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宗論

――――――――――1577年10月26日 大坂城――――――――――――

「御隠居様、これは騙しの言です」

はっ。いかん、危うく寝落ちしてしまうところだった。えっと、確か日蓮宗側の僧が一人どこかに逃げたけどそのまま宗論をすると言って日乗が宣教師たちにデウスについて尋ねたところまでは記憶がある。とりあえず俺に話を振るんじゃないよ。

「彼らはこのような教義で人々を欺いています。このような教えを認めていては日ノ本を琉球のように危険にさらすことになります。禁教にし、二度とこの日ノ本でキリスト教の教えが伝えられないようにするべきです」

「日乗。これは宗論だ。己が正しいと思うのであれば俺に向かって己の意見を言うことで正当性を示すのではなく、キリスト教側の主張を論破することでおのれの主張の正当性を示せ。それとも気おくれしたか。問うてみよ、彼らは答えるであろう」

「・・・はっ」

日乗はそう言って軽く一礼すると再びロレンソたちの方を見て宗論を再開した。しかしよく皆眠くならないな。俺はたぶん史実通り進むだろうから結果は見えているんだけどな。というかそこまで結果には興味がない。今回の宗論で惟宗にとって大事なのは宗教間での争いの調停は宗論で決め、その審判を惟宗が行うということだ。つまり惟宗の宗教への影響力を増やそうという訳だ。だいたい東洋の宗教観と西洋の宗教観は全く違うんだ。それなのに宗論なんてうまくいくわけがないだろう。たとえるならトマトが好きな奴が嫌いな奴にトマトの良さをいくら語ったところで伝わらないし、嫌いな奴が好きな奴にトマトの嫌いなところを語っても伝わらないようなものだ。ちょっと違うかな。


そういえばトマトはこの時代ヨーロッパに伝わっているのかな。トマトだけじゃなくてジャガイモとか唐辛子とか。特にジャガイモは欲しいな。これから戦がなくなって死因として戦死がなくなる。そうなると人が増えて食べ物が今より多く必要になる。食料不足対策として蝦夷地を開拓したいがこの時代には寒さに強い米はなかったはず。そうなると蝦夷地で育てるならジャガイモだろう。今度南蛮と取引をしている商人に頼んでみるか。


「生命の造り主は誰であるかを知っているか」

「そういうものは知らぬ」

「ならば知恵の源泉とあらゆる善の始まりはあるか知っているか」

「知らぬ 」


それから日ノ本にはない新しい技術が欲しいな。しかしこれからイスパニアとの取引はどうなるかな。イスパニアとしては貿易赤字と明の交易独占が今回の戦の理由だった。結果としてはマカオからは追い出されて中継に使っていた琉球も今頃は惟宗水軍に奪われつつある。もしかしたらイスパニアが勝っているかもしれないけど報告ではイスパニア軍の数は約3000。それに対して惟宗水軍の数は3万。これで負けたら総大将の器量を疑うが貞範なら大丈夫だろう。しかし問題はこの戦をどういう形で決着にするかだよな。明に確認していないから何とも言えないがおそらくそこまで強硬な対応はとらないだろう。理由はそもそも征伐するだけの水軍がないから。海を渡って琉球やルソンに兵を送れるだけの水軍があったら倭寇なんて自力で解決できたはずだ。それができなかったということはおそらく水軍はそこまで強くない。


「デウスは善には報償を、悪には罰を与えるのか」


イスパニアへの罰は貿易の禁止だろう。そして日ノ本への報償は貿易の独占とマカオの居住権。しかし琉球からしてみればそれだけでは甘いと思うだろう。なにせ琉球王と弟は殺されて甥がボロボロになりながら日ノ本に来たんだ。貿易の禁止ぐらいでは我慢できないはずだ。さて、これからどうなるかな。まず間違いないのは琉球が明から距離を取るようになるだろう。惟宗に大きな借りを作ったことと明の援軍が来なかったことで明への不信感が溜まっている。明への服属は形だけになって実際は日ノ本へ服属するようになる。少なくとも外交でそうなるように持っていく。日ノ本の勢力圏が広がるな。いちおう妙な真似をされないように誰か送り込むか。名目は幼い新琉球王を支えるため。あまり口出しはしなくていいが日ノ本の不利にならないように監視する。外交衆の配下から語学が堪能でまじめな奴を選んで送ろう。


「日乗の驚きは私にはおかしなことではない。なぜなら日本の宗旨は何もしないことを根本とし、日本の学者の学識と理解は四大に含まれた見える物しか及ばないからである。またそれらのことをほとんど分かっておらず、見えない不滅の霊魂について語ればなおさらで、これを新奇なものと見なすのは何ら不思議なことではない」

いつの間にか日乗の相手がロレンソ了斎からオルガンティノに代わっている。宗論は終盤戦に入ったのかな。


イスパニアにはこちらから琉球王の代理という形で賠償金を要求しよう。たぶんだけど今回の件にイスパニアの王は関わっていないんじゃないかな。宣教師が兵を要求してから動き出すのが速い。現地の人間の独断だろう。賠償金を払って明との交易を日ノ本を介してしか行わないのであれば、本国には報告しない。しかし要求をのまないのであればイスパニア本国に報告するぞと脅そう。本国に報告されたら責任者は間違いなく何らかの処分が下されるはずだ。イスパニアと本格的に敵対する羽目になるかもしれないが、イスパニア本国と日ノ本の距離を考えたらそこまで大事にはならないだろう。よし、宣教師を追放するのは琉球攻めが終わってからにしよう。それまでは坊津で軟禁だ。そしてルソンの責任者との交渉の窓口になってもらおう。禁教を仄めかせばカブラルはともかくオルガンティノは協力するはずだ。


「お主は霊魂がそれほどまでに存在すると言うのであるから、今ここで私に見せるべきである。そこでお主が存在するという知的物質を見せてもらうためにこのお主の弟子、すなわちロレンソの首を斬ることにする」

そういうといきなり日乗が立ち上がって部屋の隅に立てかけてあった刀を取るとロレンソ了斎の方へ向かっていった。やっと終わったか。しかし決着の仕方まで同じとは思わなかったな。

「やめよ、日乗。高虎・熊千代・松寿丸、日乗を捕らえよ」

「「「はっ」」」

三人はすぐに返事をするとすぐに日乗を取り押さえる。しかしあんな所に刀なんて置いていたの誰だよ。刀は武士の商売道具だろうが。

「御隠居様」

「黙れ、日乗。俺はキリスト教側を論破して己の正当性を示せといったのだ。誰が刀を使えと言った。それに俺の前で躊躇いもなく刀を抜くとはいかなる了見か。その様な手段を用いた時点でお前の負けだ」

「お待ちください」

「うるさい。高虎、さっさと連れて行け」

「はっ」

高虎はこちらに一礼して何か喚いている日乗を乱暴に連れて行く。宗論に勝ちたかったなら全能のパラドックスの話に持ち込めばまだ可能性はあっただろうに。うーん、技術だけではなく数学も輸入しないといけないな。

「オルガンティノ、ロレンソ了斎。ご苦労だったな。とりあえずオルガンティノは明日、再び登城するように。ロレンソ了斎はできるだけ早く教団を作り上げよ。もちろん物見に来ていた者達もだ。熊千代、今回の宗論の内容を高札にしたため各地に設置せよ」

「「「はっ」」」

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