奉行
――――――――――1538年9月5日 岸岳城――――――――――――
はぁ、やっぱりひどいことしちゃったなぁ。
「熊太郎様、ため息などつかれていかがなさったのですか」
爺が心配そうに見てくる。爺は子供がいないから俺を子供か孫のように思っているのかもしれないな。そんな爺に隠し事ができてしまったな。
波多壱岐守盛と鶴田直を渋江公親に殺させてその渋江公親を殺した。時間をかけずに攻略するにはあれが一番良かったと思っている。これ以上時間をかけると今年の収穫にかなりの影響が出てしまう。兵を損なわずに早く攻略するには暗殺して混乱しているうちに城を乗っ取るのがいいと思った。このことを知っているのは北原と俺だけ。今後も誰かに言うつもりはない。
「いや、何でもない。それより伊万里・有田からは?」
「手紙を読むとすぐに怒って使者を追い返したようです」
まぁ、そうだよな。いきなり隣の領主が討たれたと思ったらそいつが服属しろなんて言ってきたんだもんな。伊万里氏は伊万里浦に勢力を持つ松浦党の一家で居城はなかなかの要塞、有田氏は一応松浦党の一家だが実際は相神松浦氏の支配下に置かれている。
「では、次は伊万里と有田だな。兵糧に余裕はあるか」
「今年の収穫がどれほどの量になるかわかりませんのでなんとも言えません。領内を安定させるためにとうぶんは戦をしない方が良いかと」
「では、外交で圧力をかけるか。康広にまた朝鮮に行ってもらおう。あとは新しく奉行も決めておくか」
今回の戦で領地が倍近くまで増えた。それ自体はいい事だがその領地を管理する体制が整っていない。早めに決めておかないと。そうだ、ついでに分国法を定めよう。うん、思い立ったが吉日だ。
――――――――――1538年9月15日 岸岳城――――――――――
「これより、新たな奉行などを発表する」
「「「はっ」」」
「まずは作事奉行、平田成幸」
「はっ」
作事奉行は建物の築造や修繕を行う仕事だが今回は土木関係の仕事を行う普請奉行と合わせてしてもらう。
「次に寺社奉行、井手智正。これは寺社の監視も含まれているからしっかり務めてくれ」
「かしこまりました」
寺社奉行は社寺を担当するほか折衝・取次を担当する奉行で社寺からの訴えをとりなすのも寺社奉行の仕事だ。
「次は公事奉行、佐須盛廉」
「はっ、かしこまりました」
「御倉奉行、倉野茂通」
「へっ?あ、かしこまりました」
公事奉行は恩賞の支給の是非を判断して安堵状の発給や安堵に相論などをつかさどる役で御倉奉行は財産の管理・出納を行っていた役だ。
「次は新しい役だ。まずはこれからの戦を戦略的戦術的に考える兵法衆だ。これは小田盛長・山本康範」
「はっ」
「おうよ」
「次は常に兵糧・火薬・弾丸などを管理する兵站衆。津奈調親」
「はっ」
「そしてほかの大名・幕府・朝廷・外国との交渉を担当する外交衆。柚谷康広」
「承りました。誠心誠意努めさせていただきます」
いいね、働く意欲があることはいい事だ。さっそく働いてもらおうかな。
「これに北原頼氏を加えた9名を評定衆とし、月の初めに大評定を行う。兵法衆・兵站衆・外交衆・評定衆は能力や手柄次第で加えていく」
「「「はっ」」」
――――――――――――同日 岸岳城 佐須盛廉――――――――――――
やれやれ、熊太郎様にはいつも驚かされるの。兵法衆に兵站衆・外交衆か。しかし副将は付けないのだろうか。
「最後に我が領内で使用する分国法を制定する」
皆がざわざわと騒ぐ。もちろん儂も驚いている。
「内容は後で紙にまとめて発表する。何か不備があった時は言ってくれ」
「熊太郎様、その分国法は何か参考にしているので?」
「あぁ、今川仮名目録を参考にした。もし幕府が何か言ってきても御一門の今川の真似をしただけだと答えれば良い」
そこまで考えられていたのか。まだ7歳だというのに頼もしい事だ。これから経験を積まれていくだろうから元服の頃には肥前一の大名となっているだろう。
「他に何がないか。ないのであれば伊万里・有田攻めに話を移すが」
熊太郎様が周りを見渡す。皆からは特にないようだ。
「では、伊万里・有田攻めだな。と言っても領地が増えた今、すぐに兵を出すことはできん。なので他の面で圧力をかけていこうと思う。柚谷」
「はっ」
「さっそく外交衆の出番だ。朝鮮に行き伊万里・有田からの交易を止めさせろ。おそらく倭寇を匿っていると言えば止めるはずだ。できる限り認めさせろ」
「はっ」
銭を稼ぐことで我らは力をつけた。敵も同じことをして力をつけないようにしようということか。
「次は頼氏」
「はっ」
「相神・平戸松浦に人を入れろ。伊万里が相神松浦から離れようとしていると噂を流せ。それから大村・有馬・龍造寺・後藤・大友の動きを探れ。特に大友は嫡男が他所ものをよく召抱えていると聞く。そばに人を入れろ」
「千葉はいかがなさいますか」
「あそこは西千葉と東千葉で対立しているはず。当分は争い続けるだろうからそのままでいい」
「はっ」
熊太郎様はもう肥前の後の事に目を向けておられるのか。しかし少し早いような気もするが・・・まぁ、足りないところは我ら家臣が補っていけばよい。それが我らの役目じゃ。
「次は山本。伊万里の湊に近づこうとしている船をすべて襲え」
「はっ」
「では、半年後の田植えの時期に伊万里・有田攻めを行う。皆準備を怠るなよ」
「「「おぅ!!!」」」




