表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
268/402

将棋所・碁所

―――――――――――1582年9月30日 大坂城――――――――――――

「うーん、詰みだな。参った」

「ありがとうございました」

俺が降参すると宗桂はどこかほっとしたように頭を下げる。いやぁ、今日こそはいけると思ったんだけどな。なかなか勝てない。さすが初代名人大橋宗桂。そう簡単には勝たせてくれないか。普通なら天下人相手なんだから手加減するんだけど、こいつは将棋に関しては一切妥協をしない。俺としてはあと少しで勝てそうな気がしたんだけどな。

「なかなかお前には勝てんな」

「いえいえ、御隠居様はなかなか腕をあげておられます。いつ手前が負けることになるかとびくびくしております」

「はははっ。宗桂は世辞もうまいな」

かれこれ今世では40年以上、前世を含めれば50年近く将棋を指しているがとても初代名人に勝てるほどではない。それに初代名人や歴史上の有名人と将棋ができるだけで俺は十分だ。この将棋の間での棋譜は全て記録して惟宗の図書館に収蔵するから、俺の棋譜が戦火に合わない限り残り続けるんだ。未来では俺の将棋はなんて言われるかな。これから考えられるはずの戦法を先取りしているから結構高評価なんじゃないかと期待しているんだけど。

「ところで宗桂。今日お前を呼んだのは将棋を指すためだけではないのだ」

「はて、手前のような将棋指しに何か御用でしょうか」

「実は将棋指しや碁打ちを集めて腕を競う場を設けようと考えていてな。それの準備を将棋は宗桂に、囲碁は算砂か利玄に任せようと思っているのだ」

「将棋指しや碁打ちが腕を競う場、ですか」

俺の提案に宗桂が困惑したように首を傾げる。

「そうだ。日ノ本中の将棋指しや碁打ちを集めて一年間将棋や囲碁をするのだ。名前はそうだな、将棋所と碁所そしてその年の成績や段位に応じて幕府が俸禄を出す」

「幕府が俸禄を出すのですか!」

俺の言葉に宗桂が驚いたような声をあげる。将棋指しや碁打ちと言っても素性の知れない奴もいる。真剣師と言って惟宗が禁じている賭け事をしている輩もいる。そんな奴らを雇うと言っているのだ。驚きもするだろう。

「ほかにも7つほど大会を行い、優勝したものには賞金を出そうと思っている。ま、細かいことはこの紙を読んでくれ」

そう言って側に置いておいた紙を宗桂に渡す。

「拝見します」

そう言って受け取ると食い入るように見る。その紙には前世の将棋や囲碁の段級位制や七大タイトルなどの詳細が書かれている。しかし将棋の叡王戦は囲碁のタイトルと同じ数にするために今回の計画に入れていない。また囲碁の本因坊戦は日本に囲碁を持ち込んだとされる吉備真備にあやかって吉備戦とした。もちろんどのタイトルも世襲ではなく短期実力制だ。

「まことによろしいのですか。将棋や囲碁にこのような銭を使って。惟宗様の利益になるとは思えませぬが」

「構わんさ。むしろ必要だ」

「必要ですか。一将棋指しとしましてはまことに有り難い話ですが、一町人としては必要とは思えませぬが」

「必要だ。これから太平の世になり戦が無くなれば、いつ殺されるかという緊張から解放され余裕が生まれる。その時に必要となるのは娯楽だ。しかしその娯楽が賭博となれば治安が悪くなる。それを避けるためにこちらから人々に娯楽を差し出すのだ。その一つが将棋や囲碁だ」

いつの時代にも娯楽は必要だ。仕事だけの人生なんてつまらないからな。

「対局の結果や棋譜は幕府が最近作った株式会社を通じて人々に知らせる。人々は自らの贔屓の将棋指しや碁打ちの結果を見て一喜一憂する。棋譜を肴に酒を飲みながら将棋や囲碁の話をする。そういう世も悪くないだろう。どうだ、将棋や囲碁の力でこの国を太平の世に導くというのは」

「将棋や囲碁で太平の世に、ですか」

宗桂が少しあきれたようにこちらを見る。将棋や囲碁で太平の世にというのはちょっと言い過ぎたかな。

「かしこまりました。この宗桂、命に代えましてもこの計画を実現させて見せまする」

「うむ、期待しているぞ。細かいところの打ち合わせは文部奉行所の担当の者と相談してくれ」

「はっ」

そう言って宗桂が深々と頭を下げる。なんだか騙しているような気がするな。別に嘘を言っているわけではないのだが宗桂に話したこと以外にもこの将棋所・碁所の目的はある。まずは真剣師など将棋や囲碁で賭け事をしている真剣師の撲滅。これは治安維持政策と言っていいかな。それから人口が増えた時に備えて新たな仕事を作るというもの。これは雇用対策かな。それから浪人対策のため。今は惟宗に滅ぼされた大名に仕えていた浪人たちが巷にいくらでもいる。その中には将棋や囲碁を得意とするものも少なくないだろう。それらを雇うことで少しでも浪人を減らすというものだ。似たような政策として九十九株式会社に傭兵業をやらせようと考えている。それと俺の趣味だな。きっと数百年後には俺にも史実の家康のように十段が贈られるだろう。その時には死んでいるが楽しみだな。惟宗国康十段。うん、いい響きだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ