第二次織田征伐1
――――――――1574年1月25日 勝幡城 小早川隆景―――――――――
「武田は退きませんか、頼氏殿」
「そのようですな。上杉が動き出すのも雪解けの後になるでしょう。その前に鑑連殿を叩いたうえで戻るつもりのようです」
さて、武田はすぐに鑑連殿を叩き潰せるかな。兵の数はほぼ互角。武田は家督を継いだばかりの勝頼が指揮を執り、惟宗は戦上手でこれまで三河・遠江で戦の指揮を執られてきた鑑連殿。勝頼がよほどの戦上手でない限りすぐには決着はつくまい。
我らは御屋形様の命により尾張攻略を進めている。だが織田の抵抗はかなり激しくあまり攻略できていない。美濃の千葉殿もうまくいっていないらしい。御屋形様も苛立たれているだろうな。織田を攻略すれば天下は一気に近づく。御屋形様は武田や北条の事は歯牙にもかけていない。
織田を滅ぼした後には若様に家督を譲ると言われたのも織田さえ滅ぼせばあとは若様でも天下を取れると御考えなのだろう。噂では鎮西大将軍は若様にしようと御屋形様がお考えだと聞いた。噂が事実であれば若様が武田・北条を潰している間に新たな幕府の仕組みを作られてそれを若様に譲るおつもりなのだろう。そうなるとこの戦のあとは若様が中心になるな。
我らの毛利も輝元様が中心となろう。いちおう我ら兄弟は惟宗の直臣という扱いだが輝元様の後見人をしている。以前から毛利家への帰参を願い出ていたがそろそろ認められないだろうか。輝元様は亡き兄上の忘れ形見だ。出来れば側で御支えしたい。ま、それは戦が終わってからだ。
「御屋形様はいかがされていますか」
「すでに大坂を出られたそうです。率いられている兵の数は4万のようです。さらにこちらに2万の援軍を送ると。長島がいないせいか以前よりかは兵が少ないですな」
「それでも総勢10万を超えるのです。御屋形様がこの戦にかける思いというものが伝わりますな」
天下分け目の戦。そう考えられているのだろう。しかし織田もなかなか粘るな。我ら毛利は尼子がいたとはいえこれほど粘ることはできなかった。降伏という選択肢があった毛利と降伏を認められなかった織田の違いというのもあるだろう。それでもよく持っている方だろう。しかし今回で終わりだな。上杉は降伏し武田は鑑連殿が足止めしている。北条と義昭は動かないと見ていいだろう。織田に援軍を送る大名はいない。戦では奇襲で御屋形様の頸を狙ってくるだろうが御屋形様がそのようなへまをするとは思えん。寝返ろうとしている者から情報を集めるはずだ。この戦、惟宗の勝ちだな。
――――――――――――1574年2月1日 長松城――――――――――――
「そうか、隆景でも苦戦しているか」
頼久の報告を聞いて溜息が出そうになる。やっぱり織田家臣団の層は厚いな。
2万を率いる康胤と合流した俺はとりあえず頼久から状況を確認することにした。隆景率いる別働隊は海西郡・海東郡の一部を制圧した。だが織田の援軍1万が到着してからかなり苦戦しているらしい。織田を率いているのは織田信忠、副将は丹羽長秀・明智光秀だ。光秀は義昭についていったかと思ったけど織田との連絡用として置いていかれたらしい。それでよくまだ義昭についているよな。いや、もしかしたら義昭じゃなくて信長についたのかな。信長が勝てたとしても義昭のもとでは出世できない。だったら信長のもとでと考えてもおかしくはない。それならこちらに寝返ってくれるかもしれないな。
康胤の隊は俺が合流するまでに池田郡・不破郡・石津郡を制圧した。その間に滝川一益・竹中重治が援軍15000を率いてきた。重治はこの間の戦で秀吉の与力から信長の直臣になったらしい。数では負けているのでそのままにらみ合いをしていたところに俺が合流した。どうやら何度か奇襲を仕掛けてきたらしいがうまく撃退できたようだ。俺が合流してからは奇襲を仕掛けてくることはないが。
「それで織田はどう動いている」
「現在は各地に兵を分散させているようです。おそらく時間を稼いで武田や北条の援軍を待っているものと思われます」
時間稼ぎと援軍待ちか。信長としてはかなり不本意な戦だろうな。数を考えればかなり時間を稼げるだろうが援軍が来る可能性は低い。それに対して惟宗は今以上に兵が増える可能性がある。だけど俺としてもあまり戦を長引かせたくない。去年からかなりの大軍を動かし続けている。惟宗や大身の家臣はそれほどではないだろうが国人たちにはそれなりに大きい負担を強いている。出来るだけ早く終わらせたい俺と出来るだけ時間を稼がないといけない織田。どっちが勝つかな。
「こちらに寝返ると言っている者はいるか」
「残念ながら美濃にはいないようです。美濃三人衆と不破の件があってかなり織田を恐れているようです」
寝返っても織田にばれて滅ぼされたら意味がないか。
「尾張はどうだ」
「こちらもだめです。やはり尾張は織田の足元ですので厳しいかと。皆、今川が攻めてきたときと同じことが起きると信じているようです」
「一門衆もか。信長は同族での争いに苦労していたと記憶しているが」
「おつやの方の件があります。あれで親族であったとしても容赦をしないという姿勢を改めて見せ付けました。それで織田一族は信長を恐れて」
「寝返らないか」
「はい」
うまくいかないな。やっぱり三英傑を相手にするのは大変だな。家康はこちらに付いたとはいえどうなるか分からないし。そういえば秀吉は何をしているのかな。
「秀吉という男は何をしている」
「秀吉と言いますと木下秀吉ですか」
この歴史ではまだ木下姓なのか。
「そうだ」
「彼の者は信長に従って大垣城にいますが」
「寝返らないと言っているのか」
「いえ、まだ交渉はしておりませんが」
まだか。確か秀吉は織田家の中でそれなりに顔が広かったような気がする。前田・蜂須賀・前野・浅野。一人が寝返れば続くものも出てくるだろう。秀吉が寝返るかどうかは分からないが上昇志向が強い秀吉なら可能性は高いはず。試してみるか。
「できれば接触せよ。寝返れば僥倖。寝返らなくても寝返ったと噂を流せ」
「はっ」




