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琉球侵攻と南蛮鎧

―――――――――1577年9月15日 野首城 山本貞範―――――――――

「父上、さすがに歳なのですからもう大坂に戻ってください。御屋形様や御隠居様に叱られますよ」

部下にあれこれ指示した後、湊で船の様子を眺めている父上に声をかける。

「分かっておる。ここにいるのは相談役として各地を視察するためだ。琉球攻めに参加するためではないわ」

「鎧を着て言われても説得力はありませんよ。その主張をするならせめて平服の時に言ってください」

しかも南蛮鎧だ。これでは誰が見ても琉球の戦に参加するつもりにしか見えないだろう。ここに来るまでは南蛮鎧など持っていなかったはず。どこに隠していたのやら。

「しかし南蛮鎧というものはなかなか良いものだのぉ。これならもっと早く使っておればよかったわ」

「父上が戦場に出ることはないでしょう。それよりいつの間に買ったのですか。それに銭はどうしたのですか。まさかとは思いますが視察のための銭を使ったのでは」

「そんなわけなかろう。あとで家の者に支払いに行かせるわ」

「余計な銭は使わないでください。もう父上が戦に出ることはないのですから」

「いや、分からんぞ。日ノ本から戦がなくならない限り何があるか分からん。少なくともこれくらいの心構えでないといかんぞ」

「はいはい。いつも言われていますからわかっています。そういえば御屋形様にもついに御子ができるみたいですぞ」

「あぁ、御方様が身籠ったらしいの。たしか来年に生まれる予定だったか。ならばこの琉球攻めは頑張らねばならんのぉ。若様の傅役に何としてでもならねば。未来の御当主の傅役はやはり我ら譜代衆でなければの」

「傅役になるより奉行を目指した方がいいと思いますがね。どうやら新たな幕府では奉行を中心として政を行うとか」

「そうか。ま、儂には関係のない話だ」

この話が関係ないなら南蛮鎧を使うことなどないと思うのだが。まぁ、父上と私は体格が似ている。私が使えば問題ないか。ん?まさかこれから戦に行く私のために購ったのか。いや、まさかな。この父上にそのような配慮ができるとは思えない。

「それよりいつ出陣なのだ。もう南蛮は琉球の大半を制圧したのだろう」

「そのようですな。御隠居様としては琉球王かその使者が援軍を求めてきたから攻め込んだという形にしたいようですが、今月末までに来なければ攻めよと言われています」

「そうか、道理でこっちに来た時より皆が忙しそうにしているわけだ。それで来るか」

「さぁ、どうでしょうな。少なくとも御隠居様は来ると見ておられるようです」

そうでなければ琉球が攻められたと知らせが来た時点で琉球攻めを命じるはずだ。それが今回は期限付きとはいえあくまで助けを求められてからだ。

「さっさと攻めればよいのに」

「父上、惟宗はたとえ手柄をあげたとしても命令に背けば認められないどころか罰を受ける可能性もあるのですぞ」

「分かっとるわ。そうじゃなくて御隠居様はなぜ使者を待っておるのかということだ」

「琉球は明に服属しているのですぞ。さすがにすぐに攻め込めば明になにを言われるか分かったものではありませんからな」

「ではなぜ南蛮は琉球を攻めたのだ。南蛮は明との交易で儲けているのだろう」

「何かしらうまいことするのではありませんか。例えば倭寇のせいにするとか。今は惟宗のおかげでまったくいなくなりましたがあれを明が忘れているとは思えません。それに南蛮がマカオで商売が出来るようになったのは惟宗とともに倭寇退治を行ったからです。それを持ち出して琉球を助けるとか言って琉球の南蛮人と合流するつもりかもしれません」

「あるいは倭寇のせいにしてマカオから日ノ本の民を追い出すか。ま、南蛮が明に何か言うのであれば琉球侵略が終わってからだろう。そうなる前に康広が明に向かっておる。惟宗の悪いようにはならんだろう」

康広殿か。父上と同じように御屋形様を最初から御支えしている重臣だ。父上ともよく酒を飲んでいる。あの方であればそう惟宗の悪いようにはならないだろう。

「しかし村上水軍を破ってから水軍が中心の戦などもうなくなるだろうと思っていたがそうでもないの。織田攻めの時もかなり働いた。そしてこれから琉球だ」

「日ノ本は海に囲まれています。水軍の仕事がなくなることはまずないですよ。むしろ琉球の件から見ても南蛮は危険です。水軍を強化して南蛮からの侵略に備えるのではないかと」

「それだけとも限らんがのぉ。逆に攻めるかもしれんぞ」

「攻める?今回の琉球攻めのようにですか」

まさか、そのようなことがあるだろうか。

「あるいは南ではなく北かもしれん。惟宗は最近佐渡を通じて蝦夷地とも交易を始めた。なかなか珍しいものが多く、土地も広いらしい。いずれにせよこれまで以上に水軍が必要になるぞ。お前もこの戦でしっかりと学べや」

「もちろんです。北だろうと南だろうと攻めれるだけの経験はここで身につけて見せまする」

「はははっ。楽しみじゃのぉ。ま、今回は儂もおる。安心せい」

いや、ちょっと待て。とても安心できない言葉があったのだが。

「父上は視察でしょう。何で戦に参加するのですか」

「ん、視察の場所は琉球も含まれておるのだぞ。もちろん戦についていきたければ好きにせよと御隠居様に許可をもらっておる。でなければ南蛮鎧など買う訳がなかろう。ま、戦を見るだけだがの」

「そういうことは早くいってください」

やはり南蛮鎧は私のためではなかったか。

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