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手取川の戦い3

―――――――――1573年9月15日 立政寺 大舘晴光―――――――――

「上杉は何をしているのだ。あと少しで惟宗に勝てたかもしれないというのに奇襲に失敗しよって」

そういうと和田殿が渡された書状を破かれた。上杉は能登・加賀の半分以上は制圧していた。あと少しで惟宗に勝てたかもしれないというのも間違いではなかった。しかし惟宗との戦で奇襲に失敗してしまい逆に奇襲を仕掛けられてしまった。これで当分は上杉が動くことはないだろう。惟宗は織田と上杉のどちらを優先するか。場合によっては先の戦の時と同じくらいの兵が織田領に攻め入ってくるやかもしれない。そうなると織田は再び追い返すことはできるだろうか。


上杉が惟宗に対して奇襲を仕掛けるためにわざと撤退した。惟宗はそれを追って手取川を渡河した。それに気が付いた上杉はすぐに反転して奇襲を仕掛けた。上杉の奇襲を受けた惟宗はすぐに手取川を引き返した。謙信公は渡河した惟宗の兵が少ないことを気にされて追撃をやめるよう指示したが手柄欲しさに先走った一部の隊が惟宗を追って手取川を渡河。対岸で伏兵を置いていた惟宗に多くの兵を討ち取られることになった。結果としては惟宗の被害は千とちょっと、上杉は数千に上る。上杉はこれ以上の戦はできないと判断したのか能登・加賀の城に少ない兵を置いて越後に撤退した。惟宗も1万の兵を能登・加賀平定に残して撤退した。越中に攻め入っていた康正も飛騨に撤退した。


上杉は当分はまともに戦をすることはできないだろう。たとえ武田と北条が味方をしたとしてもだ。それに上杉家内でも降伏論が出てくるはず。場合によっては惟宗に降伏するだろう。織田は惟宗が上杉と戦をしている間に先の戦の損害をある程度回復したとはいえ、まだ惟宗との戦は避けたいだろう。しかし長島の一揆勢はかなりの損害を被っているらしい。反惟宗同盟全体としてみればかなり押されているな。


「武田と北条は何をしている。あれが手を組んで織田とともに上洛をすれば惟宗に勝つこともできるであろう」

「残念ながら当分は難しいかと」

大樹の御質問に和田殿が答える。

「武田は遠江の武田領の守りのために兵を出すようです。総大将は武田勝頼殿が務めるとの事です。北条は関宿城攻めを続けています。それと・・・」

「それとなんだ」

「長島が一度降伏しようと使者を出したようです」

「なにっ、長島が降伏だと」

大樹が驚かれたように声をあげる。ほかの家臣たちもかなり驚いているようだ。しかしまさかあれほど惟宗を毛嫌いしていた顕如上人が降伏だと。

「惟宗を油断させるための罠なのではないのか」

「使者はあの証意殿だったとのことですので罠ではないかと。惟宗はすぐに鉄砲を放って使者たちを殺したようです。証意殿もその時に亡くなられたと」

証意殿は亡くなられたのか。これで長島の士気が衰えるだろうな。ただでさえ降伏をという声が出てくるのだ。長島はそう長くはないだろうな。

「大樹、いかがしますか。武田や織田に惟宗攻めを命じますか」

「織田はどう考えている」

「まずは先の戦の被害を回復する方が優先だと。けがをした状態ではたとえ兵法の達人だったとしても負ける可能性がある、ましてや相手は惟宗国康という巨大な虎。それ相応の準備をしなければならないと」

「しかしそうしている間にも惟宗は力を付けていくぞ。今ならば戦続きの惟宗は疲れているはずだ。疲れ切っている虎ならば怪我を負っている兵法の達人でも勝てるはずだ」

「しかし元の国力が違います。たとえつかれていたとしても惟宗を打倒するのは難しいのではないのでしょうか」

「では待てばその差は縮まるのか。待てば惟宗に勝つことができるのか」

「それは・・・」

難しいだろう。新たな味方が出てきてくれるのであれば別だがそう簡単に惟宗との差が縮むわけではない。そして惟宗はその差を利用して一人また一人と反惟宗の大名を潰してくるだろう。勝てるとするならば今しかないのだ。

「上杉・織田・武田・北条に伝えよ。今こそ惟宗を倒すべく立ち上がるとき。兵を揃えて余のもとに集うべしとな」

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