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北条征伐6

――――――――1579年8月10日 石垣山城 片倉景綱―――――――――

「これが天下人の戦か」

殿が思わずというようにつぶやいた。おそらくそれはこの戦に参加している諸大名のほとんどが思っていることだろう。

「なんというかすさまじいですな。まさか雑兵を降伏させるために銭を投げ込もうとは。惟宗は銭を多く持っていると聞いていましたがこれほどとは思いませんでした」

「そうだな。そしてそれに誰も反対しなかった。これが俺の命令であれば伊達の家臣たちはほとんどが反対して従わないだろう。当主の力が強いから出来ることだ」

奥羽とは当主と家臣の力関係も違うということか。これから伊達が生き残っていくには当主を惟宗のような力の強い当主にしなければならないだろう。

「左様ですな。財力と当主の発言力。それに20万以上の兵を動かす兵力。惟宗の天下が始まれば足利の時のような弱い天下人ではなく、強い天下人となりましょう」

「強い天下人か。やはり惟宗についたのは正解であったな」

「はい。殿が成したことは誰に非難されようとも正しいことにございます」

「だといいのだがな」

そう言って殿は自嘲気味に笑われた。もしかすると少し後悔しているのかもしれない。父親を隠居させ、弟を出家させ、多くの家臣を上意討ちにしたり隠居させたりしたのだ。しかし、たとえ伊達が混乱したことで奥羽の秩序が乱れたとしても伊達が生き残るにはああするしかなかった。惟宗は今回の北条征伐に参加しなかった奥羽の諸大名を潰すつもりだろう。たとえ奥羽の諸大名のすべてが手を組んで惟宗に対抗しようとしたとしても、これだけの兵力・財力を持つ惟宗には勝てない。

「それよりこのままでは手柄をあげる前に戦が終わりそうだ」

「仕方ありますまい。今回の戦は兵糧攻めにございます。むしろ伊達から無駄な犠牲を出さずに済んだと考えた方がよろしいかと。なに、手柄をあげる機会は奥羽征伐の際にありましょう。先頃御隠居様にお会いした時に伊達には奥羽征伐の際には案内役を頼みたいと言っていたではありませんか」

「それもそうだな」

少し不満気だが納得したように頷かれる。口には出さなかったが抜け駆けをすることも考えていたのではないだろうか。しかし惟宗は命令以外の事をすると手柄をあげても処罰される。ここは自重していただかねば。もしかしたら案内役の件は手柄をあげれないことで焦って抜け駆けしないように手柄をあげる場所を与えて下さったのだろうか。いや、まさかな。

「伊達殿」

ふいに後ろから声をかけられて振り返ると御屋形様のそばにいつも控えている三成殿がいた。

「御屋形様がお呼びです」

「御屋形様が?ご用件は」

「北条の使者が来ました」


――――――――1579年8月12日 小田原城 北条氏政―――――――――

「降伏だとっ、ふざけるなっ」

そう言って大樹がわめきたてる。周りの幕臣たちもそれに同調して反対の声をあげる。やはりここが最難関であったか。

「しかし惟宗は20万近くの兵でこの城を囲んでいます。それに奥羽の大名たちも複数合流しました。兵糧も残り少なくなり、逃亡する兵が後を絶ちません。最初は5万もいた兵が今は3万近くにまで数を減らしています」

「それがどうした。まだ3万以上の兵がいるのであろう。それらの兵を用いて籠城を続けるのだ」

無茶を言う。この方は戦というものを分かっているのだろうか。確かにこの城に籠っていれば大丈夫だといったのは我ら北条だが、状況はその時とは違うのだ。そのことを大樹や幕臣たちは分かっていない。

「しかし兵糧が」

「兵糧が無いのは惟宗も同じはず。むしろ惟宗は20万もの兵を動かしているのだ。兵糧の消費もかなりの量になっているはずだ。兵糧に困っているのは惟宗も同様」

「惟宗は水軍を用いて兵糧を運んでいます。残念ながらそれを阻止する手段はありません」

「ならば国康めの頸を目掛けて奇襲を仕掛ければよかろう。あれの頸さえ取ることができれば惟宗は混乱して当分はこちらに手を出す余裕はなくなるはず。その間に惟宗についた逆臣どもを討ち、上杉・徳川などを味方につけるのだ」

「国康は笠懸山に城を築きました。そこを奇襲だけで落とすのは難しいかと。奇襲を仕掛けている間にほかの隊にこの城を攻められてしまう可能性が」

「しかし降伏などしたらあ奴は余の命を狙うはずだ。もし余が殺されたらどうするつもりだ」

ふん、結局はそこか。降伏したら長年敵対した自分が死ぬかもしれないと。まったく、城兵を生かすために切腹をする俺や氏直、重臣たちの気持ちを考えてほしいものだ。

「惟宗は降伏の条件に大樹の御命をとは言ってきませんでした。殺されるようなことはないでしょう」

もっともこれで幕府は完全に死ぬがな。北条が滅べばどこの大名も手を貸そうとはしないだろう。織田・北条と頼った相手が惟宗に滅ぼされているのだ。

「しかし・・・」

「もし大樹が同意されなくとも我らは降伏いたします。しかし大樹が降伏に同意していただければ我らは大樹の不利にならないよう交渉いたします。何卒賢明な御判断を」

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