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宣教師

―――――――――――1574年12月10日 大坂城―――――――――――

「ふむ、ではこれでどうだ」

そう言って駒を指す。しかし頼久はほとんど考えることなく次の手を指した。やばいな、これは完全に劣勢だ。まぁ、いいさ。今日は将棋を指すために頼久を呼んだわけではない。報告を聞くためだ。それを考えるとこの将棋の間は意外と使えるな。そこまで広くないから人払いをしても不自然ではないし、壁も厚いから外に聞こえるわけでもない。密談をするにはもってこいの場所だな。

「それで宣教師たちは何を考えていた」

「どうやら義昭から密書が届いていたようですな。惟宗討伐に力を貸せば惟宗に味方した寺社を焼き払いその跡地に南蛮寺をたてると。その話を聞いてごく一部ですが義昭に味方した方が良いのではという声があるようです」

また義昭か。たぶん北条を頼ったことで一向宗を使うのが難しくなったのだろう。北条は一向宗を禁教にしているからな。それなのに一向宗を頼ったらいい顔はしないだろう。それくらいの配慮はできるようになったらしい。

「ごく一部というと他のものは反対か」

「のようですな。義昭はすでに没落してそのようなことができると思われていないようです。しかしある程度キリシタンの力を見せた方が良いのではという声は大きいようです。特にカブラルやコエリョといった宣教師の主流派の者達は最近占領したという呂宋から水軍を呼び寄せて惟宗に力を見せるべきだと考えてるとか。そして力を見せた上で義昭がすると言った寺社の焼き討ちと南蛮寺の建立、そしてあわよくば御屋形様と御隠居様の洗礼を求めるつもりです」

随分と虫のいい話だな。なんで天下人が脅されたぐらいで洗礼をすると思っているんだよ。貞康にも気をつけるよう伝えておくか。叡山や本願寺を焼いた俺より付け入りやすいと考えてもおかしくない。それから嫁だな。政千代たちや来月徳川からくる嫁にも注意しておこう。それから侍女にもだ。史実の細川ガラシャは侍女を通じて教会とやり取りをしていたらしい。別に信仰についてああだこうだいうつもりはないが天下人の妻なのだから立場を考えてほしい。侍女に関してはできるだけこちらで厳正に調べないと。

「主流派はと先ほど言っていたがそれ以外の者はどうだ」

「主流派でないものはオルガンティノなどのように先代の布教責任者の時と同じ方法で布教を進めるべきと唱えている者たちです。そのような者たちはそもそも惟宗に対してはできるだけ武力を使ったりするのは避けるべきだと主張しています。さらにカブラルのように日ノ本の言葉を学ばずに俗世権力に近づくより日ノ本の言葉や文化を尊重し民衆に寄り添った布教を行うべきとも。そのせいでキリシタンたちは宣教師たちの主流派ではなく、オルガンティノたちの方に信頼を寄せているようです。おそらくカブラルが声をかけて一揆をおこさせたとしてもキリシタンたちの半分も参加することはないでしょう」

「そうか。確かオルガンティノは今九州にいるのだったな。キリシタンの数はやはり九州が最も多いのか」

「そのようです。キリシタンの半分以上は九州北部にいます。畿内には3割ほどといったところです。それもだんだん数を減らしてきているとか。もともと僧侶の腐敗に呆れてキリシタンになったものもいますので最近の惟宗に贈り物を送って近づこうとする動きに失望したものもいるとか」

「そうか。日ノ本の民を南蛮の者が指揮するというのは少し危険だろうな。少しでもキリシタンと宣教師の仲を引き裂いておきたい。出来るだけ悪い噂を流してくれ」

「かしこまりました」

別にキリスト教に関しては信仰しようがどうでもいい。問題はその信仰に外国人が指導していることだ。欧州諸国が植民地を多く獲得しようとしているこの時代に外国人の宗教指導者を国内に置くのは不安だ。かと言って新しい宗教は変に圧力をかけると必ず反発があるはずだ。どうしたものかな。宣教師に故郷を捨てて日本人として生きるように命じるか。いや、それも反発があるだろう。そして南蛮との交易にも影響が出るはずだ。日本の物、特に石鹸や椎茸など俺が作らせた物は欧州においてそれなりの需要があるらしいからすぐに貿易中止ということにはならないだろうけど縮小はするだろう。せっかく銀が国内に流れ込んできているからそれを止めるのは避けたいな。プロテスタントを呼び込むか。いや、イギリスなどと交易が出来るようになるのはいいがそれだと国内での争いがひどくなって最悪の場合はカトリック・プロテスタント間で戦が起きる。キリスト教の問題に巻き込まれるのは御免だ。ん?プロテスタントか。そうだ。

「頼久、盛円と協力して日ノ本の者でキリスト教に詳しいものを調べよ。特に布教に深く関わっている者を頼む」

「構いませんが・・・殺すのですか」

「いや、宣教師が南蛮のものだからこのような問題が起きるのだ。キリシタンを指導するのが日ノ本の者であれば本願寺や比叡山のことが頭をよぎり迂闊なことはしないだろう。だったら日ノ本の者を指導者に据えれば万事解決だ」

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