新たな幕府
――――――――1580年10月30日 大坂城 松浦康興―――――――――
大広間に入るとまだ少し早かったようであまり人は集まっていなかった。この間遅れそうになったから少し早く来てみたのだが。
「康興殿」
後ろから声をかけられて振り返ると康胤殿がいた。
「これは康胤殿。お久しぶりですかな」
「そうですね。先の戦では某は御屋形様の隊にいましたが康興殿は後方で兵糧などの輸送の指揮を取られていましたからな。軍議の席で顔は見かけましたがこうして話をするのは久しぶりです」
「先の戦でも手柄をあげたと聞いていますぞ。康繁殿も蠣崎の降伏交渉で使者を務めたとか。某とは大違いですな」
「いえいえ、康興殿が兵糧をしっかりと送ってくださるからこそ、我らは戦に集中できるのです。康興殿は我らよりよっぽど大きな仕事をなさっているのですよ」
だといいのだが。
「某など戦が無くなった太平の世では役立たずですよ。これからは康興殿や三成殿のような方々が中心となるでしょう」
「いや、康胤殿も領内の内政には力を入れていると聞きますぞ。御屋形様や御隠居様もそのあたりの事はご存知でしょう」
「だといいのですがね」
少なくとも康胤殿が用済みになることはないだろう。それはこれまでの功績を見ても明らかだ。万が一康胤殿が冷遇されるようなことがあれば御屋形様に抗議しよう。同時期に小姓になったもの同士だからか、康胤殿と康繁殿とは妙に気が合う。もし何らかの役を命じられたら一緒に仕事をしたいな。
「今日集められたのは新しい奉行についてでしょうか」
「でしょうね。先の戦でついに日ノ本を統一することができましたから。これまでは奉行所を設けるとしか知らされていないので」
惟宗に歯向かった大名たちは皆攻め滅ぼされるか改易された。これで惟宗の支配下に入っていない大名はいないことになる。これで太平の世だ。この機会にこの間認められなかった家督相続を認めてもらいたいのだが無理だろうか。
「なんだか夢のようですね。我々が御隠居様にお仕えし始めたころはとてもこのような日が来るとは思っていませんでした」
「そうですな。大友に島津に大内・毛利。惟宗の周りには多くの大大名がいました。それを滅ぼし、従えてきたのですから御隠居様はすごいですな」
「まったくです」
あの時は誰にも惟宗の天下を予想できなかっただろう。しかし御隠居様は天下を取られた。
「まもなく御屋形様と御隠居様が参られます」
どうやら康胤殿と話をしていると時間になったらしい。慌てて自分の場所に移動して頭を下げる。すぐに御屋形様と御隠居様が入ってきて前を通り過ぎる気配がした。
「皆、面をあげよ」
御屋形様に促されて顔をあげる。御隠居様は御屋形様の後ろの方に座っておられる。しかしお二人で来られるのは珍しいな。やはり新しい奉行の発表だろうか。
「今日集まってもらったのは、まぁある程度予想はしていたと思うが新たな幕府の運営を行う奉行所の説明とその頭の奉行の発表と、熊太郎の傅役の発表、それから新たな暦の制定だ」
御屋形様の言葉に皆がざわめく。奉行は予想通りだった。傅役もまぁ、少し早いような気がするがおかしくはない。が、新しい暦?
「まずは新しい奉行所だがこれまで内政を行っていた各部署を仕事の内容別に9個の奉行所に分ける。そのまとめ役を奉行、その下に奉行の補佐役として次官を2人付ける。そしてその下に各部署を設置する。奉行・次官は基本的に大名から選ぶが世襲ではない。旗本の中で優秀な者がいればそのものを大名と同じ扱いとして奉行・次官には任命することもある。5日に一度、将軍と奉行と忍びの頭目である忍頭で評定を行う。奉行所で行うことは基本的に鎮守府大将軍の許可を得て行うこととする。なおこの制度を採り入れるにあたってこれまでの評定衆・奉行職・兵站衆などは、今後使用しない。それらの下で働いていた部署は新しい奉行所に組み込まれる」
そうなるとここで発表される役は27か。次官でもいいから入っているといいのだが。
「まず水軍奉行所。これはこれまでの水軍衆と同じものだ。水軍の作戦立案・水軍の兵の教育・造船の計画・水軍の維持などを行う。奉行には山本貞範、次官には堀内氏善・宇久純尭」
「「「はっ」」」
「二つ目は陸軍奉行所。これは水軍奉行と似たようなものだ。陸での戦をする隊を陸軍とし、陸軍の作戦立案・陸軍の兵の教育・武器の管理・兵站などを行う。奉行には千葉康胤、次官には平田成幸・島津義辰」
「「「はっ」」」
よかった、康胤殿は選ばれたか。今のところだと譜代・準譜代・外様が一人ずつといったところか。譜代・外様関係なく選ぶのはこれまでと同じみたいだな。
「三つ目は外務奉行所。仕事の内容は外交衆と同じだな。奉行には武田康繁、次官には柚谷貞弘・相良頼房」
「「「はっ」」」
「四つ目は文部奉行所だ。これは諸宗派・神社・キリシタンなどの宗教関連・有形無形の文化財の保護・教育を行う。奉行には細川藤孝、次官には蒲生氏郷・毛利輝元」
「「「はっ」」」
「五つ目は法務奉行所だ。これは日ノ本にやってくる日ノ本以外の民の監視・幕府が定める法度に違反したものの逮捕・大名、旗本、その他の民の訴訟の判決などを行う。奉行には伊勢貞良、次官には仁位盛家・阿蘇惟将」
「「「はっ」」」
「六つ目は産業奉行所だ。ここは鉱山の管理・開墾の指揮・新たな技術の開発などを行う。奉行には佐須盛円、次官には大内輝弘・藤堂高虎」
「「「はっ」」」
「七つ目は内務奉行所だ。ここは戸籍の管理・街道、河川の整備・直轄地の町の整備などを行う。奉行には松浦康興、次官には津奈貞之・石田三成」
「「「はっ」」」
よかった。康胤殿、康繁殿が呼ばれたのに俺だけ呼ばれないということになるかと思ったが、なんとか呼ばれたみたいだな。
「八つ目は総務奉行所だ。ここは直轄地の検地・大名、旗本の監視・災害の対策、対応・病院の運営などを行う。奉行には井出智正、次官には大谷吉継・増田長盛」
「「「はっ」」」
「最後は財務奉行所だ。ここは年貢や税の徴収・幕府の予算編成などを行う。奉行には倉野良通、次官には長束正家・東時忠」
「「「はっ」」」
これで奉行は終わりか。次は傅役かな。




