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第二次織田征伐2

――――――――1574年3月1日 小田原城 北条氏政―――――――――

「すぐに援軍を出して織田・武田とともに惟宗と戦をするべきです。織田・武田が滅べば間違いなく次は我らですぞ」

あれは氏照か。いつも好戦的なことを言って主戦派の中心となっている。この間から続けている評定でも声をあげれば惟宗と戦をするべしばかりだ。


織田と惟宗の戦は惟宗が数を利用して少しずつ織田を押している。たしか今回の戦で織田を攻めているのは8万だったか。それに武田とにらみ合っている別働隊が15000。その気になればもっと兵を動かせるだろう。この城で匿っている義昭公は早く織田に援軍を送れ、遠江に兵を出せと言っているがなかなか皆の意見が纏まらない。そもそも儂も何をするのが最善なのかがわからないのだ。普通ならば降伏するべきなのだろうが。


「だからと言って勝てると思っているのか。織田・武田だけでは10万も動かすことはできんだろう。それに対して惟宗は20万もの兵を動かすことができるのだぞ。勝てるわけがない」

「いや、我らが手を貸せばある程度対等ぐらいにまで持ち込むことができるはずだ。あとは国康めが死ぬのを待てばいい。国康さえいなくなれば惟宗など恐れるほどではないわ」

あれは政繁と憲秀か。憲秀は自分の権力が落ちてしまう恐れがあるから徹底抗戦を唱えているのだろう。あれは少し権力欲が強い。その分有能だから特に気にしてはいなかったが。

「国康が死ぬまでというがそれはいつだと思っているのだ。そのような計画とも言えないようなものに御家の存続をかけるなど言語道断。ここは惟宗につくべきです」

「しかし惟宗が北条ほどの大身を認めるか。織田は一度降伏しようとして認められなかったのだぞ。それ以上に大きい北条の降伏を認めるとは思えん」

「それは交渉次第でしょう。幸いにもそこまで表立って敵対したわけではござらん。うまく交渉すれば認めてもらえるかもしれませんぞ」

交渉次第といった声が聞こえると今まで目をつぶって評定を聞いていた板部岡江雪斎が少し目を開いて顔をゆがめる。誰が交渉をすると思っているのだとでも考えているのだろう。その近くに座っている幻庵も苦い顔をしている。

「しかし我らはすでに大樹を受け入れてしまったのですぞ。それを持って敵対したとみなされているかもしれませんぞ。そのような状態で交渉になりましょうか」

そうだ。降伏するとしたらそこが問題なのだ。大樹が来た時に適当なことを言って近くの寺に入ってもらえばよかった。そうすれば決断を降すまで時間が稼げたはずだ。大樹を受け入れたためにこれほど評定に時間がかかっているのだ。かと言ってここで大樹を追い出せば足利の影響がまだ残っている奥羽の大名たちとの関係が崩れかねない。そこまでして降伏が認められなければ奥羽の大名と惟宗を同時に相手しなければならなくなる。

「それに仮に降伏したとしてこれまで通りの関東支配を出来るとは限りませんぞ。上方の者に関東の事で口出しされるなど我慢なりません」

「氏照殿の言われる通りです。降伏しても惟宗が関東の事に口出ししてきては降伏した意味がありません。上方や天下の事は惟宗に任せてもいいですが、関東の事は北条にというのであれば降伏しても構いませんが」

関東の事は北条がか。そのような考えは昔からあるのだ。平将門の乱、鎌倉の幕府。上方に反抗的なのは仕方ない。だが事ここに至ってまだそのような考えを持つ者がいたか。

「降伏する以上口出しされるのは仕方のないことでしょう。むしろ惟宗に口出しをさせて関東を繁栄させるべきです。惟宗領がどれほど栄えているかは皆存じていることでしょう。関東の繁栄のためには降伏をするべきです」

「いや、関東の事は関東の者が決めるべきだ」

「ここで戦をすれば民が苦しみますぞ。そのようなことがあれば早雲様をはじめ歴代の御当主様に顔向けができません」

民のためか。常々父が言っていたことだな。


「御屋形様はいかが御考えですかな」

幻庵の言葉に皆がこちらを見る。これまでの評定で儂は一度も意見を言っていない。ここで儂に意見を聞くということは戦うにしろ惟宗に降るにしろさっさと決断をしろということだろうか。

「これ以上の議論は無意味でしょう。どのような選択をしようと困難な道のりになります。ですがどうかご決断を」

「そうだな」

決めねばならんか。敵対か降伏か。・・・よし、決めたぞ。

「北条は惟宗と」

「失礼するぞ」

皆に儂の考えを伝えようとすると急に義昭公が入ってこられた。慌てて上座を譲り頭を下げる。義昭公はゆっくりと上座に向かうと満足げな表情をして座られる。

「面をあげよ」

「「「はっ」」」

大樹に促されて顔をあげる。しかしこちらに来るとは珍しい。いつもであれば自分の部屋に呼びつけているというのに。

「わざわざこちらに来られるとは珍しいですな。御用でしたら私から向かいましたのに」

「なに、たまにはよかろう。それよりいつになったら出陣するのだ」

やはりその話か。

「その話ですが未だ結論が出ておらず。それに織田・武田の援軍となるとかなりの長距離になってしまいます。そうなれば農繁期までに戻れるか心配でして」

「そのようなことを気にしては惟宗と戦などできんぞ。すぐに戦の用意をせよ」

「しかし」

「くどいぞ。これは命令だ。それとも北条は天下の大罪人である惟宗に味方するわけではなかろうな」

「それは」

「大樹、そのようなことはございませんぞ」

おいっ、氏照。何を言っているのだ。そのようなことを言ったら。

「そうかそうか。ではすぐに戦の用意をせよ。よいな」

「・・・はっ」

儂の返事を聞くと満足したのかすぐに上座を立たれて部屋を出ていかれる。くそっ。何で織田や武田のために戦をせねばならんのだ。くそっ。俺は出陣せんぞ。主戦派の者だけを戦に出して討死したらさっさと和睦をしてやる。

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