表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
201/402

織田征伐へ

―――――――――1572年11月1日 二条城 松浦康興―――――――――

大広間に入るとまだ軍議まで時間があるようで数人しか人が集まっていなかった。少し早かったか。適当なところに座っておくか。

「康興殿」

座ろうとすると後ろから康繁殿が声をかけてきた。

「康繁殿でしたか。たしか康繁殿はこのところ朝廷との調整で忙しいと伺っておりましたぞ。康広殿の後は息子ではなく康繁殿とまで言われるほどの活躍だとか」

「いえいえ、それを言うならば康興殿もでしょう。京の治安維持を一手に引き受けておられる。しかもほとんど不満が出ていないとか。この間も公家に会いましたが、行儀もよく働いてくれるから惟宗は足利よりやりやすいと言っていましたぞ」

そういえば先の戦では織田はまともだったらしいが浅井・朝倉の兵がずいぶんと乱暴なことをして不満が溜まっていたらしい。それに比べて惟宗の支配の方がまだマシというだけだろう。

「いえいえ、それは私の手柄ではございませんよ。配下の者がよくやっているだけです」

「ご謙遜を」

謙遜などではないのだがな。実際に仕事をしているのは配下の者たちだ。

「そういえば今日は軍議と聞きましたがやはり織田ですかな」

「そうでしょうな。織田は北畠を後少しで攻め滅ぼそうという勢いです。この辺りで織田を叩いておきたいと思われるのは当然です。ただ上杉との関係が少し不安ですな」

「武田ではなく上杉ですか?しかし一揆攻めの時は協力しましたが」

それとも外交衆だけが知っている情報でもあるのだろうか。

「織田の元へ逃げた義昭が上杉に惟宗討伐を頻りに呼びかけているとか。御屋形様は征夷大将軍職を廃止しましたからな。関東管領である上杉がどう動くか。読めません」

「たしかに上杉は義理堅いと評判ですからな。何をするか分からないところもあります。しかし武田が織田についている以上こちらに付くのではないでしょうか」

「だといいのですが」

上杉が敵に回ると畿内より東側は反惟宗ばかりになってしまう。康繁殿の懸念もわからないでもない。御屋形様も何としてでも味方にしようと思われるだろう。

「そうそう、あの話は聞きましたか。側室である妙様が御懐妊されたとか」

「まことですか。それはめでたい。御裏方様の時のようになかなかご懐妊されなかったので心配されていたと聞いていますぞ」

「ええ。しかしこれで無事に出産できれば庶子とはいえ惟宗の血が流れる子が誕生することになります。男子でも女子でも御屋形様の天下取りに役立つことでしょう」

男子ならばどこかの家に養子になるという手もある。女子であれば嫁いで惟宗と有力大名とのつながりの強化になる。いずれにせよ、子ができるというのは良いことだ。

「子といえば康繁殿は嫁はとらぬのですか」

「御屋形様の御命令で彼方此方に行かねばなりませんので。そのような男の元へ嫁いだとしてもあまり幸せとはいえないでしょう。幸いにも若狭武田家は私が保護しました。後継はそこから養子でも取れば良いかと」

「いやいや、嫁は取った方が良いですぞ」

なんというか仕事に対するやる気の質が変わってくる。それに支えてくれる者が増えるのは良いことだ。

「そうだ、うちの娘なんかはどうだろう」

「えっ」

「うん、それがいい。軍議が終わったらすぐに準備に取り掛かろう。御屋形様にもお知らせせねば」

「あ、いや康興殿」

「失礼します。間も無く御屋形様が参られます」

康繁殿が何か言おうとしたがその前に小姓が入ってきた。皆が慌てて座りなおして頭を下げる。すぐに誰かが入ってきて前を通った気配がした。

「皆の者、面をあげよ」

「「「ははっ」」」

御屋形様に促されて面をあげる。

「よく来てくれた。来月には石山に作っている城が完成するだろう。正月は楽しみにしておいてくれ。そしてそのあとはそのまま織田攻めを開始する」

御屋形様の言葉に皆がどよめく。3年以上かけて作っていた城が完成するのもそうだが織田攻めを始めるのか。ついに御屋形様が天下取りの最終段階に入ったと言ってもいいだろう。織田さえいなければもはや明確な敵になるのは武田ぐらいだ。

「織田攻めは軍を5つに分ける。第1軍は越前より美濃・飛騨に攻め入る。数は4万。総大将は康正、副将は平田成幸・吉川元春に任せる」

「「「はっ」」」

「第2軍は伊勢の平定と長島一向一揆を潰す。数は4万。総大将は貞康、副将は千葉康胤・黒田孝隆」

「「「はっ」」」

「第3軍は志摩にいる織田方の水軍の殲滅・尾張に入る船を撃沈・三河への救援を行う。数は4万。総大将は舅殿、副将は山本康範・佐須盛円」

「「「はっ」」」

「第4軍は近江に攻め入る。数は5万。総大将は俺、副将は小早川隆景・津奈調親」

「「「ははっ」」」

「最後の第5軍は京に入り新たな敵に備える。数は3万。総大将は松浦康興、副将は伊勢貞孝・細川藤孝」

「「ははっ」」

総勢20万か。九州から兵を呼び寄せる必要があるから出陣まで時間がかかるだろうな。しかし第5軍の総大将とは聞いていないのだが。

「織田・武田は7万の兵を動かすことができるだろう。しかし武田は浜松城を囲んだまま動く気配はない。織田も四方から攻められては大変だろう。もし織田が全軍を持って戦を仕掛けてきた場合はまともに戦をするな。時間を稼いでほかの隊が尾張に攻め込むのを待て。兵を分けた場合は信長がいたら時間を稼いでいなければ確実に潰せ」

織田単独では5万といったところだろう。徳川の備えを置かねばならない以上どの軍にも織田は数で劣ることになる。たとえ全軍を持って攻めてきてもまともに戦をさせてもらえず他の場所ではどんどん攻め取られる。敵からしてみればいやだろうな。

「出陣は正月が終わってすぐだ。貞康」

「はい」

「織田征伐が終わったら家督を譲る。そのことも頭に入れて戦をせよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ