織田征伐4
―――――――――――1573年6月10日 上平寺城―――――――――――
「織田が出陣したか」
「はい。数は4万です。今は長松城に入っています」
頼久の報告に皆がどよめく。4万となると織田のほぼ全軍だ。信長はここで決着付けようと思っているのだろう。
今月に入ってようやく近江を制圧できた。やっぱり織田は強いな。美濃に近づくほど抵抗が大きくなった。そして近江平定の間に織田はこちらに内通すると言っていた西美濃三人衆・不破光治・遠山七頭を攻め滅ぼした。いやぁ、さすがだな。手際がいい。内通者を知らせたのに碌に対応できず滅んだ朝倉とは違うな。
伊勢は長島以外は完全に制圧できた。どうやら伊勢は完全に長島一向一揆に任せるつもりらしい。長島は4万の門徒を集めて挙兵した。とりあえず長島は貞康に任せておけばいいだろう。数では負けていないし、質でも勝っている。問題は士気だがこれくらいはできないと天下なんて任せられないしな。何とかしてもらおう。
飛騨の康正はこれまで織田本隊と戦をすることになるからあまり積極的に戦を仕掛けていなかったが本隊が動いた以上美濃に攻め入ることになる。だが武田が甲斐に撤退したことで信濃方面を警戒しないといけなくなったからそこまで攻め取れないだろう。
武田は先月のうちに完全に甲斐に撤退した。多聞衆に確認させているがおそらく史実通り信玄が死んだのだろう。織田が岐阜城から出てきたのも武田を待っても意味がないと判断したからだろうな。武田は織田や義昭にも信玄の死を知らせていないみたいで義昭が何度も使者を送って再出兵を求めている。使者を送っているならばれそうなものだが影武者でも使っているのかな。
「織田が岐阜城から出てきた以上野戦を仕掛けるのが目的だろうな。皆はどう思う」
そう言って周りを見渡す。
「某は相手にせずにこのままの状態を保ち織田本隊を引き付けておくのがよろしいかと思います」
最初に意見を述べたのは調親だった。調親だいぶ年を取ったな。確かもう60過ぎぐらいだったはず。隠居してもいいころだが盛廉との約束があるから俺が天下を取るまでは働くと言ってくれている。
「織田がほぼ全軍を引き連れているということは美濃や尾張・三河は兵が少ないということです。そちらから少しずつ制圧していくのがよろしいかと。兵の数で勝っているのは我らです。焦って危険を冒しに行く必要はないでしょう」
「某は一気に決着をつけるためにも野戦を仕掛けるべきだと思います」
次に意見を述べたのは島津忠平だった。
「ここで信長の頸を取ることができればこの戦は勝ったも同然です。織田もそれを狙っているでしょうが数ではこちらの方が勝っています。野戦になったところでそこまで危険ではないでしょう。それにここで惟宗の武威を示しておいた方がこちらに寝返ってくる国人も増えましょう」
うーん。織田本隊を引き付けてほかの場所を制圧させるか野戦で一気に決着をつけるか。どうするかな。相手はあの織田軍だ。柴田は討ち取ったとはいえ、ほかにも猛将や知将が多くいる。特に竹中重治。史実では孝隆とともに両兵衛として活躍していた。この歴史でも史実同じくらい活躍している。西美濃三人衆と不破光治を討ち取った時も策を考えたのは重治らしい。こいつとは戦はしたくないな。野戦になったら絶対に何か策を考えているはずだ。
「しかし武田が当分動けない以上すぐに決着をつける必要はありますまい。兵糧も水軍を使っているので心配はない。時間より損害を気にするべきかと」
「調親殿。相手は織田と武田ですぞ。それに信玄が死んだのも戦で討死したわけではなく病死です。武田はそこまで混乱していないのでは」
「上杉はどうしているのだ。信玄が死んだとしたら信濃を奪う絶好の好機であろうに。上杉と武田が戦をすれば武田を気にする必要はなくなる」
「上杉は義を重んじている。そんな真似はしないでしょう。それより北条攻めを行うのではないでしょうか。そうなると一気に決着をというのも悪くないのでは」
「それは義昭が阻止するのではないか」
忠平の意見を皮切りに皆が口々に意見を言う。どちらかというと野戦で決着をという意見の方が多いな。
「御屋形様」
皆が口々に意見を言っているなか与吉、のちの藤堂高虎がすっと近づいてきた。
「先程多聞衆の方が書状を」
そう言って懐から書状を取り出す。何事だろうか。
「そうか。そのものは何か言っていたか」
「出来るだけ早くご覧いただきたいと。火急の知らせのようです」
火急の知らせか。余計に気になるな。例えば実は信玄は死んでいなかったとか、武田の代わりに北条が攻めてきたとか、徳川が裏切ったとか。家臣たちも気になるようで軍議をやめてこちらを見ている。さて、見るか。
「御屋形様。書状にはなんと」
「・・・北条・上杉で和睦成る、上杉そのまま加賀に兵を進める。その数2万」




