評定1
―――――――――1582年3月31日 大坂城 惟宗貞康―――――――――
俺が評定の間に入ると奉行・次官たちが一斉に頭を下げる。その間を通って上座に座る。奉行や次官たちの側には大量の書類が置いてあるな。今日は定期的に行われる評定の日だ。それも今年度最後の評定になる。この評定では今年度の各奉行所の一年間の報告が行われる。この評定次第で来年の予算の配分がある程度決まる。
「皆、面をあげよ」
「「「「はっ」」」」
俺に促されて皆が顔をあげる。
「では評定を始めよう。まずは水軍奉行所から」
「はっ。ではまず資料の方を配らせていただきます」
貞範がそういうと氏善と純尭が皆に資料を配る。俺は事前に資料は受け取っている。
「こちらは幕府水軍の増員・造船計画書です。一枚目には現在の水軍の船の数と南蛮諸国の水軍の規模の推定が書かれています。そして二枚目は本年度完成した、または造船を開始した船の数と水軍に所属する兵の数です。三枚目以降は来年度以降の造船計画書にございます」
ふむ、惟宗は天下を取るのに必要なだけの水軍を持っていたが南蛮諸国を相手にするにはまだ足りていないということか。幕府水軍の船の半分以上は兵や兵糧・武器などを輸送するための船のようだな。大砲がついていないものがある。それに惟宗は南蛮船を最も早く取り入れたが水軍の主力はまだまだ日ノ本のものだ。日ノ本から離れて戦をするときにはこの船は使いにくいようだな。琉球攻めの時も南蛮船の方が使い勝手がよかったと聞いている。だが南蛮船を合わせて150か。これはさすがに多いのではないか。
「良通、計画を見てどう思う。これだけの船を作れるだけの財源はあるか」
「何とも。御隠居様が以前仰っていたように大名や商人・町人たちからも税を取ることができれば何とかなるかもしれませんが。今だ大名たちから税を取ることができていません。計画では10年でと書かれていましたが、倍は時間をもらいたい。それから船もできればもう少し小さくして一隻当たりの予算を減らしてもらいたい」
「しかしこれらの船は高山国攻めに使うのですぞ」
「貞範、康胤。高山国攻めはいつごろを予定している」
「来年の台風の時期が過ぎてからと考えております」
そうなるとあと1年以上は時間があるのか。
「盛円、この船を作るだけの木はあるか」
「高山国攻めに必要な分は問題ないでしょう。それ以外ですがその船を配置する場所次第です。高山国に配置するのでしたら彼の地は山が多いと聞きます。開墾の際に切り倒す木を使えば問題ないでしょう」
「ではとりあえず高山国攻めに使う船は早急に計画書通り作り出せ。残りの船はもう一度配置場所を含めた計画書を出すように。財務奉行所と法務奉行所は大名・商人・町人から税を取り立てる法案を早急に提出するように」
「「「はっ」」」
各奉行たちが頭を下げる。やれやれ、最初から揉めるとは思わなんだな。
「水軍奉行所からはまだあるか」
「いえ、高山国攻めに関しては陸軍奉行所からですので」
「そうか。では次は陸軍奉行所」
「はっ。ではまずは先程話に上がりました高山国攻めから。まずは資料を」
康胤がそういうと成幸と義辰が皆に資料を配る。
「この資料をご覧いただければ分かるかと思いますが、これは北条征伐よりも長期間にわたっての戦になります。またこの戦も幕府陸軍のみで行います。大名たちへの軍役は武器・兵糧などを出すようにとするつもりです。それから高山国の移民と開墾は産業奉行所にお任せしたい」
「盛円、大丈夫か」
「問題ありません。土地を所有していない農民や、農民の次男・三男を集めます。開墾した土地は自分たちのものだといえば志願者は多く集まるでしょう」
今は大丈夫でも子や孫、そのまた孫の代になれば相続できる土地は猫の額ほどになるだろう。それを避けるためにも志願は多いはずだ。
「陸軍奉行所からはほかにあるか」
「兵の増員をお願いしたく。現在幕府陸軍は20万です。これは日ノ本の中では問題ないでしょうが、万が一明と敵対するようなことになれば少ないです。ですので増員を」
「良通」
「もし新たに兵を雇い入れるというのであれば費用はかなりのものとなり、幕府の財政を圧迫するでしょう。新たに兵を雇い入れるのは反対です」
国を守るために幕府の財政を捨てるのは良くないが・・・明と敵対した場合は確かに不安だな。今のところはその様子が無くともこれからどうなるか分からん。どうしたものか。
「あの、某からよろしいでしょうか」
「どうした、智正」
「実は近頃、旗本の次男・三男などの幕府に出仕していない者たちが城下で暴れているという報告がありました。おそらく乱世も終わったことで戦場で手柄を立てて領地をもらうことができなくなったからでしょう。幕府に仕えることもできますがある程度頭がよくないといけません。旗本を対象とした法は現在、御屋形様・御隠居様・法務奉行所と検討中ですがまだ時間がかかるでしょう。そこでそれまでの間は、その者たちを陸軍に入れることはできないでしょうか」
「しかしどちらにせよ費用がかさむのでは」
「幕府の役職に就くのは旗本の義務。それは嫡男でなくとも当てはまり、現在家に支払われている銭は次男・三男などの仕事に対する対価も含まれているといえば問題ないでしょう。不満は出るかもしれませんが多少俸禄を増やしてやるだけで十分。普通に雇うより安上がりでしょう」
そうか、どうせ旗本の嫡男以外は暇なのだ。一部の者は能や絵や医術など新たな技術を身に着けようとしているが、皆にその才能があるわけではない。その者たちはやることが無くて今回のようなばか騒ぎを起こす。それなら仕事を与えてやった方がいいな。
「良通、智正の案はどうだ」
「それなら財務奉行所としては問題ございませんが」
「康胤は」
「問題ございません。しかし暴れている者たちのまとめ役は処罰を与えるべきでしょう。まとめ役がいれば陸軍に入れたところで悪さを繰り返すやもしれません」
「そうだな。では陸軍の増員は旗本の嫡男以外の者を加えるものとし、その家には禄を増やしてやること。ただし医術などの道である程度成果を収めたものに関してはこれに当てはまらないものとする。城下で暴れている旗本たちのまとめ役は斬首、そのほかの者は俸禄の増加をなくすこととする。陸軍奉行所から他に何かあるか」
「いえ、ございません」
「そうか。細かいところは担当の者同士で決めて後程俺に提出するように」
しかしやはり早く大名や旗本を対象とした法を早急に作るべきだな。この評定が終わったら父上と相談しよう。父上はある程度案をまとめておられる。それをもとに法を作っていくか。




