高山国
――――――――1581年11月10日 大坂城 惟宗貞康―――――――――
「御屋形様、康繁様と康胤様が参られました」
評定の間で仕事をしていると徳寿丸が外から声をかけてきた。
「通せ」
「はっ」
康繁と康胤か。おそらく高山国の件だな。外務奉行所には高山国を攻め取っても後々面倒なことにならないように明に行ってもらった。おそらくその報告だろう。康胤は高山国を攻め取る際の計画ができたから報告に来たといったところか。
「失礼します」
「失礼します」
そう言って康繁と康胤が入ってきた。康胤は数枚の紙を持っている。
「高山国の件だな。ちょっと待ってくれ」
そう言いながら広げていた書類を纏めて後ろの書類棚に直して高山国のこれまでの資料を探す。これは機密情報もあるから小姓にも重臣にも触らせない。これを始めたのは父上だ。なんでも自分でやりたがる父上らしい。
「わざわざ御屋形様の仕事の手を止めてしまい申し訳ございません」
「なに、次の評定までにある程度把握しておきたかったからな。問題ない」
それにこの仕事はそこまで急ぎではないし、父上が主導しているものだ。父上も問題が無いようじっくり検討していかないといけないと言っていたから急ぎではないだろう。
「それで高山国の件で間違いないな」
「はい」
「じゃあ、康繁の方から聞こう」
「かしこまりました。明に高山国の件を尋ねましたが、問題ないと。また高山国に使者を送りましたが、現地の日ノ本の民の話では国のようなものは存在しないとのことです。おそらく日ノ本に伝わっている高山国の話は誇張されているものともと思われます」
「国のようなものはないのか。そうなると日ノ本にある高山国の情報は話半分に聞いた方がいいかもしれないな。頼久に頼んで細かく調べさせよう」
「それから明ですが高山国の領有は構わないがその近くにある島々は明の領地故、攻めるべからずとのことです」
近くの島々は攻め取れないか。琉球を守るための拠点を作るために攻め入るのだから別に構わないのだが。万が一イスパニアやほかの南蛮諸国に攻め取られる可能性も考えておかないとな。
「分かった。次は康胤の話を聞こう」
「はっ。まずはこちらを」
そう言って持ってきていた書類をこちらに差し出す。
「高山国攻めの計画書にございます。多聞衆に頼んで調べてもらった高山国の地形なども書かれています」
「そうか」
さっと書類に目を通す。それに聞いていた通り山が多い。これでは大軍を動かすのは大変そうだな。それに思ったより大きい。九州と同じくらいか。これを完全に制圧するのにはかなり時間がかかるかもしれないな。
「南部と北部の二か所に上陸するのか」
「はい。今回の高山国攻めはイスパニアなど南蛮諸国から琉球及び日ノ本を守るためです。ですのでまずは南部と北部を制圧して城を築き、イスパニアに備えます。それから少しずつ中央を制圧していくべきかと。また住民が多いのは沿岸部です。そこを抑えることができればすべてを押さえていなくともイスパニアの脅威には対抗できましょう」
「しかし兵糧を運ぶのは大変ではないか。琉球攻めの時も苦労したと聞いているぞ」
「南部と北部を制圧した後に百姓を移住させるのはどうかと産業奉行や内務奉行と相談しています。次の評定で詳しくお伝えすることができると思います」
百姓を移住させるのか。たしか九州では20年以上戦が起きていないこともあって人口が増えていると聞いている。今のところは開墾の余地があるから問題ないだろうが、いずれは開墾する土地がなくなり飢えに苦しむものが増えるかもしれないな。それに備えて今のうちに移住させるのも悪くないかもしれない。それに現地で米を育てることができるのであれば兵糧を運ぶ手間もだいぶ省けるな。しかし産業奉行は確か高山国を制圧した後は砂糖を作る計画を立てていたはずではなかったか。まぁ、高山国は広い。米も砂糖も両方作ることができるだろう。それに産業奉行所も大隅の熊毛郡や奄美のように砂糖だけを作らせようとしていたわけではあるまい。必要な分は米を作らせる計画はあったはずだ。問題はないだろうな。
「そうか。盛円と康興には前向きに検討するよう伝えておこう。高山国を平定するのにはどれほどかかる予定だ?」
「3年から5年と見ています。しかし開墾の進捗次第ではそれより長くなるかもしれません」
「兵の数は南部で6万、北部で5万か。足りるのか」
「問題ないでしょう。国と呼べるものが無いのでしたらそこまで手間取ることはありません」
だといいのだが。現地人は日ノ本の言葉を解さない者が少なくないだろう。そこの反発を何とかしないといけないな。そのあたりのことは父上や奉行・次官たちと共に対策を練ればよいか。まずは制圧を確実にしないと。
「外務奉行所は現地人と惟宗につくよう交渉せよ。待遇は日ノ本の民と同じでいい。日ノ本の民が移住するのに待遇が違えば不満も出るだろうからな。陸軍奉行所は水軍奉行所と連携して準備を進めよ。次の行状で正式に決定する」
「「はっ」」
さて、あとで父上に報告に行かないとな。




