上杉攻め
―――――――――――――1573年7月5日 近衛邸―――――――――――
「そうか。上杉は敵対する方を選んだか」
そういうと前久が溜息をつく。前久は一時期上杉の世話になっていたからな。世話になった家同士が敵対するのはあまり好ましくないだろう。
「某としましてはあまり上杉と敵対するつもりはなかったので些か意外と言いますか、面食らっています。ですので何とか関白殿下より惟宗の天下に協力するよう説得していただけないものかと」
「ほほほっ。さすがの九州の鬼も越後の龍は敵に回したくないか」
「九州の鬼?」
「なんじゃ。知らんのか。ほれ、本願寺やら比叡山やら根来寺やらいろいろ寺を焼いておろう。そのせいで一部のものからは鬼と言われているのだぞ」
なんだそれ。初めて聞いたぞ。確かに多くの寺を焼いてはいるがそれは敵対したところだけだ。それが鬼か。どうせなら第六天魔王がよかったな。
「しかし良いのか。謙信は性格があれじゃから武田や織田ほど大きな勢力ではないが日ノ本で5本の指に入る大名なのは間違いないぞ。それを潰さなくてよいのか」
「構いませぬ。上杉は足利の忠臣で義に厚いというのが世間の評価です。それが惟宗の天下を認めればかなりの影響が出るでしょう。義昭もかなり不安になるはずです。あの上杉が惟宗についた、ならば新興勢力である織田や約束をよく破る武田はもっと裏切る可能性が高いのではないかと」
「なるほど。義昭めを疑心暗鬼にさせて其方に逆らっている勢力の結束を破ろうということか。面白いことを考えるの。しかしあまり期待するのではないぞ。あれは一度決めたとこをそう簡単には覆さないぞ」
「分かっております。どうやら某は妙な勘違いをされているようですので。少しは寛大なところを見せておいてもよいかと」
それと兵の調整を行うための時間稼ぎだな。関が原での戦いで織田は5000以上の兵を失った。これで簡単には動けないだろう。その間に長島と上杉のどちらかを片付けたいところだ。どちらかといえば長島だな。貞康に兵を分けないとな。長島攻めに6万、不破関を守る兵を2万、上杉攻めに6万を動員しよう。上杉が惟宗の天下を認めてそれに協力するという和睦という名の降伏をしなければ一気に攻め入る。越中まで押し返せば降伏をする可能性が高いだろう。そうでなくてもあと5年もすれば謙信は死んで内乱が起きる。
「そういえば鎮守府大将軍職はどうする。もう朝廷内での調整は問題ないぞ」
そういえばそんなことを康広が言っていたな。
「では織田征伐が終わり次第お願い致しまする」
織田が滅べば後は北条と上杉ぐらいだ。武田は信玄が死んだからそこまで脅威ではない。どこかで徳川なり飛騨なりに攻め入ってくるだろうからそこで史実同様、鉄砲を使って武田騎馬隊を壊滅させる。何とかなるだろうな。
「鎮守府大将軍になる以上は情けない戦はできんの」
「お任せくだされ。10年もすれば天下平定を終えているでしょう」
「そうであるの。楽しみにしておるぞ」
「はっ」
―――――――――1573年8月1日 立政寺 足利義昭――――――――――
「な、6万だと」
和田殿からの報告に大樹が驚きの声をあげられる。他の者たちも口々に驚きの声をあげてる。しかし6万か。
「間違いないのか。惟宗が多くいっているとかではないのか」
「配下の者が調べましたが間違いございません。長島と上杉攻めに6万ずつの兵を動かしているようです。長島は引き続き貞康が、上杉攻めは越前から国康が率いる4万の兵が、飛騨から康正が率いる2万の兵が攻め入っています」
「織田は、織田は何をしている。上杉は織田を助けるために惟宗に戦を仕掛けたのだぞ。その恩を返すために惟宗を攻めるのが筋というものではないか」
「しかし不破関には2万の兵がいます。先の戦で多くの兵を失った織田としてはすぐに戦をという訳にはいかないのです。それに長島を攻めている兵の一部を尾張に攻め込ませる可能性もありますので」
「そうか。上杉からは何か言ってきているか。例えば援軍要請であったりとかは」
「織田にはそのような者は来ていないようです。おそらく北条にも」
「北条はどうするつもりだ。まさか惟宗と同調して上杉を攻めるなどということはあるまいな」
もし大樹が仰るようなことがあればそれは悪夢と言っても過言ではない。武田は北条と徳川を気にしながら、上杉は惟宗と北条を気にしながら、織田は惟宗と徳川を気にしながら行動しなければならなくなる。そうなると惟宗討伐はより一層難しくなるぞ。
「北条は戦の準備をしていますが関宿城攻めのためのようです」
「関宿城というと下総の城だったな。では上杉攻めではないのか」
「はい。しかし上杉単独で惟宗に対応するのは難しいかと」
上杉は冬まで待てばよいが動かせる兵は多くても3万だろう。それに対して惟宗は6万。さすがの軍神でも厳しいだろう。
「ええい。せめて冬まで持てばよいのだが。とりあえず援軍を送るよう武田に御内書を送ろう。それから織田にも兵を動かすよう伝えるのだ」




