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キリシタン一揆

――――――――1576年11月30日 小田原城 大舘晴光――――――――

「くそっ。北条はなぜ援軍を出さんのだっ。これでは武田が滅ぶぞ」

氏政殿が下がってから大樹がそばにあった脇息をたたきつけられた。まったく、大樹のおっしゃる通りではないか。このままでは武田が滅んでしまう。ここで武田が滅べばこちらに付こうとしている奥羽の大名たちも惟宗につこうとするやもしれん。そうなればこの小田原城頼りの北条単独で惟宗を討伐することなどできるはずもなかろう。先の戦で多くの将を失ったとはいえ戦上手の武田と関東・奥羽の兵力をもってして初めて惟宗討伐が成るのだ。それを氏政殿は、北条は分かっているのか。

「和田、キリシタンはまだ返事をよこさんのか」

そう言って大樹が和田殿を睨まれる。キリシタンが味方すれば何とかなると言って希望を持たせたのは和田殿だ。失敗すれば大樹の和田殿への信頼もなくなるだろう。

「残念ながらまだ返事はありません。それどころか宣教師たちは惟宗のもとへご機嫌伺に行くだけで反惟宗の動きをしようともしていません」

「それでは惟宗の注意を九州に向けることができんではないか。そうなれば惟宗全軍がこの小田原城に攻め入ってくるやもしれんぞ」

惟宗全軍。確か信濃に攻め入っている兵は少ないとはいえ4万。おそらく全軍ともなれば15万以上は余裕で動かせよう。この小田原城が上杉や武田を退けた天下の名城であるとはいえそれだけの敵の攻撃を絶えることができるだろうか。

「大樹、ご安心くだされ。確かにキリシタンに一揆をおこさせることに失敗しましたが惟宗が宣教師たちに御内書を送ったことは伝わっているようです」

「それのどこに安心できる要素があるのだ。むしろ宣教師たちが一揆を起こそうとしたとしてもすぐに制圧させれてしまうではないか」

「いえ、おそらく宣教師たちは一揆を起こしません。しかし惟宗が一揆を警戒して坊津などに兵を集め始めました。その数は3万です。その兵たちは小田原城攻めには参加できないでしょう。それに背後に一切の不安なくこの城を攻めるのと背後に一揆の不安を抱えたまま攻めるのとでは攻める側の戦略が変わってきます。そう考えればこの策は一定の成果をあげたと言えます」

たしかにそのような見方もできなくはないが・・・

「それでこれからどうするべきと思う」

「北条が援軍を送らないのでしたらほかの大名に頼みましょう。蘆名と伊達に上杉領を攻めさせます。それだけでも武田の助けとなるでしょう」

「うむ、ではすぐに御内書を書こう」


―――――――1576年12月10日 日比屋邸 ロレンソ了斎――――――――

「これは本当ですか」

「おそらく間違いはないかと」

私の言葉に了珪殿が頷かれる。しかしこれが事実であればキリスト教の危機と言っても過言ではないでしょう。この国のキリシタンは、宣教師の方々はどうなってしまうのだろうか。

「某は信徒の伝手を使って明やルソンの方へ船を出しているのですがそこでイスパニアの琉球侵攻の話をうちの手代が。おそらく惟宗様が坊津に兵を集めているのも世間で言われているように現地の信徒が一揆を起こそうとしているからなどではなく、琉球が攻められたときに援軍ないし征服に行くための兵かと」

「イスパニアといえば宣教師の方々の生まれた国ですね。では」

「はい。琉球侵略を計画されたのはカブラル様です」

自然とため息が出そうになって慌てて自制しました。しかしこれは溜息が出ても仕方ないでしょう。琉球を攻め取れば明にも喧嘩を売ることになります。そのあたりはどう考えられているのでしょうか。

「道理で急に宣教師の方々の配置が変わったわけですね。私はオルガンティノ様に頼まれてここに来ましたがオルガンティノ様はこのことをご存じなのですか」

「おそらく知らないでしょう。こういってはあれですがオルガンティノ様は信者たちに慕われていますが宣教師の方々の中では主流派ではありません。カブラル様もオルガンティノ様の事を嫌われています。琉球侵略後に惟宗様に譲歩を迫って失敗した場合惟宗様にオルガンティノ様を殺させるつもりなのかと。そしてオルガンティナ様の敵討ちと言って一揆を起こさせて琉球を制圧した水軍とともに惟宗様と戦をする。ある程度粘れば関東の北条や奥羽や諸大名たちも動きましょう。そうなればある程度譲歩を引き出せる。実際はどうなるか分かりませんが少なくともカブラル様ら主流派の方々はそのように考えているかと」

なんと、同じ宣教師であるオルガンティノ様を身代わりにすると言うのですか。とても宣教師の方がすることとは思えません。

「すぐにオルガンティノ様にお伝えしなければ」

「お待ちなさい。坊津に惟宗様が兵を集めているということは惟宗様はすでにこのことをご存知ということ。下手な動きはかえって処罰を早めるだけです」

「ではどうすれば」

「残念ながら琉球侵略は止められないでしょう。ならばオルガンティノ様の処刑と信者たちによる一揆を防ぐことを最優先に行うべきです。一揆を防げばその功をもってオルガンティノ様の助命を求めることもできましょうう。そう慌てられますな。オルガンティノ様が処刑されるのは今すぐではないのですよ」

そうでした。私としたことが焦ってしまいました。

「そうですね。まずは琉球侵略の時期を調べなければ。了珪殿、いつ頃琉球侵略が行われるか分かりますか」

「正確な時期は分かりませんが現地の噂では来年の後半に琉球に上陸すると。おそらく惟宗様の甲斐攻めに合わせて行うのではないでしょうか」

「分かりました。向こうにいる喜斎殿に一揆をなんとか止めて欲しいと伝えましょう。私は折を見てオルガンティノ様に会って今後のことを決めなければ」

「わかりました。この日比屋了珪、できる限りのことはお手伝いいたしますぞ」

「お願いいたします。日ノ本のキリスト教の危機、共に乗り越えましょう」

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