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奥州征伐と高山国

―――――――――――1579年12月10日 大坂城―――――――――――

「御隠居様、頼久にございます」

「頼久か、入れ」

俺に促されて頼久が将棋の間に入ってくる。軽く一礼すると俺の正面に座った。

「奥州のことだな」

「はい。御屋形様より御隠居様にもお知らせするようにと」

別に知らせなくてもいいのに。知りたいと思ったらこっちから聞くんだから。伊達より南の反惟宗派の大名を攻める時だって結局、俺は先に帰ったんだし。そのあとは問題なくきっちり制圧していた。降伏してきた大名は当主は切腹し、それ以外の家臣や一族は浪人となった。抵抗した大名はもちろん一族郎党皆殺しだ。日ノ本での戦にはもう完全にかかわるのをやめよう。貞康も家臣たちもやりにくいだろう。俺は内政により力を入れるとするか。

「ま、将棋でもしながら話を聞こう」

そう言って自分の歩を五つ取る。

「では歩で」

「俺はとだな」

そう言って駒を振る。えっと、歩が2枚だから俺が先手だな。

「それで奥州の大名たちはどうしている」

そう言いながら飛車を角の横に持ってくる。最近この手にはまっているんだよな。確か前世では七八飛戦法とか猫だまし戦法とか言われていたはずだ。

「小野寺は戦の準備をしているようです。どうやらこちらに降るつもりはないようですな。それから最上八楯と呼ばれている国人たちも戦の準備をしています」

「最上八楯というとあれか。義鎮がいる天童とかの」

「そうです。ですが義鎮がこの動きに関わっている様子はありません」

あいつ、惟宗領から追い出されたときのあの態度は本当に何だったんだ。いや、反抗しろよとは言わないけど。円月みたいにもう少し抗ってやろうとかそういう気持ちはないのかね。今頃あの世で円月やあの戦で死んだ大友家臣たちは呆れているだろうな。

「それから南部ですが現当主の信直が家督を継ぐまでにかなりの混乱があったため、家臣だった大浦為信と敵対しています。また家臣の九戸政実が反抗的でいつ反乱を起こしてもおかしくないほどだとか。北条征伐の際に参陣しなかったのはいつ何が起こるかか分かったものではないからだと思われます」

南部は前世でも少し調べたことがあるだけど意味が分からなかったもんな。だけど混乱しているならむしろ参陣すればよかったのに。参陣している間に何かあれば惟宗が征伐するだろうとか考えなかったのかな。それとも惟宗に借りを作りたくなかったとか。だとしたら独立志向の強い大名だな。南部は「三日月の 丸くなるまで 南部領」と言われるほど大きかったんだ。そのあたりのプライドもあって惟宗の下には付きたくなかったのかもしれないな。惟宗の下につけば何かと口出しされることもあるだろうし。

「惟宗としてはこの御家騒動があるおかげで制圧する際はそこまで苦労しないでしょう」

「だといいがな。他はどうだ」

「由利十二頭はほとんどが大宝寺の傘下に入っているため問題ありませんが、矢島・禰々井は小野寺に通じています。和賀は戦の支度をしていないためこちらに挨拶に来るものと思われます」

「改易されるのが分かっているのにか」

自分でいうのもなんだがかなりひどい条件だったと思うんだけど。

「現当主の義忠は隠居して嫡男に家督を譲ったようです。それを持って許しを請うつもりなのではないでしょうか。家督を継いだ嫡男は4歳ですのでそう厳罰は与えられないと考えたようです」

「何とも甘い考えだな」

「左様ですな。大崎・阿曽沼・稗貫・斯波は戦の準備をしています。しかしほかの反惟宗派の大名に使者を送っているのは小野寺・大崎ぐらいですので統一された抵抗はないものと思われます」

それならそこまで苦戦することはないだろうな。10万もいれば十分だろう。

「それで貞康はいつごろ攻め入ると言っている」

「譲位までには日ノ本を統一したいと仰っていたので雪解けと同時に攻め入るようです」

譲位は来年の11月16日だ。たぶん大丈夫だろう。帝も日ノ本が統一されたのを確認してから譲位した方がいいだろうし。


「次に御隠居様から頼まれていた件ですが」

「あぁ、高山国の事だな」

貞親が高山国、つまり台湾を制圧してそこに防衛拠点を作ると言い出した時には驚いたな。

「制圧に関しては明に根回しさえすれば問題ないと思われます。住民は日ノ本の者や唐土の者、南蛮の者と様々です。またルソンにいる配下の者によると琉球を取れなかったことで代わりに高山等を攻め取る可能性は十二分にあると」

だろうな。史実でもオランダが台湾を占拠した。明の貿易を独占するために台湾を攻め取る可能性はあるだろう。

「そうか。検討はしておいた方がいいかもしれないな。貞康に伝えておいてくれ」

「かしこまりました」

台湾は米を作ることができるし、砂糖も作れるはずだ。明との貿易も行えば多額の利益を生むだろう。楽しみだな。

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