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上杉降伏

―――――――――――1573年12月25日 大坂城―――――――――――

「お初にお目にかかります。上杉謙信が家臣、直江景綱にございます」

「惟宗国康だ。面をあげよ」

「はっ」

俺に促されて景綱が顔をあげる。景綱っていえば上杉の重臣だな。それもかなり上の方の。そんな重臣が何の用かな?


10日ほど前に織田攻めを再開した。今回は上杉に邪魔されないように加賀に1万の兵を置いた。尾張と美濃を2万の兵が同時に攻め始めたから織田は兵を二つに分けないといけなくなる。ただでさえ惟宗より兵が少ないのに大変だろうな。それにそろそろ俺が本隊を率いて織田攻めに参加しようと思っていたところだった。そのタイミングで上杉からの使者だ。和睦だったら上杉の備えに置いていた兵を動かせるから楽でいいんだけどな。


「それで用件は何かな」

「我ら上杉は惟宗に降伏したく参りました」

景綱の言葉に皆がざわめく。いちおう手取川での戦で勝ったとはいえまさか降伏するとはな。謙信と一部の重臣とかで決めたとかじゃないよな。

「それは謙信だけでなく皆が納得したものであろうな」

「もちろんにございまする。前管領上杉憲政様・一門衆・国人衆・他国衆、皆が納得したものにございます」

憲政も賛成したのか。憲政にはそこまで権力はないだろうけど上杉が関東に出兵する大義名分のような人物だ。その憲政が賛成だったということはかなり大きいだろうな。他国衆としても俺と敵対するということは最前線を命じられるということだ。そうなれば真っ先に潰されるだろう。そんなことになりたくないなら賛成したんだろうな。一門衆・国人衆は一部を除いて謙信に心酔しているのだろうし一度負けたというのはやはり大きいのだろうな。多少犠牲は大きかったが勝ててよかったな。

「そうか。上杉家ほどの大きな家が惟宗の天下を認めてくれるのは実に嬉しい。帝も関白様も上杉の事は気にされていた。それが滅ばずにすむのだ。御喜びになろう。それで上杉が降伏するうえで絶対に譲れないものは何かあるかな」

「まず越後と越中の領有を認めていただきたい。それから御実城様の御命の保証をいただきたい」

越後と越中と謙信の命か。謙信の命はいい。どうせあと数年で死ぬんだ。それまでに上杉が反乱を起こすとは思えない。問題は領地だな。越後と越中は石高にして100万石近くになる。これは少しでかいような気がするな。外様の惟宗配下で一番の大身は筒井の約45万石。上杉はそれの倍以上になる。

「謙信公の命と越後はともかく越中は過分ではないか」

「越中は一揆勢を滅ぼすために上杉と手を組んだ際に惟宗様が認められた領地です。それを取り上げられるのは」

「しかし降伏をするのであろう。であればある程度は領地をこちらに渡して当たり前ではないかな」

「だからと言って越中のすべてを取り上げるのは不当ではございませんか」

「もしその言い分を認めなければ」

「惟宗にとって上杉が最大の敵になるでしょう。たとえどこまで追い詰められようとも、たとえ兵が一人になろうとも抵抗し続けましょう」

面倒くせぇ。謙信が最後まで抵抗するだと。ただでさえ軍神が相手なのにその軍神が率いる兵が死兵とか面倒なことこの上ないだろう。かなりの大きな損害を覚悟しないといけないな。織田や北条・武田と戦をしないといけないのに上杉相手に損害を出している余裕はない。

「では越中の新川・婦負郡の領有は認めよう。残りの射水郡・砺波郡は惟宗に引き渡すように。これ以上の要求は認めん。残念だが惟宗の全軍をもって上杉を潰そう」

「・・・分かりました。では越中は新川・婦負郡のみで」

「領地はそれでよかろう。次はこちらからの要求だ。一つ、上杉謙信は正月の挨拶のため上洛すること。一つ、上洛後はこの大坂城にて俺を支えること。一つ、雪解けを待って武田に攻め入ること。一つ、織田・北条とのあらゆる約定を放棄すること。以上だ」

「雪解けとは具体的にいつ頃がよろしいでしょうか」

「遅くとも3月には出陣せよ」

「北条との約定を放棄ということですが景虎殿はどういたしましょう」

景虎か。どうするかな。あいつが北条に帰れば謙信が死んだときに御館の乱がおきることはないだろう。上杉は大きいから出来るだけ力を削ぐ理由が欲しいしそのままにしておくか。

「景虎はそのままでいい。ただし北条とは連絡を取らせるな」

「かしこまりました。御実城様にお伝えしておきます。おそらく問題なく受け入れられると思われます」

「そうなることを期待しているぞ」

これでまた一歩天下に近づいたな。あと大きな障害は織田・武田・北条。天下統一まであと少しだ。

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