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暴走

――――――――1572年10月15日 大河内城 北畠具教――――――――

「出陣じゃ。戦の準備だ」

儂がそう言いながら大広間に入ると倅や重臣たちがぽかんとしてこちらを見て慌てて頭を下げる。

「父上。それは昨日の惟宗からの指示の事ですか」

「そうだ」

「しかしまだ準備は整っておりませんし出陣は来年ですぞ。いささか気が早いかと」

「何を言うか。長島では一揆の準備が着々と進んでいるのだぞ。今のうちに挙兵して長島や織田をたたくのだ。惟宗も手柄をあげさえすれば文句は言ってくるまい」

顕如が石山を追い出された後、長島に入ったことでかなり士気は高い。商人たちも長島寄りの行動をしていることもあり兵糧の心配もないだろう。ならば早めに長島を攻めて弱体化させておけば大きな手柄となろうぞ。織田も今はまだ三河平定に力を入れているが、惟宗が徳川に兵糧などの援助し始めてから以前より苦戦していると聞いている。たとえ北伊勢に攻め入ったとしても反撃をする余裕はないはずだ。やっと織田に奪われた北伊勢を取り戻すことができる。先の戦では我らが裏切ったとたんに和睦が成立してしまったせいで北伊勢に兵を進めることはできなかった。今度こそ織田から奪い返すのだ。

「すぐに動かせる兵だけでよい。北伊勢に攻め込むのだ」

「しかし惟宗は命令に従わなかったら譜代であっても厳しく罰したと聞いていますが」

「所詮数千石程度の弱小の譜代であろう。北畠は鎌倉から続く武家の名門だぞ。惟宗とてそうやすやすと罰せられるわけがなかろう」

「それはそうでしょうが・・・分かりました。ではすぐに兵を整えさせましょう」

「うむ、まずは織田を伊勢から放逐するぞ。それから長島だ。鳥屋尾、商人たちには長島へ兵糧を売らないよう命じよ」

「かしこまりました」

ようやくだ。ようやく伊勢を北畠の手に取り戻すことができる。織田のような守護代の分家に任せておけるか。そうだ、志摩の海賊どもにも織田を襲うよう指示しておくか。彼奴らは織田が九鬼を召抱えたことを不安に思っていた。不安材料がなくなると思えばよく働いてくれよう。楽しみじゃな。

「兵は儂が率いる。具房はここで兵の準備をしておけ」

「かしこまりました。しかしあまり無理をなさらないよう」

「わかっておるわ」

ふん。このような時は自分が率いると言えないからダメなのだ。次の当主をさっさと決めてこやつは隠居させるか。誰がよいかの。


――――――――1572年10月16日 岐阜城 村井貞勝―――――――――

「ふざけるなっ。お前の役目は大樹の暴走を抑えることであろうがっ。それがこうも簡単に二条城から移されよって。お前はこの戦に勝つつもりがないのか」

御屋形様が烈火のごとく光秀殿に怒声を浴びせられる。このところ惟宗との戦に向けて着々と準備を進められていたが大樹が余計なことをしたせいでそれが一気に崩れてしまった。その怒りを大樹から派遣された光秀殿にぶつけているのだろう。時期が悪かったな。いや、そもそもここに光秀殿が来た時点でダメなのだから不幸な立場に置かれているというべきか。

「惟宗はすでに我々の上洛の動きに気が付いているぞ。甲賀から知らせがあったわ。武田もかなり怒っておろう。誰が大樹に挙兵の準備をさせろなどといった」

「申し訳ございませぬ。しかし大樹の周りにいる者たちの中で挙兵すべきという声が大きいのも事実でして」

「だからそれを抑えるのがお前の仕事だと言っているのだ。今頃は二条城は囲まれているだろうな。大樹は裏で動くだけでよいと言っていたというのに。おそらく惟宗はこれで京から足利の者を一人残らず追放するだろうな。それから征夷大将軍職の解任。もはや大樹に利用価値はなくなると言っても過言ではないわ」

まわりをちらりと見まわすと誰も御屋形様を止めようとしない。仕方ない、儂が止めるしかないか。

「御屋形様、そろそろ軍議に移りましょうぞ。ここで光秀殿に言っても意味はございませぬ」

御屋形様がこちらをぎょろりを睨むと溜息をつかれて座りなおされる。どうやらなんとか怒りを抑えていただいたようだな。

「とりあえず上洛は延期だ。まずは三河平定に全力を尽くす。その上で武田と協力して上洛をする。北条は動かせんのか」

そう言って御屋形様が周りを見渡される。だが誰も返事をしない。

「・・・おそらくは無理かと」

結局答えたのは光秀殿だった。

「北条はこちらまで来る必要はありません。両天秤にかけて勝った方にすり寄れば良いのですから。あてにするのは諦められた方がよろしいかと」

「ちっ。あの時に大樹のために挙兵などしなければよかったわ。馬鹿に振り回させるのは不愉快だ」

「御屋形様」

誰かが嗜めるように声を上げる。しかし御屋形様の言う通りでもある。武田と一揆を恐れすぎた。このままでは尾張で一郡を貰えれば良い方であろうな。

「武田はどうしている。まだ浜松を落とせんのか」

「残念ながら」

「くそがっ。この際さっさと和睦をするか」


「失礼いたします」

そう言って小姓が入ってきて御屋形様の元へ駆け寄る。そして御屋形様に書状を渡すとすぐに下がった。御屋形様は書状を開くとざっと目を通されるがかなり顔が赤くなりつつある。

「御屋形様、如何なさいましたか」

「惟宗が二条城を囲んだ。そして北畠のアホが単独で攻めてきよったわ」

「なんと!」

「すぐに兵をまとめて尾張に戻る。北畠を叩き潰して伊勢を今度こそ手に入れるぞ。武田には残りは切り取り次第勝手と伝えよ」

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