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義昭再挙兵

――――――――――1572年10月1日 二条城 大舘晴光――――――――

「挙兵だっ。皆の者、挙兵の準備をせよ」

「お待ちください。挙兵は時期尚早です。せめて織田・武田が惟宗と戦を始めてからにしてくだされ」

大樹の御言葉に光秀殿が反対の声をあげる。

「それでは遅い。その頃になれば惟宗はまた全軍を動かすぞ。そうなれば挙兵の機会も潰えよう。しかし今であれば惟宗はまだ織田・武田の動きに気づいていない。今が好機だ」

「しかし例え挙兵したとしても勝てますか?惟宗はすでに北近江を制圧したのですぞ。それも比叡山を焼き討ちにして」

10日ほど前に堅田の門徒と比叡山の僧が惟宗と戦をした。その戦は普通に惟宗が勝ったのだがその後が問題だ。門徒と僧は戦に負けた後、比叡山に逃げ込み朝廷に戻った覚恕親王様を頼って黄金の判金500で和睦を図った。しかし惟宗はそれを一切受け入れることなく比叡山を焼き討ちにしたのだ。そのせいで浅井の残党は全滅。比叡山とそれに味方した日吉神社も大半が焼けてしまった。このような暴挙がまかり通っていいわけがない。だからこそ挙兵して惟宗を懲らしめなければ。

「おそらく惟宗は織田・武田の動きを不審に思っているはずです。そこに我らの挙兵が伝われば惟宗は織田・武田の動きに気付きかねませんぞ」

「もう遠江の大半と三河の半分は制圧したのであろう。気づかれたところで問題ない」

「それは大樹の都合ですぞ。織田・武田からしてみれば全軍の数で負けている以上できるだけ惟宗に知られずに奇襲を仕掛けたいはずです。どうかギリギリまで待ってくだされ」

確か織田と武田で約7万。確かに惟宗の全軍が相手では厳しいな。だがいま近江にいる惟宗の兵は4万だったはず。なんとかなるのではないか?

「いましかない。比叡山を焼き討ちにした惟宗についていこうなどと考える者はいないはずだ。北畠・筒井・上杉といった大きな勢力も敵対はしないまでも惟宗の味方にはならない。今しか惟宗を追い詰める機会はないのだ」

「確かにそうですがもう少し慎重に動くべきです。惟宗はこの京に兵を置いているのですぞ。もしここで惟宗の兵が踏み込んで来たら」

「そのようなことがあるわけがなかろう。余は征夷大将軍ぞ。いったい何の権限があってこの城に踏み込むというのだ」

「惟宗は比叡山すら焼いたのですぞ。これまでの常識が通じるとお思いですか」

「ええい、うるさい。すぐに準備をせよ。光秀は織田の者へ行きこちらに織田の動きを報告するようにせよ。よいな、これは決めたことだ」

「・・・はっ」

大樹の強い御言葉に光秀殿も渋々というように頭を下げる。大樹の家臣なのだから大樹の指示を聞いていればよいのだ。


―――――――――――1572年10月10日 小谷城―――――――――――

「大樹に挙兵の動きありか」

道理で織田の動きが妙だと思った。織田と武田が協力したのに徳川を潰すだけで終わるはずがないよな。惟宗を除けば天下に最も近い大名たちだぞ。それが協力するなら一番天下に近い惟宗を潰すために決まっている。おそらく適当なタイミングで合流して上洛するつもりだな。そしてそれに合わせて義昭が挙兵する。

「それでいつ頃挙兵するかわかるか」

「すぐに挙兵してもおかしくないかと。堺の代官である正信殿から和田が兵糧などを調達しようとしていると報告がありました」

「正信か。そういえば徳川から救援をと使者が来ていたな」

使者は史実では徳川十六神将に数えられる大久保忠世だったな。織田領に攻め入ってほしいと言っていた。その時は加賀が片付いていなかったから返事はまだしていなかった。今は加賀の平定は終わったけど能登の畠山が加賀の一揆勢に味方していたから能登を攻めている。上杉もあと少しで越中を制圧できるみたいだし武田の背後を突くよう頼んでみるかな。それと能登を制圧した後は織田領を攻める。そうなると織田領に攻め入るのは来年かな。

「よし、康興に二条城制圧の準備をさせろ。それから足利がよく逃げ込んでいる朽木を見張れ。長政にも配下が馬鹿な真似をしないよう見張らせておけ」

長政には高島郡を安堵している。そして朽木は高島郡の国人だ。ここで義昭が朽木谷に逃げ込んで朽木が匿うようなことがあれば長政を攻めないといけないな。

「近江にいる兵は2万を残して残りは京に戻る。京に戻り次第二条城を制圧するぞ」

いい加減、義昭には京から出ていってもらわないとな。おそらく京を追われた義昭は信長を頼るはずだ。それを理由に攻め入ろう。

「それから織田・武田の監視を増やせ。北条にも人を入れろ。北条は武田と同盟を結んでいる。おそらく上杉の邪魔ぐらいはするはずだ。それからほかにもどの大名が味方になっているか確認せよ」

「はっ」

義昭が挙兵するということは前の戦と同じくらいの戦力が味方しているということだろう。伊勢の北畠や大和の筒井にも戦の準備をさせよう。

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