長島陥落
―――――――――――1573年10月20日 大坂城―――――――――――
「長島が降伏ねぇ」
頼久から渡された貞康からの書状を眺めて呟く。何でも長島が織田経由で降伏を申し出てきたらしい。使者は明智光秀が務めたらしい。明智はこの歴史でも幕臣と織田の家臣の間のような立ち位置だからこの使者は義昭の意向も入っているだろう。降伏の書状のほかに義昭からの自称御内書も渡されたらしい。いつまで将軍面するつもりなのだろうね。織田としてもさっさと足元の兵を退きあげてほしいんだろうけど敵対しているんだからあまり意味はないだろうに。さらに書状には武田・北条もこの降伏を受け入れてほしいと言っているなどと書いてあった。武田と北条が連名で長島の降伏を認めろと言っているのか。これを無視すれば奥羽を除いた東日本は完全に反惟宗になるだろう。それを案じて貞康も俺に確認の書状を送ってきたんだろうな。
「長島はそこまで厳しいのか」
「はっきり言ってもう1・2月ほどすればまともな抵抗は難しいかと」
俺の質問に頼久がすぐに答える。もう長島を囲んで10ヶ月ぐらいかな。多くの門徒を抱えている以上、兵糧はかなり減っているだろう。砲撃によって兵糧が吹き飛ばされているかもしれない。そんな状況で籠城しているんだ。少なくとも顕如や指導者層はかなりの危機感を持っているはず。かなり厳しい条件でも降伏は認めるだろう。ただどうせまた適当な場所で一揆を扇動するに決まっている。
「貞康は何と言っている」
「信用できないゆえ認めずにそのまま長島を囲むのが最善とおっしゃっていました」
最善ねぇ。上杉が当分動けない今のうちに動きたいから時間をかけるのは避けたいところだよな。かと言って降伏を認めるのは論外だな。さてどうしたものかな。
「織田・武田はどうしている」
「武田は鑑連殿を叩くべく戦の用意をしています。織田も武田の動きに合わせて出陣するつもりのようです。義昭もそれを支援するよう各地の大名に使者を送っています」
織田と武田も動き出すか。さすがの舅殿でも少し厳しいかもしれないな。織田が動き出したのはおそらく上杉との戦で惟宗が当分は織田討伐に動き出せないと見たからだろう。不破関にいる2万に突っ込ませるかな。俺としては出来れば上杉の力を削いでおきたいところだがいま戦を仕掛けても途中で雪の季節になるかもしれない。そうなると中途半端なところで上杉討伐が終わってしまう。織田に続いて上杉討伐にも失敗したと思われたら関東や奥羽の大名に舐められる。やっぱり長島を片付けたうえで織田討伐・東海道平定を目指すかな。しかし武田はこの間信玄が死んだばかりなのによく兵を動かせたな。何をえさに動かしたんだろう。勝頼は側室の出だ。武田の中であまりしっかりした地盤がないのかもしれないな。史実では特定の家臣を重用して重臣たちの力を押さえようとしていたがこの歴史では義昭の権威を利用して重臣たちを押さえつけるつもりなのかもしれない。ま、どちらにせよ勝頼のもとで纏まる前に潰さないとな。
「もう城を囲むのも飽きただろう。このあたりでやめにしよう」
「それは降伏を認められるということでしょうか」
「いや、顕如以下一人残らず殺せ。貞康にはそう伝えろ」
――――――――1573年11月10日 浜松城 大久保忠世――――――――
「武田と織田がまた攻めてくると申されるか」
鑑連殿の言葉に殿が驚かれる。皆も同じように驚いているだろうな。信玄が死んだことで当分は動き出せないと見ていたのだ。それなのにまた武田が攻めてくるとは。しかも織田もだ。せっかく遠江の平定がうまくいっているというのに。
「か、数は」
「武田は1万以上、織田は2万ほどとのこと。5日もすればどちらも攻め入ってくるでしょう」
「どこから攻めてくるかな」
「織田は西三河を制圧するつもりのようです。武田はそれを援護するために設楽城から南下して遠江と三河を分断するつもりかと」
「三河は我ら徳川が賜った地。それを織田や武田に引き渡すわけにはいかない。すぐに兵を送りたいのだが」
すぐに援軍を送りたいが徳川単独では相手にならない。鑑連殿が率いる惟宗の兵がいない限り勝つことはできないだろう。遠江の武田に奪われた領地を取り戻したのは鑑連殿だ。あと少しで遠江平定を終えることができる。そちらを優先されたら三河は我らだけで守らねばならない。頼むから三河へ援軍を送ってくれ。
「御屋形様もすぐに援軍を送るべしと指示をされました。すぐに送りましょう」
「おぉ、かたじけない」
「御屋形様はそれに乗じて織田征伐を再び行う予定です。この戦が終わるころには織田の脅威はなくなっていましょう」
なんと。長島を根切りにして尾張侵攻の憂いがなくなったとはいえこの間上杉と戦をしたばかり。それなのにまた戦をするのか。織田についていた時も思ったことだが銭の兵は無理がきくな。我らではしようとも思わないだろう。これが天下人の戦ということだろうか。
「まことですか。織田は嫡男の信康を殺した憎き仇。それを滅ぼすためならばこの家康、どのような苦境にも耐えて見せましょう」
「御屋形様は若様の舅となる徳川殿にとても期待しておられます。頼りにしますぞ」




