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公家

―――――――――1574年5月10日 近衛邸 一条内基―――――――――

「ようやく信長が死にましたな」

関白様が書状を一読するとそう呟かれて溜息をつかれた。

「そうですな。これで織田の滅亡はもう目の前。あとは多くの重臣が討死した武田と武田が負けたと聞いてすぐに撤退した北条と奥羽の大名たちのみです。家督を譲るらしいですがすべてを譲るわけではないでしょう。日ノ本を統一するのはあと少しです」

「家督といえば一条殿も養子がそろそろ元服であったの。しかも元服と同時に中将殿から土佐を譲られるとか。これで一条家もかなり潤おう」

「左様ですな。辰千代が元服した暁には一度土佐の方へ下向しようかと思っておりまする。ですが惟宗が領有するようになってからかなり時間が経ちましたからな。そう混乱することはないでしょう。すぐに戻ってこれるかと」

今でも惟宗からの援助は受けているが土佐は惟宗が領有するようになってからそれなりに開発が進んでいるようだ。これほど楽しみな下向は初めてだの。

「元服して土佐一条家の家督を継いだら官位を用意せねばの。従五位下左近衛権少将あたりに落ち着こう。そのあたりの事は皆に相談してからじゃが」

「ありがとうございまする」

土佐一条家の家格を考えれば最初の官位はそのあたりだろうの。

「それと中将殿にも新たな官位を考えた方がよかろうて。おそらく鎮西大将軍職は日ノ本を統一してからであろう。その前に何か官位か昇叙させねば。権中納言あたりがよいかの。ここで惟宗と不仲になるのは朝廷のためにも帝のためにもならん」

「左様ですな。それと織田征伐が終われば家督を貞康殿に譲るとか。貞康殿にも官位を与えねばならいでしょう」

ここで貞康殿に官位を与えねば辰千代に官位を与えられたのに自分にはないのかと不満に思うだろう。最悪の場合は中将殿の代では良好だった関係が次の代になったとたん険悪になることも考えられる。そうなれば今は静かな二条派の声がまた大きくなるだろう。そうなれば次の関白は麿ではなく二条になるやもしれん。それは困るの。

「しかし弟の辰千代より官位が低いと不満に思うでしょう。少なくとも従五位上以上でなければ」

「しかしそうなるとかなり無理をしなければならんのぉ・・・従五位上肥後守はどうであろうか」

「肥後守ですか」

「うむ。従五位上であれば辰千代より位階は上になるし肥後守は中将殿が最初にもらった官位。惟宗の新たな当主としてこれ以上ふさわしいものはない思わんか」

「左様ですな。では某の方から細川や伊勢の方に不都合がない確認しておきましょう。いや、そういえば権大納言殿の孫が辰千代たちと共に元服ではなかったか。そのついでに確認させよう」

「それがよろしいですな」


――――――――1574年5月30日 天徳寺 ロレンソ了斎――――――――

「では了斎様。私たちはこれで失礼します。また説法を聞きに来ますね」

「えぇ、いつでもよろしいですよ」

そう言って私がほほ笑むと説法を聞きに来ていた親子が部屋を出ていく気配がした。このところは以前ほど新しい信者が増えることがなくなったせいかここに来るのは知り合いばかりになってしまいました。信徒たちも私の話だけでなく、この寺の責任者であるオルガンティノ様に会いたがっています。そろそろ戻ってくる時期のはずですが・・・。

オルガンティノ様はほかの宣教師の方々との話し合いのため畿内に向かわれています。私としましてはオルガンティノ様のような日ノ本の言葉で話される御方は畿内に常駐する方がよいと思うのですが、日ノ本での布教の責任者であるカブラル様がそれを許されません。これからの布教の方針で対立してしまい、これまでにあまり信徒が増えていないことからオルガンティノ様が敗れてしまったのです。しかしそんなオルガンティノ様が呼ばれるとはよほどのことなのでしょうか。おや、誰かがこちらに来ているようですね。

「了斎」

「おぉ、その声はオルガンティノ様。御帰りになられたのですか」

「えぇ。ちょっと厄介なことになりました。話がしたいのでここには誰も近づけないようにしてください」

「かしこまりました」


近くにいたものに人払いを頼むとオルガンティノ様の前に座った。さて、話とは何だろうか。

「今回京にて話し合いがあったのは前将軍義昭様より惟宗様を討伐するため力を貸すべしと密書がカブラル殿のもとへ届けられたためです。日ノ本の風習に合わせずに布教を行った方がよいという者たちの中には神は存在しないと考えキリスト教に入信して洗礼を受ける素振りもない惟宗様を疎んでいる者もいます。さらにコエリョ殿のようにどのような手段を用いてでもこの国をキリシタンの国にするべしという者まで。嘆かわしいことです」

「なんと。それで惟宗様討伐の話は」

「フロイス殿などこの地にあった布教をするべきだというのものほとんどは反対しましたし、カブラル殿のような偏った考え方をされる方の中にも今は惟宗様と敵対するべきではないという者がいますので当分は先送りになりました。しかしこのままでは布教に失敗しかねないのでこれまで以上に惟宗家の中に信徒を増やすようにしようと決まりました。それが惟宗様の目にどう映るか」

「もし惟宗様を討伐するべしとなれば一向衆の二の舞になります。なんとしてでもそれを避けなければ」

「えぇ。そのためにも了斎殿の御力をお借りすることになります」

「この非才の身でよろしければ存分にお使いくだされ」

神の教えをこの国で広げるためにも惟宗様と敵対することは避けなければ。まずはこの話がどこまで広まっているか把握しなければ。誰か京に行ってもらいましょう。出来れば日ノ本の民に。京の方は日ノ本の民を侮っておられる方が多い。もしかしたら広まっていることに気が付いていないかもしれません。誰がいいでしょうか。そうだ喜斎殿に御頼みしよう。あの方は商人だから顔も広い。情報を集めるにはうってつけのはず。さっそく書状をしたためねば。

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