在の領地を今福・相神浦と領地替えすること」
一つ目は責任を取って隠居だから認めるだろう。自分の息子に家督を継がせることができるわけだしな。俺としても当主が幼い方が何かと都合がいいだろうし。
二つ目は仕方ない。俺はどちらかといえば反大内派だから大内の重臣の娘と家臣が姻族関係になっているのは困る。
三つ目は平戸松浦家の力を出来るだけ削いでおきたいから。
問題は四つ目だな。今福・相神浦は相神松浦の支配地だったところだ。もしかしたら嫌がるかもしれんがこれだけは認めさせないといけない。なんといっても平戸は長崎が開港する前までは南蛮貿易で栄えていたところだし明からも私貿易で船が来ているらしい。有名どころでは王直とかだな。王直は鉄砲を日本に持ち込んだ人物だと言われている人だ。これから鉄砲が広がるのは仕方ないけど出来るだけその時期を遅らせるためにも平戸と王直は押さえておきたい。
「この条件が認められるのであれば降伏を受け入れよう」
「一つ目と四つ目は受け入れられますが・・・残りの二つは私の一存では何とも言えません」
え、領地替えはあっさり認めたのに残りの二つはダメってどういうことだよ。
「宗は大内と不仲であることは知っているだろう。なぜ二つを認めることはできん」
「ですがまだ修復可能であるはずです。今ここで離縁することで大内が攻めてくる可能性があります」
「では聞くが大内が攻めてきたときに平戸松浦は寝返らないと断言できるか。源三郎は母親に説得されて大内につかないと断言できるか。源三郎やお前が認めなくても世知原・深江といった親族衆が源三郎を殺して大内につこうとしないと断言できるか」
「それは・・・。分かりました、いったん持ち帰って検討させていただきたいのですが」
「いいだろう、ただ10日以内に返事を持って来ない場合は攻撃を再開する。それまでに返事を持ってきてくれよ」
「はっ」
――――――――1539年11月23日 勝尾嶽城 松浦興信――――――――
「妻との離縁か。大内が何と言ってくるか」
「はい、そのことは伝えたのですがそのままでは我らが裏切るのではないかと心配しているようです」
「仕方あるまい。妻には儂から伝えておく」
「お願いいたします。あと世知原・深江などの独立ですが」
「それも後で言っておく」
これで何とか平戸松浦家を存続させることができるな。
「それにしても大内と敵対して宗はどうするつもりなのだ」
「恐らく大友と手を組むつもりではないでしょうか。九州で大内と互角に戦えるのは大友ぐらいですので」
「しかし伝手はあったかな」
「少弐を通じてということもあり得るかと。宗と少弐は没落前からの付き合いだったはずです」
「最近はあまり交流はないようだが」
「少弐は味方が欲しいはずですのでじきに使者が岸岳城に行くでしょう」
そこに乗じて勢力を伸ばそうと思っているのだろうか。なんというか宗に有利な状況ばかりだな。おそらく我らを相神浦に移すのは有馬・大村の盾に使おうと思っているのだろう。だから降伏したとはいえ敵対した我らにそれなりの領地を持つことを認めたのだろう。
「殿、大内と関係を断つのであれば諱を変えた方がよいのではないでしょうか」
「そう言えば興は大内義興からもらったのだったな。露骨に変えると大内に恨まれるかもしれんから出家するか」
「それがよろしいかと」




