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御館の乱1

―――――――――1578年3月15日 大坂城 惟宗貞康―――――――――

「うーん」

先程から父上がずっと考え込まれている。なかなか次の手が思いつかれないらしい。以前だったらこちらがどんな手を指してもすぐに指し返してきたのだがここ最近は考え込まれることが多い。いまだ勝ったことはないがそろそろ勝てるかもしれないな

「貞康、琉球の件は聞いているか」

「琉球ですか。確かすでに制圧はおえてイスパニアと交渉をしていると聞いていますが」

「そうだ。こちらとしては交易を再開できればいいのだが新しい琉球王がな。かなり感情的になっている」

たしか新しい琉球王は前琉球王の甥だったかな。まだ14・5だったはず。

「ま、まだ子供だから仕方ないがな。それにあいつの力だけでイスパニアを追い出したわけではない。惟宗の力で追い出したのだ。そうわがままは言わせんよ」

そう言って父上が駒を指す。あ、これはまずいかもしれないな。次悪手を指したらたぶん負けるな。これからはもっと慎重に指さないと。

「イスパニアとは賠償金で決着をつける。すでにマカオから追い出されているから罰としては十分だ。惟宗も明との交易を独占できる。ここで決着をつけて交易を再開するのが一番だろう」

「左様ですな。そういえば内大臣をもう辞任すると聞きましたが」

「ん、あぁ。そこまで必要な官位ではないからな」

「はぁ」

必要はないだろうが内大臣の位をそう易々とやめるなんて。

「それより北条征伐はいつ行う。それに合わせてお前に鎮守府大将軍をと考えていたのだが」

「すでに準備は進めています。来月末には出陣しようと考えています」

「そうか。何事もなければ来年か再来年には日ノ本を統一できるな」

「奥羽の抵抗が少なければそうでしょうね。ですが抵抗するのではないでしょうか」

奥羽が抵抗すればあと2・3年は日ノ本の統一は長引くだろう。父上はもう47だ。もしかしたら少し焦っておられるのかもしれない。

「抵抗はそう大きくはないだろう。伊達が朝廷に大膳大夫の位が欲しいと言ってきた。朝廷は俺の意見を聞かないことには官位を授けると言わないだろうから実質俺に官位が欲しいと言ってきたようなものだな。こちらの出方は見ている。おそらくこちらに付いても大丈夫か様子を見ているのだろう。伊達がこちらに転べば奥羽平定はだいぶ楽になる」

「では大膳大夫の位を授けるので」

「銭は用意しているらしいからな。構わないだろう」

これで伊達が親惟宗になれば父上が仰ったようにかなり楽になる。兵法衆に小田原征伐後の事を検討させるか。

「小田原征伐にはどれほどの兵を動かす」

「5万でいいかと考えていますが」

「ふむ、もっと多い方がいいだろう。そうだな、20万でいいのではないか」

「20万ですか!」

惟宗が最も多くの兵を動かした織田征伐の時と同じではないか。織田征伐は反惟宗派の中心的な大名だったからあれほどの大軍を動かした。今回それと同じくらいの兵を動かすということはこの戦で日ノ本統一を終わらせるという父上の強い意志だろうか。

「小田原城だけならそれでもいいがこの戦で奥羽の大半を惟宗の支配下に置きたい」

北条征伐で奥羽の大半を支配下に置くとはどういうことだろうか。

「小田原を囲む前に奥羽の大名たちに小田原城攻略に参加するように命じる。奥羽の大名たちは迷うだろうな。感情的には惟宗の支配下には入りたくない。だがそれを拒めば小田原を囲んでいる兵の一部が攻めてくるかもしれない。不安になるだろうな、当主だけでなく家臣たちも。そこを調略で崩していく」

「分かりました。出陣は遅くなるでしょうが20万の兵を動かしましょう。父上はいかがなさいますか」

「そうだな。どうせ城を囲むだけになるだろうし、俺も戦に出よう。おそらく最後の戦になるだろうからな。何だったら俺だけでもいいぞ。お前も嫡男の相手をしていたいだろう」

「熊太郎の相手をしたいのは父上でしょう。それに私は惟宗の当主です。北条討伐のような大きな戦に出ないと」

父上は妙に熊太郎に甘い。ここ最近はそれが顕著になった。おそらく鶴千代の事があったからだろうな。あいつは才能はあった。家臣たちも父上に最も似ていると言っていた。しかし先月病で死んでしまった。父上は気丈に振る舞っているが堪えているのだろう。そういえば以前より仕事に精を出すようになったとも聞いている。そして暇があればこの将棋の間に入り浸っていると。もしかしたら何かをしていないと悲しみが来るのかもしれないな。私もふとした時に思い出してしまう。あいつが生きていたら熊太郎の良き右腕になってくれただろうに。


「失礼します」

そう言って頼久が入ってくる。

「いかがした」

「謙信公が亡くなりました」

「なっ」

あの謙信が死んだか。困ったな。上杉は北条征伐の際は奥羽の抑えとして使おうと思っていたのだが。

「そうか。それで死ぬ前に次の当主を指名したのか」

「いえ、それで次の当主を景勝か景虎のどちらにするかで春日山城はかなり混乱しています。このままでは御家騒動に発展するでしょう」

「そうか。出来るだけ情報を集めろ。北条から目を離すなよ。景虎はおそらく北条からの援軍をあてにしているはずだ」

「はっ」

そう言って頼久が下がる。しかし妙に落ち着いておられるな。まさかとは思うが・・・

「ふん、俺が殺したわけではないぞ」

父上がこちらを見ながら言われる。いかんな。顔に出てしまっていたらしい。

「上杉はもとから御家騒動を起こさせるつもりだっただけだ」

「そうですか」

やはり父上には勝てないな。以前から様々な手を考えておられたのだろう。

「それより早く戦の用意をしろ。上杉の御家騒動に北条が手を出さないように伊豆を攻める。そのうえで御家騒動を惟宗の手で終わらせるのだ」

「はい」

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