織田征伐1
―――――――――――1573年2月10日 安土山――――――――――――
観音寺城への総攻撃が始まった。今のところは順調に進んできているがこの城はかなりの堅城だ。うまくいくかな。ま、ここまで来たら俺にできるのは本陣で小姓たちとぼーっと結果を待っているだけだ。それに攻城戦と言っても最近は九州統一の頃とかなり変化してきた。まず棒火矢や大砲で城を遠距離から攻撃、城を壊しまくって敵が出てくると弓矢や鉄砲で近づいてくる前に大打撃を与えてボロボロになったところを突撃して叩き潰す。ろくに大砲や鉄砲への防具を持っていないところだったらほぼ一方的だ。これに榴弾でもあればもっと楽なんだろうな。もっとも小姓たちはあまり落ち着きがない。特に元服したばかりの氏郷なんかは戦の前に自分も出陣したいと駄々をこねていたな。
康正の飛騨攻めは大半を制圧したりとうまくいっているようだ。飛騨は一向衆の力が大きい場所だが加賀・越中の一揆に力を貸した際に大きな損害を出したせいで思ったより抵抗は大きくなかった。飛騨は美濃のすぐそばだ。当然ながら美濃の国人たちの動揺も大きい。その動揺を抑えるためにも大河内城を囲んでいた兵の大半を引き連れて美濃に戻った。その数は約4万。兵の質では劣るつもりはないが織田は兵も将も精鋭ぞろいだ。事前に言っておいたようにまともに戦をさせなければいいけど。康正なら大丈夫か。一度戦に負けてからかなり慎重な男になった。若い貞康ならともかく康正がそう簡単に挑発に乗ることはないだろう。問題は貞康だな。
前の加賀・能登攻めで大軍を動かすことを経験したとはいえまだ若い。歴戦の織田軍に勝てるかな。ま、伊勢は長島一向一揆が主力だろう。そうなると顕如か。何とかなるかな。今のところは伊賀を通って北伊勢の備えを置きつつ伊勢中部の城を攻略しながら南下している。伊賀はそのまま貞康に従っている。裏切る心配はないだろう。
近江では時間稼ぎに徹しているようで各城の抵抗は大きい。だが数はこちらの方が圧倒的に上だから問題なく制圧できている。
「御屋形様」
「頼久か。いかがした」
「西美濃三人衆と不破光治がこちらに寝返るとの書状が届きました。さらに東美濃の遠山七頭もこちらに付こうとしています」
「遠山というとたしか去年当主が死んで次の当主は信長の実子だったな。信用できるか」
「問題ないかと。実質的な当主であるおつやの方がこちらに人質としてくると言っております」
おつやの方って確か史実でも武田に城を囲まれたときに降伏した女城主だよな。そして長篠の戦の時に織田に攻められて殺されたはずだ。
「伊勢はどうなっている」
「大河内城はもう落ちますな。今頃は総攻撃が行われているかと。しかし北畠親成が大河内城を脱しているようです」
「そうか。それで今は何をしている」
「若様のもとへ向かおうとしています。ですがそれに従った家臣の一部が我らの事を信用できないと言っているため西林寺に匿われています」
「貞康はどうするつもりだ」
「いちおう我らのもとで匿われた方がいいと使者を出しているようです」
「ふむ・・・織田に殺されたように細工をしたうえで殺せ。北畠の血が残るのは面倒だ」
「はっ」
北畠のような特定の地域を長く治めていたものがいると後々厄介になる。そうでなくても北畠は名門だ。惟宗が大きくなったとはいえ残られると面倒なことになるのは目に見えている。そのあたりの事を言い含めておけばよかったな。
「長島はどう動く」
「いまは水軍が海上を封鎖する前に兵糧を運び込むことに必死です。まだ攻勢には出てこないでしょう。しかし若様が尾張に攻め入ろうとしたときは邪魔してくるでしょう」
「そうか、貞康には尾張に攻め込む前に必ず長島を制圧しろと伝えている。油断はするまい」
場合によっては長島から出て貞康やこっちに攻めてくるかもしれないな。俺としてはそちらの方がいい。長島は天然の要害だ。あれを攻略するのは手間がかかるだろう。それなら出てきてくれた方が楽でいい。
「そういえば長島一揆の数はどれほどだ」
「3万から4万といったところです。若様の兵だけで十分対応できるかと」
「そうか。上杉はどうしている。あれがこちらに攻めてきたら厄介なことになる」
「上杉は北条への出兵を検討しています。上野の平定が目的のようです。また家中には信濃に攻め入るべしという声もあります。少なくともこちらに来るつもりはないようです」
良かった。さすがに織田・武田と戦いながら軍神と戦をするのはかなりきついと思っていたんだ。こちらに来ないなら北条と戦をしようが信濃に攻め入ろうが内乱を起こそうが好きにしてくれればいい。
「そうか。他に何か報告はあるか」
「美濃に集まっている兵の中に根来衆のものがいました。それもかなりの数が。おそらく根来寺の総意とみていいでしょう」
また面倒な。根来寺と言ったら紀伊じゃないか。康正が分離工作を行ったとはいえまだ僧兵の数は多い。京にいる兵にすぐに制圧させよう。
「すぐに康興に知らせよ。根来寺を焼き払い寺領を押さえるべしとな」




