北条征伐5
―――――――――――1579年8月20日 石垣山城―――――――――――
「でかいな」
石垣山城から小田原城を見下ろして思わず声が出た。これだけの大きさで5万もの兵がいるのなら信玄や謙信が落とせなかったのも納得だな。しかしそれでも普通20万近くの兵に囲まれたら降伏しようとする者が出てくるよな。雑兵ぐらいならいるらしいが主だった将からはまだいないらしい。何か策でもあるのだろうか。それとも史実のように奥羽から援軍が来るのを待っているとか。この歴史では伊達は早い段階でこちらに付いた。そうなると他の大名か。誰がいるかな。どれが動いても、あるいはそれらが手を組んで攻めてきても舅殿の別働隊で十分対応できるから問題ないだろうが。しかしそれを当てにしてこちらに降らないとなると面白くないな。
「父上。ここにいましたか」
「貞康か。いかがした」
「諸将が父上に会いたがっています。そろそろ彼らと対面した方がよろしいのでは」
「そうか。1刻後に一人ずつ連れてきてくれ」
「分かりました。三成」
「はっ」
貞康は俺の言葉に頷いて側にいた三成に声をかける。三成はうなずくとどこかへ行った。おそらく諸将を呼び出しに行っているのだろう。
「それで小田原攻めの調子はどうだ」
「兵糧攻めですのでとりあえず待つのみといったところです。そのせいでどうも気が抜けているところがありますが、この兵力の差で向こうから仕掛けてくることはありませんので問題ないかと。不定期で夜間に棒火矢や投石器や大筒を使って攻撃しているので城兵たちはあまり眠れていないでしょう。あとは敵がつかれるのを待つだけです」
「降伏してくる様子はないのだったな」
「はい。おおかた武田や上杉の時のように城に籠っていればいずれこちらが兵を退く、その時に城から出て一気に攻めればいいとでも考えているのでしょう」
これだけの大軍を動かすとなれば普通なら兵糧に苦労するだろうと考えているのかな。だが武田や上杉の時とは違って惟宗は背後を気にしながら戦をする必要がないし、日本海側の上杉や海に面していなかった武田とは違って水軍を使えば兵糧を運び込むのも簡単だ。北条の想定通りになることはないだろう。
「こちらに寝返るものが増えれば降伏をという話になりましょうが」
「そうだな。将だけでなく雑兵からこちらに降伏する者が多くなれば自然と抵抗しようという声も小さくなろう。よし、投石器で城内に銭を投げ込むか」
「は?銭ですか。しかし敵に銭を与えるのは」
「銭を投げ込むのと同時に城に書状を投げ込む。降伏すればこれ以上の銭をやるとな。どうせ銭があったところで籠城しているままでは使う場所がない。こちらに降伏しない限り使えないのだ。ならばこちらに付こうと多くの雑兵が降伏するはずだ」
雑兵が少なくなれば城を守ることもままならなくなる。そうなれば誰かが降伏をと言い出すだろう。誰も言い出さなかったとしてもこちらから降伏しないかといえば乗ってくるはずだ。
「分かりました。すぐに手配しましょう」
「頼むぞ」
本当はあまり戦に口出しするのは良くないんだけどな。奥羽の反惟宗派の大名たちの動きが分からないからこの戦は早く終わらせたい。
「ところで父上、北条が降伏してきた際はいかがしますか」
「とりあえず氏政と氏直は切腹が妥当だろう。朝敵とされたのだから打ち首でもいいのだがな。それから主要な家臣たちも切腹にしよう。恩賞はお前に任せる。だが康正をこっちの方に転封しろ。こっちの大名の監視を頼みたい」
「分かりました。義昭はどうしますか」
「放っておけ。あいつが死のうが生きていようが関係ない」
そういえばこの歴史の関東ってどうなるのかな。史実では関東に転封された徳川が天下を取ったことで発展した。だけどこの歴史では惟宗が天下人でその拠点は大坂だ。このままでは関東は発展しないんじゃないか。そういえば前世で見た逆行転生物でも似たようなことを言っていた気がする。さて、どうするかな。このままだと日ノ本の経済は西高東低になってしまうよな。出来ればまんべんなく発展させたい。うーん、難しいところだな。ま、それはあとから考えよう。まずは日ノ本を統一してから。
「奥羽の方はどうしますか」
「兵糧の方は問題ないしそのまま攻めても問題ないだろう。しかし思ったよりこちらに付くものが少ないな」
「奥羽では惟宗の武威が届いていないのでしょう。それと足利の権威がまだ生きているからかと。しかし今回の戦で惟宗の武威を目の当たりにしたのです。すぐに降伏しましょう」
「ふん、今更降伏などしてきたとしても認めるなよ」
「もちろんです。今更降伏してくるなど天下人をなめているとしか思えません。今回の北条征伐に兵を出した大名たちにも示しがつきません。徹底的に潰します」
「あぁ、そうだな」




