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追放

―――――――――――1572年10月20日 近衛邸――――――――――――

「ほほほほっ。ようやく義昭めを追放できたの。これで惟宗の天下はもう目の前と言ったところか」

「いえ、まだ織田や武田・上杉・北条といった大大名が残っております」

「だが以前に比べれば随分と近づいたであろう」

そういうと前久がまた笑う。そんなに義昭を追放したのが嬉しいのかね。


二条城を囲んだ後、義昭はほとんど抵抗することなく降伏してきた。たぶん兄の義輝のことが頭をよぎったのだろう。いつもは威勢のいいことを言っていてもまだ死にたくないらしい。殺そうかとも思ったが殺すということはそれだけの価値を認めていると思われかねないからとりあえず追放とだけにした。なんだかとても降伏したとは思えないような態度だったがさすがに2万以上の兵には勝てないことぐらいはわかっていたようですぐに織田の元に逃げたようだ。そして各地の大名に惟宗討伐を呼びかけている。よくやるよ。俺としてはもう出家でもしてくれないかなと思うが史実でも信長が死ぬまで反信長運動をし続けていたから無理だろうな。仕方ない、さっさと天下統一してこの国から出ていってもらうかな。


「してこれからどうするつもりだ。織田と武田が上洛の準備をしているのであろう」

「はい。とりあえずは今回の騒動の後始末が終わり次第、近江に攻め入ります。すでにある程度は準備が進んでおりますので時間がかかろうとも押しつぶせるでしょう」

北畠の馬鹿どものせいで予定がかなり変わったが何とかなるだろう。しかし何でまた俺の命令を無視して北伊勢に攻め込もうなんて判断ができるのかね。結局、三河から急いで戻った織田に追い払われて今は逆に大河内城を攻められている。何がしたいのかまったくわからないな。もうこの際さっさと滅んでもらおう。一度だけ会ったことがあるが妙に名門がどうとか言っていて好きじゃなかったんだよな。あれが生き残ったら後々面倒だろう。さっさと滅んでもらって伊勢・伊賀は惟宗の直轄地にしよう。そうだ、そろそろ伊賀にも声をかけるか。忍びは多い方がいい。これから織田・武田といった大大名との決戦だからな。


「それで義昭の官位だがどうする。ほかの公家たちはさっさと征夷大将軍を解任するべしと言っておるが」

「いえ、どうせ解任したところで義昭はそれを認めないでしょう。それより良い手がございます」

「ほう。してそれは」

「征夷大将軍職を廃止いたしましょう」

「は?」

前久はかなり驚いたようで手に持っていた扇子を落としてしまった。まぁ、そうだよな。征夷大将軍は武家の棟梁を表す職だ。それを廃止するというのだから驚くだろう。というか家臣たちもかなり驚いていた。

「し、しかし中将は天下を取るのであろう。ならば其方が征夷大将軍につくのがよいと思うのだが」

「いえ、某は源氏でも足利でもございません。そのような者が就いたところで余計な反発を買うだけかと。かと言って義昭に征夷大将軍職を利用されるのはよろしくありません。ならばさっさと廃止してしまえばよろしいでしょう」

「では何の職を持って天下を治める名目とするのだ」

前久が前のめりになりながら尋ねてくる。前久としてはこれからの朝廷の対応に関わるところだから聞いておかないといけないところだと思ったのだろうな。

「南朝の例ではございますが鎮守府大将軍として幕府を開こうかと考えています」

「鎮守府大将軍!また意外な」

そうだろうな。もう誰も長いことこの役職についていないのだ。この時代でも忘れている人は多いだろう。鎮守府大将軍は陸奥国に置かれた軍政をつかさどる鎮守府の長官で、征夷大将軍が武家の棟梁を表す職になる前までは武家の中で最高栄誉職だった。

「三位以上の者が鎮守府大将軍になれば征夷大将軍と同格の扱いを受けると聞きました。これをもって幕府を開こうと思うのですが」

「ふむ・・・よいのではないかな」

前久は少し考え込んだが俺の考えに賛同してくれた。

「今更南朝がどうとかいうものはおるまい。征夷大将軍を廃止するのも義昭や足利の権威を根本から否定することができるという意味ではよいだろう」

「では」

「朝廷での調整は麿が引き受けようぞ。権大納言殿にも協力してもらえばすぐに纏まるであろう」

「まことですか。ではそちらの方向でよろしくお願いいたしまする」

「うむ、任せておけ」

頼もしいな。これで鎮守府太政軍になれるのはほぼ間違いないだろう。

「そういえば貞康の嫁はまだ決めていなかったの。麿が適当な公家の娘を探し出そうか」

「いえ、それには及びません。貞康の嫁でしたら徳川との交渉がうまくいき次第、徳川から迎えようと考えております。むしろ辰千代の嫁を探していただけたら幸いです」

「ふむ、そうか。確か辰千代は12だったの。分かった、麿の養女という形で嫁入りをさせよう」

「よろしくお願いいたしまする」

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