織田征伐5
―――――――――――1573年6月15日 松尾山――――――――――――
「御屋形様、そろそろ軍議です」
「分かった。すぐに行く」
本陣の外で周りの様子を見ていると与吉が近づいてきた。もうそんな時間か。しかし織田と野戦なんてしたくなかったんだけどな。まさか上杉が攻めてくるとは思わなかった。
上杉の加賀侵攻の知らせを受けてすぐに軍議をまとめた。とりあえず上杉の対応は飛騨の康正に任せることにした。ただ上杉が相手だ。兵力で勝っているとはいえ心配だ。そうでなくても織田征伐が始まる前と状況が変わってしまった。すぐに戻って新たに兵を分けなおしたいところだが織田を放置して戻るわけにもいかない。放置したらそのまま近江に攻め入ってきそうだからな。ここで織田に大きな損害を与えたうえで戻らないと不安でしかない。幸いにも織田も野戦を望んでいるようだ。野戦で織田に大きな損害を与えて戻る。そして上杉・織田・長島一向一揆を一つずつ潰していく。この戦で一気に織田を滅ぼすつもりだったけどなかなかうまくいかないものだな。
「待たせたな」
本陣に戻るとすでに皆が集まっていた。
「さっそく軍議を始めるぞ。頼久、織田の動きを」
「はっ。現在織田は桃配山のふもとに陣を構えています。横陣で多くの鉄砲を用意しているようです」
「鉄砲の数は」
「約1500といったところかと」
思ったよりは多くないな。長篠の戦いの時はもっとあったと思うんだけどな。それに横陣か。ここと桃配山の間には川があったな。そこを渡る前に鉄砲でと考えているのだろう。三段撃ちとか考えているのかな。惟宗は4000は用意している。それに大筒や棒火矢は確実に惟宗の方が上のはずだ。
「今回は上杉がこれ以上大きな動きをする前に決着をつけたい。そこで隊を本隊と別働隊に分ける。別働隊は笹尾山を迂回して織田軍の反対側に回る。本隊は別動隊が反対側に回り込むまで大筒・棒火矢・鉄砲・弓矢などで織田の注意を引く。別働隊が回り込んだ後は一気に挟撃を仕掛ける。その時に織田が逃げ出せるように南側はあえて開けておく。織田が撤退した後はすぐに京に戻る。他に意見があるものはいるか」
そう言って周りを見渡すが誰も意見を言う様子はない。
「別動隊は隆景に任せる。数は25000」
「はっ」
「いいな、この戦次第で今後の天下取りに大きく影響する。必ず勝つぞ」
「「「おおっ」」」
―――――――――1573年6月30日 三日城 上杉景虎―――――――――
軍議を終えて皆が下がる。残ったのは義父殿と義弟だけとなった。
「はぁ。面倒なことになったね」
「義父殿、よろしかったのですか。惟宗と敵対するのは反対だったはずですが」
北条攻めを行っていた時に大樹から和睦の仲介の使者が来た。もともと武田を攻めるべしと言っていた家臣たちを抑えるために始めた戦だったから義父殿はそれを受け入れた。そこまでは良かった。しかしそこから妙なことになった。大樹の使者はそのまま加賀に攻め入ってほしいと言ってきた。確か名は大舘とかいったな。御内書には書かれていなかったから大舘の独断だろう。おおかた上杉を参戦させることで織田の負担を減らして日ノ本の東側で反惟宗勢力を作り出すのが目的。しかも大舘は重臣たちに追放された畠山義綱を織田で匿っていたからこれを能登に戻して欲しいなどと言い出した。他の家臣たちも惟宗など恐れる必要はない、大樹の御命令を受け入れるべきだというものが多くそのまま惟宗攻めとなった。
「今更それを聞くかい。仕方ないよ。上杉は何もせずには惟宗に頭を下げられない程度には大きくなった。今頭を下げるのが一番いいのだろうが家臣たちはそれを許さない。だから一度惟宗の力を家臣たちに見せつけないと」
「つまりこの戦は負けるための戦だと」
「もちろん勝ちには行くけどね。だけど上杉は冬になれば越後に戻らないといけない。その間に惟宗は織田を潰すぐらいはやってのけるだろう。その時に惟宗の力を体感しておいた方が皆も降伏をと言いやすいだろう」
「しかし惟宗が受け入れるでしょうか」
惟宗は一度敵対した相手を再起不能になるまで追い詰めている。それでは降伏しても意味がないのでは。
「認めさせるさ。そのためにはこの戦は負けるが惟宗にも大きな損害を与えなければならないけどね」
惟宗に大損害を与えながら家臣たちが降伏を受け入れられる程度に負ける。無茶苦茶だ。
「御実城様、それは難しいですぞ」
義弟も同じことを考えたのか珍しく口を開いた。意見が同じとはこれも珍しいな。
「分かっているさ。でもやらなければ。信玄が死んで私もいつ死んでもおかしくはないだろうからね。その前に上杉家を何とかしておきたい。ま、最悪の場合は私の頸を差し出せば何とかなるんじゃないかな」
簡単に言ってくれる。そのようなことをすれば家臣たちが暴発する可能性を考えられていないわけではないだろうに。
「失礼いたします。伏齅から書状が届いております」
すっと戸が開くと与六が書状を持って入ってきた。
「ありがとう。これを持ってきたものは何か言っていたか」
「いえ、特には」
「そうかい。もう下がっていいよ」
「はっ」
義父殿に促されて与六が下がる。下がるときににらまれたような気がしたが気のせいだろう。義父殿はすぐに書状を開いて読み始めた。
「へぇ、やっぱりすぐに動き出したか」
「義父殿、書状にはなんと」
「織田と惟宗が関が原で野戦を行ったらしい。結果は・・・4回目の川中島のような感じだね。惟宗が奇襲を仕掛けたがそれに気が付いていた織田が伏兵を置いて反撃。序盤は織田が勝っていたけど徐々に数の差が出てきて最後は織田が撤退したらしい。惟宗は織田が撤退したのを確認して近江に引き揚げたようだ。その兵はそのまま京の兵と合流したみたい。そしてこちらに来る準備を整えているようだよ」
「京の兵と合流となると約10万ですか」
この兵力の差だけで家臣たちは負けを認めてくれないものだろうか。
「まぁ、それだけ兵力の差があればやりすぎるということもないだろう。勝つ気で行けばおのずと目指している形になるはずだ」




