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双子

――――――――1579年10月20日 大坂城 惟宗貞親―――――――――

「お、貞親じゃないか」

考え事をしながら廊下を歩いていると正面から内貞が歩いてきた。

「どうした、内貞。今日は確か近衛邸に言っているんじゃなかったのか」

「あぁ、その用事ならもう終わったよ。どうも隠居を仄めかしてからというもの嫌われたみたいでな。必要最小限の話だけで済むようになった」

「はははっ。あの方はどうも話が長いからな。聞いてて疲れる」

近衛様だけでなく公家の方全体に言えることだな。一条様はそれほどではないが二条派の者はどうも話が長いうえに、よく嫌味を言ってくる。

「そうだ、これから一局どうだ」

「いいな。囲碁か、将棋か」

「将棋は父上が戻ってきてからいくらでもする。囲碁にしよう」

「よし分かった。じゃあ俺は藤孝たちに今回の報告をしないといけないから先に行っててくれ」

「分かった。早くしろよ」


「すまん、待たせたか」

将棋の間で四半刻ほど待っていると内貞が入ってきた。

「なに、気にするな。父上の宿題についてまだ考えがまとまっていなかったからな。ちょうどいい時間だった」

「おいおい、北条も降伏して伊達より南の反惟宗派の大名も大半は制圧したからそろそろ父上は帰ってくるぞ。間に合うのか」

そう言いながら正面に座って黒の碁石を自分の方に寄せる。

「何とかするさ。大まかには決まっている。あとは細かいところを決めていくだけだ」

「本当だろうな」

「心配するな。どうとでもなる」

「俺はお前のそういう楽観的なところが不安なんだよ。それで大友の名を継ぐことができるのか」

呆れたようにそう言いながら内貞は少し考えて打つ。

「そういうお前こそどうなんだ。一条家を継ぐのはともかく関白様を隠居させるなんて無理難題にもほどがあるだろう」

「二条を使おうと思う。二条は最近鷹司を再興させたが、そのせいで銭が足りていない。摂関家ともなればいろいろと銭が必要になるからな。そこで銭を援助する代わりに協力してもらっている」

「そうか。摂関家の内、二条派は二条と九条と鷹司で半数以上だからな。そこに一条家が協力してくれれば大丈夫か」

「そうだな。一条は大丈夫だ。俺が家督を継ぐことを認めさせたし、最悪の場合は兄上や父上に頼んで多聞衆か伊賀衆を動かせばいい。それとも俺が独自に忍びを雇うという手もあるがな」

また随分と物騒なことを言うようになったな。

「問題は帝だ。もし惟宗が朝廷の中で勢力を伸ばそうとしていることに対して不快に思われることがあれば面倒なことになる」

「その点は問題ないだろう。ちょうど譲位があるんだ。もし認めなければ譲位の費用は出さないとそれとなく伝えればいい」

「それでも禍根は残ることになるだろう。いや、待てよ」

打った後にそう言ってふと考え込む。なんだ、ハガシは認めんぞ

「そうか、脅すのを帝ではなく関白の方にすればいいのか。もし隠居しなければ譲位の費用は出さないと。二条達にその話を吹き込めば、二条たちはここぞとばかりに近衛に圧力をかける。うん、悪くない。あとでまた近衛邸に行くか。いや、いい案をありがとうな」

「なに、どうということはない。お礼に兄上とお前の位階をあげる時に俺も上げてくれ」

「父上と兄上が許してくれたらな」

そう笑いながら盤を見て顔色を変える。対局中に別の事を考えているからそうなるんだよ。

「ちっ。やっぱりお前の位階をあげるのやめようかな」

「はははっ。兄上ならお前が言わなくともあげてくれるよ」

「それもそうだな。よし、次は俺が話を聞く番だ。ほれ、さっさと話せ」

「父上の宿題のことか。あれはまだ決まっていない」

「大まかには決まっているんだろ。いいから話せよ。俺の時みたいにいい案が生まれるかもしれないぞ」

だといいんだがな。そのせいでせっかくの優勢が持ち直されたらたまったもんじゃないが。ま、少しぐらいなら大丈夫か。

「とりあえず対馬と琉球に兵を常駐させようと思う。しかし対馬はともかく琉球がな。下手をすれば日ノ本が琉球を征服したと明にとらえられかねない。それに兵を置けば琉球の民も不安に思うだろうし」

「だったら琉球に最も近い島に常駐させればいいじゃないか」

「狭すぎる。それにあの島々は父上がさとうきびの生産地に選んだのだ。そんなところに大軍を置く余裕などないだろう」

「それもそうか。うーん、難しいな」

そうなんだよ。内貞の課題とは違って、俺は分からないから見に行こうなんてことができないんだよな。分からないところは想像でするしかない。

「なぁ。琉球を攻めてくるとしたらこの間のイスパニアだよな」

「イスパニアだけってこともないだろうが、まぁそうだろう」

「だったらいっそのことイスパニアがいるルソンを攻め取るっていうのはどうだ」

「無茶を言うな。琉球まで行くのにも一苦労だったと聞いているぞ」

この間暇だったから琉球攻めの事を康範から聞いたから間違いない。しかしあの爺さん、いつまで生きているんだろうな。もうだいぶ歳だろうに。70は確実に過ぎているはずだが。

「だいたい攻められたときに備えての計画なのに逆に攻めてどうするんだ」

「だよなぁ」

「そうだ。攻めることができるのはせいぜい高山国ぐらいなものだ」

「なんだその高山国ってのは」

「知らないのか。琉球のその先にある島国の話だ。昔は倭寇の拠点になっていたらしいぞ」

ん、待てよ。もしそこをイスパニアに取られたらこの間以上の兵が攻めてくる可能性があるんじゃないか。それはまずい。

「そうか」

「うわっ。なんだ、急に大きな声を出して」

「高山国だよ。イスパニアが攻めてきたときに備えて兵を置く場所を高山国にすればいいんだ。あそこなら万が一明と敵対したとしても日ノ本の民を明から救い出すこともできるはずだ」

「はぁ。なんだか知らんがそれでいいんじゃないか」

うん、そうしよう。それにはまず使者を送る必要がありそうだな。どれほどの規模の国なのか、どれほどの武器を持っているのか。調べないと。よし、これが終わったらさっそく情報を集めないと。

「はぁ、すっきりした。これで碁に集中できる」

「そうだな。局面も互角の状況になったことだし、これからが本番だな」

「あっ、しまった。せっかく俺が優勢だったのに」

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