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琉球王

―――――――――――1576年8月15日 大坂城―――――――――――――

「御隠居様、御屋形様と柚谷康広殿が参られました」

東海道の検地の報告書を読んでいると外から熊千代が声をかけてきた。そうか、康広が戻ってきたのか。康広には琉球に行ってもらっていたんだよな。だいぶ歳を取ったけど外国での交渉は経験者の康広に任せるのが一番だよな。貞康には康広が戻ってきたら一緒に来るように言っておいた。

「そうか。すぐに通してくれ。それと盛円も呼んでくれ」

「はっ」

えっと、キリシタン関係の書類はどこだったかな。あれを使いたいんだけどな。


「父上、失礼します」

そう言って貞康たちが入ってきた。康広は・・・ちょっとやせたか。どうやら琉球の食事は合わなかったらしいな。

「まずは康広、報告を頼む」

「かしこまりました。琉球では南蛮の事はそれなりに危険視していたようですが攻められるとは思っていないようでしたな。某が御隠居様の書状を渡した時にはかなり疑われました」

おい、それ大丈夫だったのかよ。書状にはイスパニアが攻めてくること、もし惟宗の支配下に入るなら数万の援軍を送ること、支配下に入るのであれば毎年使者を送ること、もし支配下に入らないのであればイスパニアが攻めてくる前に攻め滅ぼすと書いておいた。

「数日後には確認を取ったのかやっとまともに話を聞くようになりましたが。どうやら琉球はまず明に援軍を求めるつもりのようです」

「だろうな。そうでなければ何のために朝貢をしているということになるだろう。それではこちらの要求は受けれ入れられなかったか」

「微妙ですな。明に援軍を送るという話も多聞衆が盗み聞ぎしてきた話でこちらには少し待ってほしいと言ってきました。おそらく琉球も明が援軍を送ってくるか不安なのでしょう。現琉球王尚永はまだ明から冊封を受けていませんので」

「だからあいまいな態度に徹したか。少し脅かしてみるか」

琉球の処分は俺としては今は史実の琉球侵攻後のような状態にしたい。今明に喧嘩を売るのは得策だとは思わないからな。今の明には張居正がいる。あれが死ぬまでは明の力は強大のままだ。琉球を完全に日ノ本のものにするのは明滅亡時のごたごたの時でいいだろう。ついでに台湾もその時に奪いたいな。ま、その時には死んでいるだろう。遺言か何かに俺が死んだ後にしてほしいことを纏めておくかな。

「貞康」

「はい」

「3万の兵と水軍を坊津に集めさせることはできるか」

「問題ありません。すぐに康範に命じておきましょう」

「いや、そろそろあいつも隠居したいだろう。息子の貞範に命じておけ」

俺も隠居したことだし、いい加減隠居してもおかしくないんだ。初期から俺を支えてくれている他の譜代たちもだいたい隠居したぞ。あと隠居していないのは康広と茂通ぐらいだ。この二人は後継者がまだ若いが貞範は問題ないだろう。

「しかし来月から信濃攻めだったな。3万も動かして大丈夫か」

「はい。九州の国人たちに命ずれば問題ないでしょう。信濃攻めより坊津に集めた方が楽ですので」

「信濃攻めにはどれほどの兵を動かすつもりだ」

「4万で十分だろうと考えています。総大将は私が、副将には康正叔父上と謙信に命じようと考えていま

す」

「そうか。駿河とは違って信濃には援軍を送ってくるだろう。厳しい戦になるだろうが励めよ」

「はっ」

信濃といえば真田がいるな。あれが敵に回ればてこずりそうだな。多聞衆に命じて必ず調略させよう。


「それで康広。琉球であればルソンの情報もこちらより多く集まったであろう」

「そうですな。特に書状を渡してから数日は何もすることがなかったので情報収集にかける暇は多くありました」

「そうか。それでどうだった」

「ルソンのイスパニアの水軍が琉球攻めを行おうとしているのは間違いないでしょう。時期としては・・・日ノ本の動き次第でしょう。おそらく大戦が起きたあたりで琉球を潰して日ノ本に上陸する構えを見せるかと。そのうえでその水軍とキリシタンたち勢力を脅しに使って何かしら要求してくるでしょう」

そうなるとまだ先だな。

「そうか。なら日ノ本の宣教師たちの動きを見ていれば問題ないな。盛円、宣教師たちはどうしている」

「カブラルやコエリョが長崎に向かいました。他の主流派の者たちも。あそこは日ノ本で最もキリシタンが多い場所ですので。代わりにオルガンティノが畿内の布教責任者になったようです」

宣教師たちが一番布教に力を入れているのは畿内のはずだ。そろそろ動くかな。

「イスパニアが動けばすぐに宣教師たちを捕らえよ。それから攻めてくる日時が分かればロレンソ了斎などの日ノ本の布教の中心人物たちをこの城に集める。そして南蛮人を排除してそいつらを中心とした新しい体制に変えさせる」

イメージとしてはイギリス国教会に近いかな。しかし日ノ本のキリスト教指導者は幕府が指定する者にしよう。そうしてカトリックから日ノ本のキリシタンたちを切り離す。これを仏教や神社にも取り入れていきたいな。そして幕府が宗教をある程度操れるようにしたい。ま、それはまたいずれだ。まずは宣教師の追放だな。そして宣教師は今後一切国内に入れない。国内に入れるのは各国の使者と商人、技術者だけだ。そいつらにも布教はさせないようにしないと。

「いいな、一人とて逃がすでないぞ。キリシタンたちには宣教師たちが日ノ本に兵を差し向け、日ノ本の民を奴隷にしようとしたから捕らえたと伝えよ」

「しかしオルガンティノなどはどうしますか。彼らはほかの宣教師たちとは違いかなり慕われているようですが」

「そいつらは出来るだけ丁重に扱え。どうせ追放するのには変わりないがすぐに一揆に繋がることはないだろう」

「かしこまりました」

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